第17話 ふるぼっこ

 巨人のいないジャイアントカプリコーンズなんて、楽勝じゃないの~? と思ってかどうかは知らないけど、試合当日はノール・コロシアムには1000人以上の観客が押し寄せたの。


 え? 少ないですって? そりゃスポーツ文化が浸透した大都市と比較されちゃ困るわよ。私たちの地域はまだまだ復興段階の地方都市レベルですからね。


 今日はマオもナオもそろっているから、お客さんが100人来ようが問題はないの。食材の発注準備も万端だし。今度は厨房スペースが足りないくらいだわよ。


 と思いきや、試合前からお店に入りきらないくらいのお客さんがいらっしゃった。こりゃノーブラには是が非でも勝ってもらわないとね!


 私はさっそく、お店の外にオープンテラス形式の座席と水晶玉を配置し、冷やしたエールの樽を置き、サラダバーを準備。そして、当店一押しメニューのミートパイを各テーブルにしっかりと行きわたらせたところで試合が始まった。



 さすがに前節の試合をチェックされているからか、トミーは複数の選手にマークされ、身動きが取れない。だけど、ショットガンフォーメーションの良いところは、状況によって臨機応変に攻撃を組み立てられるところなのよね。トミーが無理なら左サイドのデヴィッドにってことで、ジョンモンタナがボールをつなぐ。守備陣の主力を欠いて迫力に欠けるカプリコーンズはその攻撃を止めることができない。


 ショートパスを軸に手堅く攻めるノーブラは、波のように相手守備陣に揺さぶりをかけていく。徐々に堤防を侵食していくように敵の穴を突いていくと、最後はやはりデヴィッドが相手のタックルをかわして最初のタッチダウンを奪った。


 一方、相手の攻撃陣はランで突破を試みようとするも、訓練されたノーブラ守備陣に絡め取られて前進できない。焦った相手が3rdダウンに放ったパスはトミーが待ち構えていたかのようにキャッチし、インターセプトリターンタッチダウンを決める。



 この段階でコロシアムも店内も(もちろんお店の外も)全員総立ち。まるで勝利を確信したかのような勝利のチャントが沸き起こった。みんな気が早すぎるよ!


 私は店内の状況を見ながら適宜フードの追加注文を相良急便さんに入れ、厨房に戻ると揚げ物をどんどんお皿に乗せていく。今の調子だと材料はあと3箱は必要ね。



 試合の方はカプリコーンズがランで強引に突破を図るもなかなか10ヤード獲得することができず、4thダウンでのフィールドゴールも決まらないまま、ノーブラの攻撃をまともにくらう展開。前半だけでトミーも3タッチダウンを奪い、一方的な展開で前半を終えた。



 さあ、お店はここからが本番だ! 私が肉を焼く匂いを店内に漂わせる間に、マオとナオがエルフの里で仕入れた新しいワイン樽をお店の中と外で開封する。たちまち群がるお客さん。


「まだまだお客さん増えて来てるよ!」

「ワイン、全部売れちゃった! 追加で注文お願い!」

「オッケー! 肉をどんどん運んじゃってー!」


 やっぱりアツアツを食べてもらわなくっちゃね! 薄く切ったシュラスコもいいけれど、私は冷めないうちに軟らかくてがっつりいける肉をみんなに食べてもらいたいの。どんどん焼くわよ!


 こうして私が料理に専念できるのも、全体を見てくれるマオと細かい気配りができるナオのおかげ。お店から歓声が上がるのはきっとティモニーズのダンスのせいね。


「お待たせしました! ご注文いただいたマティス海の幸です!」

「ありがとうございます! 伝票そこにお願いします!」


 勝手口に並んだ木箱に入った魚を私はさっと見て、それぞれ火にかけたり、鍋に入れたり。これも仕入れ先に下ごしらえをお願いしているからこそできることなの。同じ魚でも取れる場所によって味も違えば、合う調理法も違う。沖の魚と磯の魚は味が全然違うの。だから仕入れ先に話を聞いて、できるだけ鮮度と素材の良さを引き出すレシピを手に入れていたのよ。これを出すのは試合終了後にチームメンバーが帰って来てからだけど、今日の様子なら何とかなりそうだわ。



 そうこうしているうちに後半戦が始まった。厨房を出て各テーブルを見たところ、揚げ物の皿もお酒もまだ残ってる。パンも余っているし、一息つけそうね。


 後半もノーブラの勢いは止まらない。開始早々にトミーがインターセプトリターンタッチダウンを決めると(やはりゴールポストには勝てなかったけど(笑))怒涛の勢いで得点を積み重ねていく。そしてそろそろかな? と思ったときに出ました! ワイルドキャットフォーメーション!


 QBのジョンモンタナがするすると敵陣近くに上がってゲームがスタートすると、センターくんのスナップをキャッチしたのはFBのベン! 彼はそのまま左翼を突破すると、相手につかまるギリギリのところで、ライン際を抜け出ていたデヴィッドにパス。するとデヴィッドは無人の敵陣をそのまま走りきり、タッチダウン!


「ウォオオオオオ!!」


 これまで見たことのないプレーに店内でどよめきが起きた。これよこれ! 私はこれを聞くためにここで働いているの!


 私はそのまま厨房に戻ると、調理と片付けをこなしつつ、さらなる食材の発注をかける。ここで食材切らしたら末代までの恥だもの!


 売り上げの収支を確認してからもう一度フロアに出ると、マオとナオが外に追加のテーブルを設営してくれていた。確かにこの流れだとお客さん帰りそうにないわ~。


 試合はそのまま相手に1点も取らせず、65-0で圧勝した。今日のMVPは5タッチダウンを決めたデヴィッド。トミーは190ヤード獲得したけど、残念だったわね(笑)。


 だけど、私たちホークル3人娘の戦いはこれからが本番だったの。

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