Scene.19 雅原 恵理
その日、
出てきたのは……悪魔のカードと塔のカード。これから嫌な事が起こるというのを告げていた。
ピンポーン。
それを待ってたかのように雅原家のインターホンが鳴る。母親が出ると、そこには学生らしき少女が立っていた。
「恵理、友達よ」
母親が恵理を呼ぶ。友達、それを聞いた彼女の表情は少しだけ引きつる。恐怖を感じながらも恵理は準備をして玄関までやって来た。
「恵理、遅いよ」
「
「とりあえず立ち話じゃ暑いからどっか寄ろうか」
恵理は経験から知っていた。コイツが自分を家から離れさせる場合は必ずよからぬことを企んでいると。適当なファミレスに入った後、彼女は話を切り出した。
「単刀直入に言うわ。あなたにはこれから万引きして欲しいの」
「ま、万引き!? バカ言わないでよ!」
「バカな事じゃないわよ。大真面目に言ってるのよ? そんな事言うなら……これネットに流しちゃうよ?」
そう言って有紫亜は自分のスマホを見せる。1年前、水泳の授業を受けるときに恵理を盗撮した着替えシーンが映っていた。胸はおろか陰部もはっきりと見えている。
「わ、分かったわよ! やればいいんでしょやれば!」
数時間後
雅原家の電話が鳴る。その日たまたま留守番をしていた真理が電話に出た。
「もしもし、雅原さんのご自宅でよろしいでしょうか?」
「はい。そちらはどなたでしょうか?」
「こちらは赤羽警察署、生活安全課の者です」
「警察!? 両親が犯罪に巻き込まれたとか!?」
「いや、違います。妹さんになるんですかね? 今日恵理さんが万引きしたんですよ」
「恵理が……万引き!?」
それを聞いた瞬間、真理は天使の力を使って大急ぎで警察署に駆け込んだ。妹に会うやいなや大声で怒鳴った。
「恵理! 何でこんな事するの!?」
「ごめんなさい……! ごめんなさいお姉ちゃん!」
「謝らなくていい! 何でこんな事やったのか言って!」
「言えない! 絶対言えない!」
「言えないじゃない! 言いなさい!」
「言えない! 言えない! 言えないったら言えない!」
恵理は万引きをしたことは謝ったが、ただ一点理由は言えないの一点張りだった。両親を前にしてもかたくなに理由を言うのを拒んだ。
数日後
万引き事件のショックが少し残る中、恵理は学校の図書室で夏休みの宿題をして帰る途中だった。
「お嬢ちゃん、時間あったら俺達とどっか寄らない?」
明らかにチャラい男2人が声をかけてきた。
夏休み前のホームルームでも聞いていたが最近通学路で学校の生徒がナンパされることが多くなっているらしい。
もちろん怪しい人にはついていかないようにと釘を刺されていた。
「すいません。急いでるんで行かせてください」
「大丈夫、大丈夫だって。本当にお話しするだけだから。30分、いや5分だけでもいいかさぁ?」
適当なことを言ってやり過ごそうとするが男は食らいつく。しつこいナンパに困っていたところ、男の一人が後ろからキンテキを食らわされた。彼は淑女の方には理解できないであろう激痛に悶える。
「何だテメェは!?」
「辞めなよ。嫌がってるじゃねーか」
そう言ってもう片方の男にもキンテキを食らわす。連れの男と同じように股間に手を当て地面にうずくまる。
「よぉ。大丈夫か……ってお前真理か!?」
助けてくれた人が声をかけてきた。吹き出物だらけのブサイクな顔だった。恵理はその見た目に一瞬身構えたが姉の名前を知っているという事で少しだけ親近感を抱く。
「ち、違います。妹の恵理と言います。お姉ちゃんの事、知ってるんですか?」
「あ、ああ。まぁ色んな意味で知ってるよ」
「あ、そうだ。どこかお店に寄りません? お礼におごりますので」
「あ、ああ。俺でよければどこへでも行くぜ。
(オイ
(大丈夫。まだ素顔は見られてないからバレやしねえ。それに何か使えるかもしれねえからな)
ファミレスでは他愛のない話に花を咲かせていた。
恵理は姉や両親との慎ましやかながら穏やかな生活。乃亜は学校を辞めて一人暮らしをしている楽しさやつらさやあるある話で盛り上がっていた。その時だった。
「おやおや~? 恵理ったら珍獣を連れてますねぇ~」
「有紫亜! からかわないで!」
「からかってないわよ~。お似合いのカップルだなーって思ってさぁ。美女と野獣っていうの? こういうの」
恵理の表情が暗くなっていくのを見て、乃亜は有紫亜の胸ぐらを捕まえて脅しをかける。
「ごちゃごちゃ言ってねぇで失せろ。2度とそのツラ見せるな」
殺気をみなぎらせて少女をにらむ。それに思わずたじろき、少女たちは蜘蛛の子を散らすように去って行った。
「何から何までありがとうございます。そうだ。電話番号交換しませんか?」
「え……」
「嫌なら別にいいですけど」
乃亜はしばらく考えて……
「分かった。交換しよう。そうだ。名乗っていなかったな。俺は
「……その、変わった、じゃないや個性的な名前ですね」
「変な名前だって言っていいよ。慣れてるから」
変な名前と言われるのは慣れたもの。特に気にすることなく電話番号の交換は終わった。
「ただいま」
「お帰り、恵理。ちょっと遅かったわね?」
「ちょっと人と会ってたの」
「もしかして彼氏とかできた?」
「ちょっと~! お母さんからかわないでよ!」
他愛のない会話を交わしながら1日は過ぎていった。
その日の夜、恵理は日課であった主への祈りを捧げていた。
家族と姉の健康、世の中の平和、それに加えてもう一つの願いを祈っていた。
主よ。どうか彼に祝福を。
と。
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