第25話 エピローグ

 妖魔王は討伐され、町には平和が戻った。

 学校に帰ってきた道花達をみんなが祝福してくれた。

 道花達は市長からパーティーに招かれ、感謝状を受け取った。

 こうして町のみんなが天剣の武芸者の働きを知ることとなった。



 何だかみんなに褒められて、カメラのフラッシュも焚かれまくって疲れてしまった。

 道花が休憩がてらパーティー会場の外の廊下に出ると、そこでよく知った男の声が掛けられた。


「よう、もてもてだな、最強少女。今や町を救ったレジェンド様か」

「勇一君。もうからかわないでよ」


 そこにいたのは同じようにパーティー会場で正装している勇一だった。

 彼は珍しくいつもの挑発的な態度ではなく、穏やかな紳士みたいに話しかけてきた。


「あの戦いの時にな。お前、俺にありがとうって礼を言ったよな」

「うん、言ったね」

「今までの俺より強いって奴らはみんな俺を見下すか恐れるかする奴らばかりだった。お前ぐらいだぜ、俺に礼を言った奴は」

「ん? そう?」


 道花にとっては礼を言うなんてごく普通の当たり前のことだと思っていたが。

 勇一は面白そうに笑っていた。


「だからよ。俺からもお前に言ってやるぜ、妖魔を倒してくれてありがとうってな」

「こちらこそ、助けてくれてありがとう」

「フッ、じゃあな」


 勇一はそれだけ言うとさっさと立ち去ってしまった。

 なんだか知らないけど少しは仲良くなれたのだろうか。

 だとしたら嬉しいなと思う道花だった。




 それから数日後、学校で始めての他クラスとの実技の合同授業をすることになった。

 相手は勇一のクラスだ。試合会場に2クラスの生徒達が集まった。


「それでは春日さん。ここへ来てみんなに手本を見せてください」

「はい」


 先生に呼ばれて、道花は檀上に上がった。

 対戦する相手を先生は選ぼうとしたが、


「相手は……うーん、誰がいいでしょうね。春日さんの好きな相手を選んでくれていいですよ」

「分かりました。それじゃあ……」


 先生に任されたので、道花は戦う相手を自分で選ぶことになった。

 好きな相手と聞いて璃々の背筋がびくっと跳ね上がり、兎が数回瞬きし、勇一が鼻で笑った。

 豪は今頃、低獄中で勉強している頃だろう。

 道花は檀上からみんなを見下ろして言った。


「実は前から戦いたいと思っていた相手がいるんです」

「へえ、それは誰ですか?」


 先生に聞かれ、道花はその子の方を見た。

 相手も視線で気づいたようだ。びっくりして頬を赤く染め、目を見開いていた。

 道花は囁くようにその子の名前を呼んだ。


「楓ちゃん、相手をお願いできるかな」

「あたしで道花ちゃんの相手が務まるかなあ」


 楓は戸惑いながらも檀上に上がった。

 道花は友達でまだ剣を交えたことの無い相手を選んだだけだ。

 そうと気づいた璃々が息を吐き、兎が眉を伏せ、勇一はやれやれと肩をすくめた。

 楓が緊張した顔で壇上に来る姿が、ずっと前の自分のように道花には見えた。

 校長先生から決闘をやれと言われた時は何をするのかと思ったものだが、今世界は平和だ。

 都会の町は再び現れた天剣の武芸者が妖魔を討伐した土地として、新たな発展を見せ始めている。

 次の新入生は増えそうだと校長先生は喜んでいた。

 みんなの視線を集める中で、道花は楓と向かい合った。


「楓ちゃんとはまだやったことが無かったよね。やろうよ、試合」

「道花ちゃんが相手だからって……でも、だからこそ? 手加減しないからね」


 意外な気迫をぶつけられて道花はちょっと身震いした。

 この感覚は嫌いじゃない。世界にはまだまだ知らないことがある。

 道花は剣を振るう武芸者として相手と向かい合う。

 暖かい季節の空気を感じた。

 歓声の上がるステージで、少女達の剣を打ち合う音が鳴り響く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

天剣道花伝 けろよん @keroyon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