第6話 ワイルドキャット
「マスター、わかりました! トミーくん、フリスビーやりたいそうです」
「そうか。さっそく買ってきてやれ。そしてそのままペット屋に売り払ってこい!」
あれ? 何かおかしいな?
「そういえばマスター、QBってなんなんですか?」
「QBってのは
「じゃあ司令塔ですね?」
「そうだな」
「頭良くて瞬時の判断力が必要なんですね」
「そうだ」
「イケメンでないとつとまらないですね」
「それは関係ない!」
「というか、私いまだにわかってないんですが、マスターの好きな『フッボル』は、スポーツの中の一つの種類なんですよね? 今の我々の『スポーツ』って元々なんて言う名前のスポーツだったんですか?」
「
「え?」
「フッボルアメリカーナ」
「もう一度お願いします」
「フッボルアメリカーナ」
「…………」
「だから『スポーツ』でいいんだよっ! うるせーな! スポーツなんかない国だったんだからそれでいいんだよっ!」
「あ、思い出しました。実はトミーくん、犬じゃなかったんです」
「うそだろ?」
「いえ、本当です。あいつはやりますよ。Wなんとかを」
「なんだそりゃ?」
「えーっと、たしかWCだったかな?」
「トイレに行きたかったのか?」
「いえいえ、だから犬じゃなくて……」
「ネコだったのか? え? ひょっとして
「そう! きっとそれですよ!」
「ふむう……」
マスターがあごひげに手をやって考える。よし、これでトミーはWC行きだ!
「ミオ、明日からお前、モヒカンにして来い」
「だからなんで私なんですかーっ! っていうか、スポーツってモヒカン前提なの? なんかおかしくね?」
「チームの結束を高めるためだ!」
「というか、私チームメンバーにはなりませんからっ!!」
「ジョンモンタナの髪は俺が剃ってやったんだが、あいつ一晩泣いていたな」
「ひでぇ……」
「というわけで……」
「いや、私じゃなくてトミーくんにしてあげてくださいよ!」
「バカ言え! 動物愛護団体から訴えられるだろーが!」
「ですから犬じゃないってば! ネコでもないって!」
「ふむぅ……」
「…………」
マスターは再びあごひげに手をやって考える。
「……トミーをモヒカンにするのは、やはり……かわいそうだ」
「私ならいいのかよっ!」
怒った私は控室を出ていき、掃除を続けていたトミーを連れて戻ってきた。
「マスター、この子、ノーブラに入る意志があるんですから、モヒカンにでもなんにでもなりますってばっ!」
「えっ? ちょ、モヒカンはさすがにかんべ……」
私はトミーの後ろに立つと、彼のお尻を思い切りつねった。
「ギャヒィィー!」
「(耳元で)おっとそんな声出したらキャノンが喜んでやって来るわよ」
ホークルに伝わる妖怪伝承でトミーを説き伏せてから、私はマスターに向き直って言った。
「この子、犬でもネコでもない、れっきとしたホークルですから。大丈夫です。私なんかより全然強いですから!」
すると、マスターがトミーにたずねた。
「なぜワイルドキャットがやりたいと?」
「だって、現在のノーブラのオフェンスって、ほぼショットガン・フォーメーションですよね? 選手の能力を生かし切れていないかなって思ったんです。確かにランは手堅いですが、場合によっては博打を打つ必要もあると考えます。その際に、ジョンモンタナのロングパスの精度に問題があるのであれば、ワイルドキャットもありかなって、思ったんですが……って、なんでこの話に?」
マスターは腕を組んでトミーの話を聞いていた。私にはトミーの言葉の意味はもちろんわからなかったし正直どうでもよかったが、モヒカンにされたくなかったのでトミーに全力だった。煮え切らないマスターに、はっきり聞いたのだ。
「マスターにはトミーをノーブラに入れられない理由でもあるんですか?」
「ああ、ある」
「「ええっ?」」
私とトミーで思わずハモってしまった。ためらいながらマスターが説明を始める。
「実はすでに、ノーブラでは『トミー』という他の選手を登録しているんだ」
「それだけ? 理由ってそれだけなの?」
「ああ。そして『ミオ』という選手名にはまだ空きがある」
「そんな理由で私に決めるつもりだったのか―っ!!」
「じゃあ、僕が名前を変えればいいわけですね?」
「「えっ?」」
今度はマスターと私がハモった。やばい。
「登録名、マスターにつけてもらって結構です、それでノーブラに入れるなら」
「いいのか? 本当に」
「大丈夫です。どうせ登録名だけですよね?」
「それはそうだが……」
その時のトミーの表情には強い意志が見えて、少しドキッとしてしまったのは内緒だが、しばらく無言で考えていたマスターの登録名が悲惨すぎて全てをぶち壊した。
「今日からお前は『ババンガバンバンギダ』だ!」
これが、伝説の勇者「ババンガバンバンギダ」が誕生した瞬間なのだった。
もちろん「ありがとうございます」と言って控室を出て行ったあいつは、涙を流して泣いていたが、それが喜びのせいなのか嬉しさのせいなのか、それとも別の理由があるのかはわからないままだったことにする(棒)。
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