Scene.33 お前が悪いんだぜ?

 僕は学年一の人気者である彼に言った。


「それ、いじめだよね?」

「いじめじゃねえよ。いじって遊んでるだけだよ」

「だからそれいじめだろ? 証拠も取ってるよ」

「ンだてめぇ。立場分かってんのか?」


 教室が険悪な雰囲気に包まれる。そこへ先生がやって来た。とりあえず話はそこで中断されることになった。


「……ありがとう。ダイスケ君」

「大丈夫。僕がいるから」


 そう言って僕はいじめを受けている彼女を励ました。




 それからは特に変わりない一日が始まり、そして終わる……はずだった。

 夜になって、ただいま。とも言わずこの世の終わりとでも言いたげな表情をして、父さんは会社から帰ってきた。目はうつろで足取りもおぼつかない。

 僕は心配そうに尋ねた。


「父さんどうしたの?」

「……会社をクビになった」

「ええ!?」


 父さんは絞り出すような声で会社をクビになった。と言った。あまりにも唐突過ぎる。


「な、何でクビになったの!?」

「夕方になって会社とその取引先からこんな画像が送られてきたんだ。援助交際をしていると思われてしまってお前みたいなやつが会社にいるとイメージを損なうって言われて、即解雇だ。

 誓って言うが父さんは援助交際なんてやってないぞ! 父さんは無実だ!」

「父さん……」


 スマホの画面にはクラスメートの1人が上半身裸で映っていた。

 なんでこんなことになってしまったんだろう。その謎は翌日に解けた。




「よぉ。お前のオヤジ会社クビになったか?」


 翌朝、ホームルーム前の教室でケラケラと笑いながらスクールカースト最上位の神は僕に言った。


「なんで知ってるんだ!?」

「ああ。お前のオヤジの会社とその取引先に俺の彼女の裸の写真を送ったんだよ。援交代の入金が遅れているので付き合ってる事バラしまーす。っていう風にしてね。もちろん嘘だけど」


 謎が全部つながった。


「お前! 何てことするんだ!?」

「だってお前ウザいんだもん。オレはただアサヒをいじって遊んでるだけなのにそれをいじめだなんて言いやがってよぉ? 何様だお前? 正義のヒーローぶってカッコつけてんじゃねえよ。キモいんだよマジで。

 っていうかオレ被害者だぜ? いじめなんていう悪い事をしてるなんて言われてさあ。とんだ誤解だよ。本当だったらオレは慰謝料もらう立場だぜ? その程度で済んでよかったじゃねえか」

「……」


 僕は拳を固く固く握りしめた。怒りで拳がプルプルと振える。僕は彼の顔面を何度も殴った。


「お前のせいで! お前のせいだ! お前のせいで!」

「殴ったな? テメエオレの事殴ったな! 暴行罪で訴えてやるからな!」




 刈リ取ル者は青年の記憶を読んだ後怒りを抑えきれずに漏らした。


「……酷過ぎる!」

「その声は……刈リ取ル者さんですか?」

「あ、ああそうだ。お前の言いたいことは全部わかった。何も言わなくていい。怜人れいとは俺が仕留める。待ってろ」

「お願いします。これ、受け取って下さい。依頼料です」


 彼は青年から現金のつまったバッグを受け取った。




 翌日の学校の帰り道、怜人は歩いてる途中で何かにぶつかった。


「!? 何だ!?」


 まるで目の前に壁でもあるかのように、透明な何かに行く手を遮られている。その背後で殺意をみなぎらせるソレがいた。


「お前、自分のやったことがどれだけ残酷で許しがたい事か分かっているか? アサヒをいじめるどころか、それをかばったダイスケにまでも危害を加えた。それも、本人じゃなくてその家族を狙い撃ちにした卑劣極まる行為だ。お前には吐き気すら覚えるぞ!」


