Scene.42 私が殺します

 いじめが原因で自殺した中学生男子の父親が、加害者少年に対する判決を聞いた直後、取材陣に対して言い放った。


「今回の加害者少年への証拠不十分による無罪という判決、大変ありがたいと思っております。よくぞこの判決を出したなと思います。

 私の息子を殺した奴らを国が死刑にしないというのなら、いっそのこと無罪にしてすぐに釈放して欲しいと思っていたくらいですから。

 ……私が奴らをこの手で殺しますので」


 その一言に取材陣がどよめいた。


「国が殺さないのなら私が殺す」


 翌日の新聞1面にはそんな文字が躍っていた。それから数日後、彼は公園で待ち合わせをしていた。……正義の味方と出会うために。


「刈リ取ル者だ。ニュースでお前の事は知ってる。息子を殺されたそうだな」

「刈リ取ル者さんですね。知っているのなら話は早いですね。そういう事です。息子の仇討ちにご協力をしてもらいたくてお呼びいたしました」


 そう言って彼は資料を渡す。どうやって入手したのかは知らないが息子をいじめていた少年たちの顔写真、住所などが記載された個人情報だ。


「協力ってことは、お前が殺るのか?」

「はい。私の手で殺します」

「分かった。じゃあ行こうか」


 そう言って被害者の父親と共に復讐相手の家に行こうとした矢先、周囲が結界で覆われる。天使の加護を受けた少女たち……アリアと舞といった元真理のチームメンバーが現れた。


「刈リ取ル者……真理さんを堕落させた悪魔め!」

「勘違いしてないか? 俺は悪魔じゃない。悪魔の力を得ただけの真っ当な人間さ。悪魔なのはむしろあいつらのほうだぜ? 他人をいたぶって優越感に浸り、そいつが死んでも罪の意識は無く、『そういえばあの芸人、最近TVに出なくなったな』程度にしか思わない。

 そんな奴らこそ悪魔さ。人間の皮をかぶった悪魔だ。そいつらは死んで当然、いや殺さなきゃいけないガン細胞みたいなやつだ。俺がやってる事が万が一悪い事だったとしても小学生が信号無視したくらいのかわいいもんだぜ?」


「お前のやってる事は人殺しよ! 復讐すればそれで終わりってわけじゃないでしょ!?」

「今は法律が整ってないから、今は世の中の流れがそうなってないから、我慢しろとでもいうのか? それを人生を捻じ曲げられた奴の目の前で言えるのか? 子供を失った父親や母親に言えるのか?」

「うるさい! 黙れ!」


 少女たちが襲い掛かってくる。


「真理! ここは俺達が食い止める! 先に行け!」


 刈リ取ル者とミストが協力して結界をぶち破る。その隙間から真理は依頼人を連れて飛び立っていった。

 残ったミストが景気よくミニミ機関銃から弾丸をばらまく。が、両手に盾を構えた少女、舞はそれをものともせずに弾幕を掻き分けてミスト目がけて突き進む!

 そして右手の盾を地面と平行、ミストに対して垂直に向けて彼女目がけて殴りかかると、ミストの結界を1撃で破り、ガードする両腕にまで達する!

 その一撃が、ズシンと重い。


「うおっ!?」


 その重さにガードが弾かれそうになる。間髪入れずに左の一撃が入り、ミストのガードが弾き飛ばされる!

 さらに右のストレートを喰らい、吹っ飛ばされた。


「ミスト! 大丈夫か!?」

「な、何だぁ!? 気をつけろ! コイツ、急に強くなってる!」

「美歌さんがいない日本はボクが守る! 覚悟しろ!」


 刈リ取ル者は背中にマウントしていたRPG-7を叩き込む。舞はそれを回避する事無く真正面から突っ込む。

 爆風の中から彼女が飛び抜けてきて迷うことなく悪魔目がけて突っ込んでくる!

 正確に言えば盾がほんの少しひしゃげたがそんなの大した傷じゃなかった。


 刈リ取ル者の拳と舞の盾によるお互いノーガードでの殴り合いになる。

 ≪超常者の怪力パラノマル・フォース≫の装甲が壊れて剥げていくその一方で、舞も徐々に傷ついていく。


「調子に乗るなよ!」


 ミストがRPG-7を舞目がけて放つ。目の前の敵を打ち合いをしていたためノーガードで直撃を喰らってしまう! さすがに効いたのかふっとばされて尻もちをついてしまう。


「今日は退散しようぜ。十分時間も稼げただろうし」

「そうだな。お前ら、今日はこの辺で勘弁してやるよ」


 そう言って乃亜のあ達は天使たちが張った結界をぶち破り、去って行った。




 追手が来ないのを見て乃亜とミストがしっかり仕事をしているんだとふと思った。


「うまく巻いたみたいね」

「何なんですか? あの少女たちは?」

「私たちの敵。こういう仕事をしてると敵に回す連中も多くなるのよ」


 そう言いながら依頼者が調べ上げた家にたどり着く。真理は土足で踏み入る。


「だ、誰だお前!?」

「刈リ取ル者よ。何で来たか分かる?」

「何でって……? まさか!」

「そう。そのまさかよ」


 真理が漆黒の大斧で左足を切断し、動けなくする。相手が血液と絶叫を吐き出しながらのた打ち回るのを抑えつける。

 依頼者は少年にのしかかり、コンバットナイフで少年の腹を掻っ捌いた。ダムから放水される水のように血がドバドバとあふれ出る。


「た、助けて、たすけて……たす、け……」


 救いを求める少年の声はどんどんか細くなり、やがて息絶えた。


「次、行きましょう」


 流れる様に魂を回収した後「作業を終えた」依頼者に次の場所へ行こうと促した。この後も彼女にとっては日常である作業を合計3回、無事に終えることが出来た。




「終わったわね。じゃあどこで降ろす?」

「……警察署の前にお願いします」

「……いいの? あなたは悪くないわ」

「良いんです。罪には罰が待っているのですから。どんな理由であろうとも人を殺める、それも将来のある未成年の命を奪う事は大罪です。それを私の命を以って償う覚悟は出来ています」

「……分かったわ。じゃあ近くの警察署で降ろすね」


 依頼された以上、仕方ない。真理は本人の希望通り警察署まで送ることにした。




 後日、裁判で彼は未成年3名を殺害した罪で死刑判決を言い渡された。その際、彼はこうも語っていたという。


「……仇討ちとはいえ3人の若者を殺した罪、それに対する罰は甘んじて受け入れます。

 天国にいる息子に会えないでしょう。私は地獄へ堕ちるでしょう。でも構いません。先にいるあいつらをさらにいたぶるつもりです」


 と。

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