第2話 ノーサイド
実は私もこの店に来るまで『スポーツバー』ってのが何なのか知らなかったのよ。マスターによると、スポーツっていうのは運動というか、目的をもって体を動かすことらしくて、私が「スリングショットとかのこと?」って聞くと、逆にマスターはスリングショットを知らなかった。ただ、だいたいその解釈で合っているらしい。
マスターは別の世界から来た人らしいんだけど、彼が元いた世界では大勢で行うスポーツが大人気で、お酒を飲みながらみんなで観戦して盛り上がるのがスポーツバーという場所だったらしいのね。テレビとかいうもので試合の生放送を見るとかなんとか言ってたけど、こっちの世界では代わりに魔法で大きな水晶玉に映るようになってる。ちなみにマスターは「フッボル」というスポーツをしてたらしい。それがどういったものなのか、聞いてはみたものの、私にはよくわからなかった。スコーピオンキック(※1)ってのを練習するらしいけど。
でも私が本当にびっくりしたのは全然別の話だったの。実は我が国「ノールランド」は地理的に多くの諸国に囲まれた、争いの絶えない地域だったんだけど、戦争のかわりにスポーツする提案を各国に申し入れつつ、和平協定を結ぶことによって、各国との交流の中心的な存在にのし上がることができたの。そしてそのために尽力したのがこのマスターだったってわけ。すごいでしょ!
本当はマスターは自分が好きなフッボルをこの世界に広めたかったらしいんだけど、その時はマスターの実力が抜きん出過ぎていたので公平性を欠く、として認められなかったんだって。で、代わりにこの世界に広まりやすく、多くの者に共感してもらえるルールをマスターが決めて各国に同意を求め、了承された。だからマスターはこう見えて平和の使者だったのよ(マスターもフッボルをあきらめたわけではなくて、自分と同レベルのフッボル選手を各国が召喚できないか申請してるみたい)。
もちろんそのスポーツだって危険がつきものであることには変わりはない。だけど戦争と違って家を破壊したり森や田畑を焼いたりすることはないから、一度に多くの命が失われることはないの。もちろん選手たちにとっては死と隣り合わせの危険な仕事だということはわかっているけれど、彼らは国の代表として戦うことに誇りを持っているし、必然的に英雄扱いされるから職業軍人にとってはうってつけの仕事だったみたい。
そんなわけで最近まで平和な理由に気付かなかった私が言うのもなんなのですが、この世界はスポーツを中心に回り始めたの。え? もし負けたら領土を奪われたりするんじゃないかって? それがまたマスターの凄いところなんだけどさ、リーグ戦って仕組み(実はよくわかんない)で全ての相手国と戦って勝ち点の多さを競うことで年間王者を決めるんだけど、翌年には再び最初からやり直しなのね。だから優勝国は1年間だけ栄誉を受け取ることができるわけで、各国が納得することになったの。
元々戦争なんて血気盛んで野蛮な人の野心が起こす理不尽な殺し合いだったわけだけれど、そういった闘争心をスポーツという形で娯楽として消化しつつ、発展させたのがマスターの凄いところなのよ。彼は昔、元の世界で「エル・ロッコ」(※2)という通り名で呼ばれていたんだって。なんかかっこいいっ!
と、ここまでマスターをほめまくった私ですが、異性として好きかどうかは別の話。だってマスターもうおっさんだし、父さんより年上なんだもん。彼はいまだ現役バリバリのつもりらしいけどさ。よく「お前みたいな小便臭いガキには興味ねえ!」って言われるし。ムキーッ!!
だけどね、マスターのおかげで
前にマスターが一度言っていたんだけど、マスターのやってたフッボルでも、体が大きい選手が有利なんだって。それほど大きくなかったマスターは本当に努力して結果を残すことで国を代表する選手になったらしいの。もちろん直接この目で見て確かめられるわけじゃないから本当の話なのかどうかはわからないけど、私は信じてる。どう見てもマスターが嘘をつきそうには思えないのよ。
なぜかというと、ああいう人ってリップサービスも仕事だったりするじゃない? だけどマスターは昔、ちょっと気の利いたことを言ったつもりが本当にバカだと思われたらしくって、その時のことをいまだに引きずっている(※3)のよ。それに同業者に対してはリスペクトしてるから、たとえそれが敵だったとしても敬意を表するところがあって、なんか尊敬できるんだよね。最近の若い子とは違うというか。たまに「ディエゴ(※4)だけは絶対に召喚するな。笑いすぎて世界とモラルが崩壊する」とか真顔で言ってるけど……。
とりあえず今日はここまでです。次回は我々のチーム「ノーブラ」とポルポル王国のチームD&D(ダメンズ&ドラゴンズ)との戦いを観戦するゾ!
※1 動画で見ることができるみたい。
※2 調べないであげてください。
※3 「イギ〇タ 名言」で調べるといろいろと出てきます。冗談だったようです。
※4 マラド〇ナさんとかなんとか言っていたような気がするけどよくわからない。
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