 そう吐き捨てる様に言って制裁を加える。右ストレートをみぞおちに叩き込み、うずくまさせる。その後腕と脚を全力でぶん殴り、破壊していく。

 殴られるたびにボキィ! という硬いものが砕ける音が辺りに響き、人体の構造上絶対に曲がるはずのない個所が絶対に曲がらない方向に曲がっていく。

 彼はまともに歩くことすら出来なくなった状態で地面に横たわった。


「こんなものか」


 刈リ取ル者は痛めつけてから傷の治癒を試みる。



癒しの手トリート・ファクター



 最近繊細な措置が出来る様になった≪癒しの手トリート・ファクター≫で「神経だけを」治す。大規模半壊した手足の神経から激痛を知らせる電気信号が伝わり、脳で炸裂する。

 本来なら感じないであろう耐え難い激痛に青年は苦しむ。


「助けて! 助けて! たすけてたすけてたすけて……たすけてぇ!」

「あー駄目駄目。お前は死罪ですら償いきれない罪を犯したんだ。拷問したうえで死んでもらうぞ」


 そう言って刈リ取ル者はしばらくの間苦しませてから青年のどてっぱらに大きな風穴を開ける。上半身を起こすとが破損個所からだらだらと出てくる。

 既に手足は大規模半壊状態で動かず、しまうことすら出来ない。怜人は死んだ魚のような生気のない目でそれをぼんやりと見つめていた。それも長くは続かずにやがて事切れて魂を放出した。




 それから遅れて6名の天使たちがのこのことやってくる。その中にはかつて真理とチームを組んでいた者たちも含まれていた。


「遅かったな。お前ら」

「殺人鬼め、まだ犯行を重ねるつもり!?」


 天使との契約者の一人が刈リ取ル者を激しい憎悪の眼で睨む。


殺人鬼・・・?へー。お前は『コレ・・』が人間に見えるのか。不思議なもんだねぇ」

「『コレ』って! 彼は人間ではないとでもいうの!? いじめの加害者だとしても人権くらいあるでしょ!?」

「加害者の人権? 無いね。そんなもん。そもそもこいつはヒトモドキ・・・・・だから人権なんてあるわけないだろ」


 そう言って刈リ取ル者は犠牲者の頭にサッカーボールキックを食らわす。


「ヒトモドキですって!? ふざけないで!」


 彼女の合図で天使の加護を受けた少女たちは一斉に襲い掛かる。が、力の差は歴然としていた。剣や槍を持った少女2人がかりでも止められない。

 逆に怪物の手により胸や腹を腕で突き破られ、あるいは大斧で切断されて1人、また1人と命を奪われていく。


「辞めてくださいお姉様! お姉様のそんな姿なんて見たくありません!」

「姉ね! アリア、姉ねと戦うの、やだよぉ!」

「あんたたちの私情なんて知った事じゃないわ! 私たちを止めたければ力づくで止めて見せなさい!」

「わかりました! なら止めて見せます!」


 舞が前に出て悪魔たちの攻撃を防ぐ盾となる。右からは男の悪魔の拳が、左からはかつてのパーティーリーダーだった者の斧が同時に襲い掛かる!

 結界はブチ破れ、両手に構えた盾に激しい攻撃が加わり、曲がり、ひしゃげていく。


「クソッ! 盾が!」


 ガードが甘くなったところで刈リ取ル者の一撃が舞にクリーンヒットし、反対側に吹き飛ばされる。


「これ以上戦っても損害が増えるばかりだわ。撤退しましょう!」


 天使側を仕切っていた少女がみんなにそう伝える。それを聞いて皆、渋々と去って行った。




 翌朝、ホームルームを終えた舞の顔にあったのは敵の強さによる焦りとふがいない自分へのいら立ち。今の力では到底勝ち目がないと痛感していた。

 そんな彼女の元にザカリエルが姿を現した。



「くそっ! 今のままじゃどうやっても勝てない! 真理さんがいない分ボクが頑張らなきゃいけないのに!」

「舞、どうしても強くなりたいの?」

「ザカリエル様、何か策でもあるんですか!?」

「ええ。授けてもいいわ。ただ覚悟は必要よ」




 同じころ、乃亜のあの自宅にて。


「ミスト、ところで例の能力はどうなってる?」

「うーん、開発度70%といったとこかな。あと2~3日はかかる」

「そうか。それまでに美歌と遭わなきゃいいが……」

「乃亜、何の話? 私に何か隠し事でもしてるの?」


 真理が仲間外れにされたと思って少し不機嫌そうに乃亜に尋ねる。


「あ、ああ。別に隠してたってわけじゃないが、美歌用の能力を開発してるところなんだ。出来たら言うよ」

「ふ~ん。分かった。そういう事にしておく。じゃあ朝御飯用意するから待っててね」


 そう言って彼女は台所へと向かっていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る