Scene.52 暴力の連鎖
「真理、それにミストとか言いましたね。サマエルの魂を渡しなさい」
ザカリエルの冷たい声、それに冷酷に向けられたプファイファーツェリカの銃口が2人を突き刺す。
(真理、何とか安全に喰うのに1分かかる。1分だけ時間を稼いでくれ)
(分かったわ)
意を決してミストはサマエルの魂を飲み込む。と同時に真理は彼女を連れて一気に地面を蹴って飛び、その場を後にする。
「行きなさい!」
少女たちが追いかけながら銃声の重奏を奏でる。さすがの真理も何十発を弾丸を喰らうと結界は壊れ、≪
彼女は魔力を消費してぐんぐん加速し、飛び去っていく。
「あと45秒!」
「美歌、サマエルの魂を持ち逃げした悪魔たちを始末しなさい!」
ザカリエルはスマホで連絡を取る。通話相手はけだるそうな返事をして仕事を始めた。
ミストと真理の2人と合流した
「美歌!」
「安心しろ。すぐに終わらせてやる」
彼女は言うなり光の球を両手から乱射する! 3人は散開して避ける。3人ともギリギリで回避しているが、避け切れずに乃亜の右腕が光の球に飲み込まれて消滅する! さらにそれが隙になり追撃を喰らって下半身が消滅した。
「真理、あと20秒だ。あと20秒だけ耐えてくれ!」
「うんわかった。何とかしてみる!」
真理は大斧を美歌目がけて振り下ろす! が、大鎌の刃で逆に砕かれてしまう。反撃でチェーンソーのように唸る大鎌の刃で腰の部分から横に一薙ぎされ、地面に転がってしまう。
(……あと10秒!)
「オイ、サマエルの魂を寄こせっつってんのが分かんねえのか?」
「返してほしければ身体を裂くんだな」
「あっそう。そんなこと言うのね」
(3……2……1……)
美香の大鎌の一撃がミストを頭から両断する。が、次の瞬間、サマエルの様な超高濃度の魔力がミスト、真理、そして兄からの身体から放出される。サマエルの魂を完全に喰い、その莫大な魔力を己の物としたのだ。
真理の身体の断面からはアメーバ状の肉がはいずり、2つに斬られた身体が切断面でくっつき、1つになる。
乃亜の身体も欠けた部分から肉が盛り上がり、無くなった右腕と下半身の形となる。
「おもしれえなぁ、お前たち。どんだけ強くなったかオレ直々に検査してやる。光栄に思えよ。最高に鋭いパンチを1発頼むわ」
リクエスト通り乃亜が渾身の一撃を放つと彼女の結界をぶち破り、胴体を貫通した。どてっ腹に風穴があく。
「……え?」
その後ろから真理が大斧で頭からへその部分まで一気に切れ込みを入れる。
さらに前に出たミストが拳の乱打を叩き込み、全身の骨と顔を粉砕し吹き飛ばす。吹っ飛ばされた美歌は城の壁に身体がめり込んだ。
美歌の身体は急速に風穴がふさがり、傷が癒え、折れた全身の骨がバキボキと音を立てて繋がり、潰れた顔も端整な顔立ちへと戻っていく。
「調子こいてんじゃねえぞ▲%#&野郎がぁ!」
汚い言葉を発しながら彼女は刃がチェーンソーのように回転する大鎌を出し、斬りつける。兄はそれに拳を重ねると大鎌が真ん中からバキリとブチ折れた。
「バ……バカな!?」
不意を突かれた形になった妹は兄の蹴りを食らって城の中へと突っ込んでいった。
「そ、そんな……! みんな! 時間を稼いで! 私が何とか彼女を立て直します!」
100人以上の天使の力を得た銃を持つ少女たち……ついさっきまでは悪魔側は絶望的不利だったが、今の悪魔3体は涼しい顔をしていた。
「抵抗しても良いことなんて無いぞ。分かってるはずだ。俺たちとお前たちとでは力が違い過ぎる。俺は弱い者いじめなんてやりたくないんだ」
彼の言うとおりだ。戦力差は自分たちが一番痛感している。それでもなお、天使の加護を受けた少女たちは引かない。負けると分かっていても、引けなかった。
「負けた……このオレが……負けた……また負けた……2度も負けた……」
傷は治したがただひたすらぶつぶつと虚空に向かってつぶやいていた。
1度の敗北ですら許しがたい屈辱なのに、これで負けるのは2度目。鋼、いやダイヤモンドのように固く揺るぎない輝かしいプライドが塵ひとつ残らず粉砕された。
呆然とする彼女をザカリエルが必死に励ます。戦う力の無い彼女にはそれしかできないのだ。
「美歌ちゃん! しっかりして! もうあの怪物を止められるのはあなたしかいないの! あなたは私たちの最後の希望なの! 負けないで!」
「負けないで……? そうだ……オレは負けないんだ……負けちゃいけないんだ……! なんだそうか! そうだよなぁ! どんな手を使ってでもアイツを殺りゃいいんだ! ヒヒヒ! キヒヒヒ! ヒヒヒャハハハ! オイ、サカリエル!
半狂乱になった美歌は、舞が「天使 美歌以外の女性を愛さない」という誓いを立てることで力を得た儀式を自分も行う事を決意する。
オレは優れている。
中学模試では全国1位を取れて当たり前。スポーツをやらせても同様だ。容姿だってプロのモデルになれるほど端麗だし歌を歌えばネットの豚共をとりこに出来る。
世界の誰よりも優秀で、世界の誰よりも美しい。賞賛され、称えられ、崇拝されて当然な崇高な存在。
それなのに……
それなのに! それなのに!! それなのに!!! それなのに!!!! それなのに!!!!!
あのゲロ以下のカスの分際で!
汚物のクセに! 汚物のクセに!! 汚物のクセに!!! 汚物のクセに!!!! 汚物のクセに!!!!!
許さない……! 絶対許さない!!
絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対許さない!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
彼女は地面に魔法陣を描き、神と
全知にして全能なる主よ。私は貴方に誓います。
私は持って産まれた美貌を捨てます。
私は持って産まれた才能を捨てます。
私は持って産まれた知性を捨てます。
私は持って産まれた寿命を捨てます。
私は持って産まれたその他ありとあらゆるもの全てを捨てます。
その代わりに、憎き邪悪を完膚なきまでに打ちのめす、圧倒的な力を授けてください。
美歌の祈りに応えるかのように天から光の柱が降ってくる。それは彼女ををすっぽりと包みこんだ。
筋肉が爆発的に膨れ上がる不気味な音と骨がバラバラに砕け散り再構成されていく気持ち悪い音が辺りに響き始める。
「ガ! ア! ア! ア! ア! ア! ア!」
自分の身体に起こる急激な変化に美歌はもだえる。それを見たザカリエルは慌てて止めようとする。
「美歌ちゃん辞めて! もう戻れなくなるわよ!」
「うるせええ! オレに指図するんじゃねええええ! テメエもオレの肥やしになりやがれ!!」
とても少女の声とは思えない低く鈍い叫び声と共にかろうじて人間の右腕の形をした物体が光の柱から伸びる。
「な、なにをすアゴガギエ!」
ザカリエルを握り潰し、肉体と魂を糧とする。
それからしばらくして、光が消えた時そこにいたのは、15歳の少女とはとても思えない、
愛くるしい顔は肉が膨れ上がり原型をとどめておらず、体の太さは4倍、手足の太さは女性の身体ほどにまでパンプアップし人間のような姿をした化け物といった姿になっていた。
「クキヒケケケ……スガスガシイ……こんなスガスガシイ気分初めてだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます