Scene.41 1人くらい殺したって誤差だろ

「お早う」

「お、お早う」


 美歌が挨拶すると、引きつった笑みを浮かべながらクラスメートが挨拶する。


 マリーに再調教を施した夜、美歌は彼女に8年生全員に「美歌をいじめるのを辞めて丁重にもてなせ」というメッセージを送らせた。その効果は絶大でいじめはピタリと止んだ。

 美歌はマリーに向かって手を差し出した。


「お、お早う。ミカ」

「おお。マリーか。ちょうどよかった。10ドルくれ」

「な、何言ってんの!? それって恐喝じゃない!」

「恐喝じゃねえよ。お布施の要求だよ。そりゃあ恐喝は犯罪だって事くらい分かってるさ。でもお布施は合法だろ? それとも何だ? オレに口答えするきか? ええ?」

「ひっ! め、滅相もありません。10ドル渡すから!」

「オイオイ! ただ渡すだけじゃ恐喝になるだろ。どうぞお納めください美歌様と言わないとお布施にならねーだろ?」

「わ、分かりました。ミ、ミカ様、私の10ドル、どうぞお納めくださいませ」


 マリーは美歌の手に10ドル紙幣をのせた。


「3日後までに100ドル持って来いよ」

「そんな大金用意できるわけないじゃない!」

「ハァ!? 有料で男のチ○コくわえて胸揉ませれば100ドルくらい簡単に集まるだろーが! 3日猶予があるだけでも泣いて感謝しろや。分かったんなら放課後制服着たままスラム街にでも行くんだな。あそこはお嬢様学校の服は目立つぜぇ? 男なんてガンガン寄って来るから商売相手にゃ困らねーだろうな! んじゃ、あとはよろしく」


 絶望しかなかった。


「あ、そうそう。今夜20時にエリスの部屋に行くから一緒に来い。予定開けとけよ」


 美歌は去り際にマリーに告げた。

 エリス……クラス内ではマリーの右腕にあたる「サイドキックス」と呼ばれる立場の少女だ。その日の夜、彼女の部屋を美歌とマリーが襲撃する。


「マ、マリー様。一体どうされたんですか?」

「マリー。エリスを殺せ」


 扉を開けるなり美歌は命令する。


「な、何言ってるの!?」

「耳が腐ってんのか? オレは、テメェに、エリスを、殺せ。って言ったんだ。さっさと殺れよ」

「殺したら私は堕天使になっちゃうじゃない!」

「良いじゃん別に。死にたてならオレが蘇生してやるから安心しろよ。それに、1人くらい殺したって誤差の範囲内だろ」


 彼女のファンが聞いたらゲロを吐きながら倒れそうなセリフが口から飛び出す。


「そんな無茶苦茶な!」

「オイ。お前白いチンパンジーの分際で人間様のオレに意見するのか? さっさと殺せっつんてんだよ!」

「は、はい。わかりました……」


 そう言ってマリーは自分の魔力を結晶化した剣を構える。


「マリー様!? お気は確かですか!?」

「エリス! ごめん!」


 マリーの剣がエリスの腹を裂くと、エリスが傷口から血を噴き出しながら崩れ落ちた。


「美歌!」


 それを見たザカリエルが声を荒げる。


「ザカリエルか。何の用だ? 何でこんなとこにいる?」

「不安になって来てみたのよ。それより美歌! さすがに殺してしまうのはやり過ぎだわ! 貴女堕天使になってしまうわよ!」

「チッ。しゃあねえな。分かった。安心しろ。殺しはしねえから」


 そう言って美歌はエリスに触れ、傷を一瞬で治す。


「これで良いんだろ?」

「分かればよろしいです。くれぐれもやり過ぎはしないようにね」

「分かった分かった。殺さない程度にするから。さぁ帰った帰った」


 美歌はシッシッと追い払うようなジェスチャーでザカリエルを追い払う。


「エリス、これは主が与えし試練です。どうか頑張って乗り越えて」


 彼女は去り際にそう言って去って行った。


「んじゃ続きといこうか。マリー、こいつを死にかけになるまでぶちのめせ。息の根が止まる寸前まで甚振り尽くせ。くれぐれも殺すなよ」

「マリー様、辞めてください。私はマリー様のために働いたのに!」

「エリス……ごめん!」


 マリーは暴行を再開する。


「こんな復讐なんてして、気が晴れると思ってるの!?」

「復讐? 復讐だぁ? オレがそんなバカな事をするとでも思ってんのか? そんなの虚しいものさ。俺がやってるのは『再調教』だぜ? 復讐なんていう次元の低い事じゃねえ。マリー、2度とナメた口きけねえようにアゴをブチ折れ」

「ひ、ひいいいい!」


 この日、マリーと美歌はエリスを痛めつけては傷を癒し、また傷つけては癒し、という再調教を4時間にわたって続けたという。

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