Task for the life
長峯 策之
第1話 プロローグ
ーはるか昔、どの文献にも記されていない小さな村の集落での出来事…
たすくは幼い頃から、どこか常人でない様相を呈していた。異質というべきか、捉えどころが無いと言うべきか、得も言われぬ存在感を周囲に示しては、とかく孤立していた。両親は息子の将来を憂えていたが、対策を打つべく素養もなくそのまま時が過ぎて行った。成長の過程で、どういうわけか身長が村の中で抜きん出て高くなり、それがますます彼の孤立感を深刻なものにさせた。
大きいとは言えない集落の習性から、村人たちが働かせる排他的な考えは強く、何かとたすくは話題のやり玉に挙がった。それはそれは凄惨な内容で。
「聞いた話だが、ここの村の収穫は他の村に比べて少ないらしい。あの大男のせいではないのか?この原因は。」
「そりゃそうだろうよ。なんだあの体型は。あれは疫病神かなんかの化身だ。あの男がこの村に生まれてからというものの、川の水は枯れる。イナゴがしょっちゅう田圃の稲穂を台無しにする。酷い有様だ。」
もしこうした彼らの感情が、直接的にたすくに対する加害行為へとつながっていたら、立ちどころに彼も廃人へと化していたことだろう。惨憺たる宿命を背負わされた彼の唯一の救いは、村の治安が良いことであった。村長が人徳者であり、弱者に対する集団の暴行については殊に厳しく取り締まっていた。これにより、筆舌につくしがたい陰口や非難を浴びていた彼も、精神を瓦解させることなく今日まで生きることができたのである。
そして、この村の治安が良い理由の一つに…。――― 否、むしろこれが要因と言うべきなのだが ――― 村長には、それはそれは美しい娘がいた。名前をきいやんと言った。陰湿な面持ちを浮かべながらたすくの悪口を話す村人たちも、そこへきいやんが現れようものなら即座に静まり返り、息を飲みながらきいやんの美貌に、ただただ萎縮するのであった。男性であれば誰もが、きいやんの機嫌を損ねるのを嫌がった。しかるに、たすくの安全は保たれた。
人望の無かったたすくは日ごろ畑仕事以外にすべきことが無かった。外へ出て歩いても村人たちの冷たい視線を浴びるだけであるし、酷い時は石も飛んでくる。よって彼の日常は、必然的にその大半を家で過ごす。ただでさえ娯楽の無い世の中、おまけにその限られた空間の中で、娯楽を独力で創造することを余儀なくされた。試行錯誤の末、彼は一つの娯楽を創造した。それは正方形の薄い木の上に81個のマスを描き、そのマスの中に小さな5角形の木を並べるという、奇怪な遊びであった…。
Task for the life 長峯 策之 @nagamine1986
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