Scene.51 降臨

 麗が事切れてから間もなく、テーマパーク全体が地鳴りのような振動で震える。

 揺れが収まるとテーマパークのシンボルである城の前にある広場上空に血のように紅い魔法陣が形成される。そこから巨大な足が出てきた。

 やがてゆっくりと脚部、腰と魔法陣から現れ1分ほどかけて全長が10メートルはあろうかという巨大な悪魔がその姿を現した。ズズーンという巨大な低い轟音を立てて奴が着地する。


「こいつが……サマエル!?」


 動揺する少女と悪魔たちをよそにそいつが腹に響く低い声で叫ぶと同時に凄まじい濃度の悪魔の魔力が周辺に放出される。


「ぐっ!?」


 超高濃度の邪悪な魔力は生身の人間にとっては致命的とも言える害であり、特殊部隊の隊員たちやサバト団員、逃げ損ねた客の生き残り、それに報道機関のヘリの乗組員たちは生体機能を大きく狂わされ次々と倒れていき、2度と動くことは無かった。パイロットを失ったヘリが次々と墜落していった。


「……とんでもねえ事になったな。こいつを倒さないと東京、いや日本は滅ぶな。美歌、足手まといにならない程度には協力するよ」

「ハッ。テメェは足手まといになれれば上出来だよ。ついて来い!」


 兄妹にとって初めての共同作業だ。天使と悪魔が共同戦線を張って魔王と呼んでもおかしくない強敵に挑む!




 サマエルは真正面から向かってくる大鎌を持った少女に口から赤黒い魔力の光線を吐き出す。美歌の結界を貫通し、胴体を直撃する!

 体が蒸発して無くなった残りがアスファルトの地面にグショリ! という音と共に落ちる。が、傷口からアメーバのように肉が伸び、魔法少女の様な服も一緒に瞬く間に「修復」されていく。


「ククククク……ヒャハハハ! 楽しい! 楽しいねぇ! オレをマジで殺せるかもしんねえ奴と戦うってのはなぁ!」


 こんな状況で、美歌は……笑った。天使の加護を受けて以来1度も無かった、100%の力を出して戦う必要のある敵に。彼女はすぐに空を飛び、戦線に復帰する。


「よし、今だ!」


 それを見て乃亜のあの合図とともに真理の大斧と彼の拳が同時にサマエルの足の小指に叩きつけられる。

 人間が小指を何かの角にぶつけて痛がるのと同様に奴が足元を見る。大したダメージにはならないが、気をらすだけで十分だ。


「消し飛びやがれ! ウララララララァ!」


 一瞬だけ悪魔が下を向いた瞬間、その隙に美歌が両手を交互に突き出しながら彼女の魔力が凝縮された光の球を連射する。

 球は彼の身体に触れると凄まじい爆発を起こして身体を吹き飛ばしていく。


「オラオラオラオラオラオラオラァ!」


 光の球の乱打が終わると接近してチェーンソーのように刃が回転する大鎌で残ったサマエルの身体をズタズタに切り裂いていく。早くも勝敗が決したかに見えた……が、バラバラになった肉片の残りが寄り集まりブクブクと音を立てて膨張する。

 そして9メートルはあろうかという巨大な肉体へと再生されていった。


「その調子だ! もっとオレを楽しませろ!」


 その頃、遅れてやって来たザカリエルは自らが率いる少女たちの力を自身に集めていた。少女たちとザカリエルの力が美歌と1本の光の線でつながる。


「美歌! 私たちの力全てをあなたに託すわ! 行きなさい!」

「任せろ!」


 サマエルが咆哮をあげると同時に彼の背後から十数個の魔法陣が展開され、赤黒い光のシャワーが美歌に降り注がれる!

 聖ルクレチア女学院特別進学科全員の力を受け取った彼女の結界ですら、魔王と言っていいほどの力を持つ悪魔の攻撃を完全には防ぎきらずに彼女は穴あきチーズのように穴だらけになるが瞬時に再生する。


 お返しと言わんばかりに大鎌で5体を切り裂き、胴体に光の球を乱射して塵ひとつ残らず蒸発させるが、そこまでやっても残った両腕両脚の傷口から肉がアメーバ状に伸び、胴体が再生されていく。

 肉体をいくら細切れにしてもそのたびに再生されるサマエルだが……


「何かアイツの身体縮んでないか?」

「今頃気付いたのかよ鈍すぎだぜ。再生速度も遅くなってんぞ」


 再生するたびに身体が縮んでいく。手ごたえはおそらく「有り」だろう。


 乃亜と真理、ミストの3名は跳躍し悪魔の瞳目がけてRPG-7を撃ちこむ。

 敵は目を閉じて爆風に耐えたため目を潰すことは出来なかったが視界を遮らせるだけでも十分だった。

 美歌がその隙にサマエルの頭頂部から股間にかけて大鎌で一直線に両断、さらに真っ二つに割れた身体の両方に光の弾を何十発も撃ちこみ粉砕していく。


 そうやって戦い続ける事、30分。粉砕しては再生し、また潰しては再生を繰り返すサマエルや美歌だったが悪魔は再生するたびに身体は縮み、再生速度も遅くなっていく。

 そしてバラバラにすること、8回。ついに全ての悪魔の肉片から鼓動が消えた。


「勝った……のか?」

「で、いいんじゃね? いてもいなくても一緒だったろうけど……ま、オメーにしちゃ上出来なんじゃねえの?」


 多少の功績はあったであろう兄を犬を追い払うようなしぐさで追い返した。




「あったあった」


一方、ミストが見つけたのは赤黒い光を放つ球体。


「まさか、サマエルの魂?」

「ピンポーン。大正解」


彼女はそれを結界の中に封じて持ち帰る。普通なら魂は取り込むものだと思ってたのにそれをしない事を真理は不思議に思って尋ねる。


「喰わないの?」

「力が強すぎるから一気に喰うと逆に魂を乗っ取られるかもしれない。少しずつ溶かして消化していくんだ」

「ふーん。じゃあ私たちも帰りましょう。優や愛も心配してるだろうし」


彼女たちもまた自分のねぐらへと戻ろうとした、その時だった。


「待ちなさい。貴女たち」


ザカリエルの冷たい声が聞こえてきた。振り返ると、100人以上の聖ルクレチア女学院特別進学科の生徒たちが銃を構えていた。

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