Scene.18 カチコミ
赤羽の雑居ビルに構えるサバトの事務所。そこに何者かが正面の入り口から堂々と侵入した。
入り口に備えられた監視カメラには今大注目の少女モデル兼ネットアイドルが何かのコスプレ衣裳のような服を着た姿が映っていた。
「
「各員、戦闘態勢に入れ」
彼は手短に命令する。各々は銃を手に取り入り口を狙う。そこへ少女が入って来る。銃口が向けられるが彼女は全く恐れない。
「
いつも通りの張り付いた営業スマイルで対応する篠崎に対し美歌は心底不機嫌な表情とドスを利かせた声で対峙する。
「オレだってホントはオメーとは関わりたくねーんだ。でも悪魔は見逃すなって上から言われてるんでしゃーねーからテメーの事潰すことにするわ」
「これはこれは……
「ハァ? 馬鹿言うなよ。オレはアイツを超えるんだ。アイツはオレの行く道に転がってる邪魔な岩だぜ?」
少女はまるでそれが当然であるかのように、稀代の聖人をアイツや岩呼ばわりする。そこに敬意は微塵もない。
「ククククク……ヒャハハハ! スゲェ! スゲェよお前! 駄目だ! 超ウケる! ヒヒヒ! 岩! 岩かよ!」
「一々ウゼェ奴だな。もういい。
美歌が篠崎目がけて駆け出す。周りの部下たちはそれを護る様に立ちはだかり、AK-47から弾丸を撃ちだす。が、彼女が張る防御用結界に弾かれて全く届かない。逆に彼女の拳が振るわれるたびに彼の部下の身体が宙を舞い、吹き飛ばされる。
「あまり調子に乗るなよ」
それを見かねたリリムが相手になる。まず対戦車ライフルをぶっ放す。が、それすらも弾いてしまう。しかも結界には傷一つついておらず、ダメージが蓄積されている様子もない。続いて懐に入り、彼女の魔力が結晶化したブロードソードで斬りつける。が、やはり結界に弾かれて彼女の身体には届かない。
「何だオイ。悪魔ってのも大したことねぇなぁ!」
逆に美歌の拳はたった一撃でリリムの結界をぶち破り、もう片方の拳で腹部に強烈な一撃を見舞う。さらに顔面をぶん殴り鼻を砕く。
「マスター、こいつかなり強いです。正直、私よりも強いです」
「チッ! お前ら! 俺が時間を稼ぐ! バックアップを取れ!」
篠崎は乃亜の≪
「弱いねぇ~。ホント弱いねぇ~あんたら。2人がかりでこれかよ。虚しいねぇ」
「舐めやがってぇ!」
余裕を失い敬語が崩れた篠崎の後ろの空間に腕が入る程度の大きさのひび割れが起こる。そこに手を突っ込むと中からRPG-7を取り出した。
「死ね!」
彼はそれをぶっ放した。弾頭は美歌を直撃し、強烈な爆風を巻き起こした。バックブラストと爆風で事務所はメチャクチャだがもうなりふり構っていられなくなっていた。
死んだか? と思い煙をじっと見つめる篠崎。その直後だった。
ゾクリと背筋に悪寒が走る!!!!!
数多くの修羅場を潜り抜けてきた彼の本能が直感的にヤバイ事を知らせた。彼は反射的に飛び退いた。その刹那、回転する大鎌が煙の中から飛び出してきた!
大鎌は彼がいた場所を通過して柱に突き刺さった。鉄筋コンクリート製の柱にまるでスプーンをプリンに沈み込ませるかのようにいともたやすく深々と突き刺さった。あと0,5秒でも退くのが遅かったら、上半身と下半身が「お別れ」していただろう。
やがて爆風が消えると無傷の美歌が現れた。
「いや~。さすがにさっきのはほんの少しだけどヤバかったな。まぁあくまでほ・ん・の・少・し。だけどな」
RPG-7の直撃を受けたにもかかわらず全く余裕の姿勢を崩さない。
「マジかよ……下手な戦車より頑丈じゃねえか」
「篠崎様! バックアップ完了しました!」
「分かった! 俺が道を作るからお前らは行け! 集合場所はポイントBだ!」
そう言うと篠崎は武器の再装填を終えると事務所全体を覆っていた隠匿用結界に向けてRPG-7をぶっ放す。強烈な爆音と何かが砕ける音が聞こえた。生き残った部下たちは散り散りに逃げて行った。
「オイ美歌、今回はツケにしといてやる。今度払ってもらうからな」
そう言うと何かを投げる。美歌はまたスタングレネードかと思い目を閉じ耳を塞ぐ。だが爆発音は聞こえない。代わりに、喉と鼻に強烈な刺激が襲い掛かって来た。彼が投げたのは暴徒鎮圧に使われる催涙ガスグレネードだった。
「ごほっ! げほっ! がはっ! うえっ!」
激しい咳を繰り返しながら床をのた打ち回る。しばらくして煙が消え、咳が収まった後の事務所には美歌以外誰もいなかった。
彼女はスマホを取り出し連絡する。
「もしもし? ザカリエルか? すまねえ。サバトの事務所はぶっ潰したけど連中の首は取り損ねた。催涙ガスなんていう小細工しやがってさぁ。
そんなわけで首持って帰るのは次回以降になっちまうけどいいか? わりいな」
普段の美歌を知っている人が聞いたら卒倒しそうなほど雑な口調で上司と連絡をする。
本当は直属の上司であるザカリエルでさえ「大したことない」と思っているのだが授かった力を奪われないように表向きは忠誠を誓っている。おそらく先方もそれを承知の上だろう。
そうこうしているうちに騒ぎを聞きつけた警察車両が集まりだした。余計な事に首を突っ込んでいるところを世間様に知られてもまずい事になると思っていたので彼女は結界に全身を隠して現場から飛び去っていった。
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