Scene.11 嘱託殺人罪(しょくたくさつじんざい)
赤羽警察署 刑事組織犯罪対策課に朝っぱらから課長の怒号が飛ぶ。
「何をやってるんだお前たちは! これで一体区内で何件目だと思ってる!?
特に高橋! 山根! お前らは現場の目の前で張り込みしてたくせに何故事件を防げなかった!?」
「課長、お言葉ですが俺達2人は一瞬たりとも気を抜かずに見張っていましたが不審人物はいませんでしたよ」
「じゃあなんで事件が起きるんだ!? ええ!? 言ってみろ!」
課長はさらに顔を赤くして山根をさんざん怒鳴り散らす。
「とにかく! これ以上の惨事が区内で起きないように徹底しろ! いいな!?」
「「「はい!」」」
会議が終わって、山根がタカこと高橋に尋ねてきた。
「タカさん、俺達間違ってないですよね? 確かに怪しい人なんていませんでしたよね?」
「ああ。俺も見てた。でも事件が起きたという事はよく見ていなかったとしか思われない。例えどんなにしっかりと見ていたとしてもな」
「酷い話ですねぇ。車載カメラでもつければいいのに……」
捜査車両にカメラを搭載しない方針に不満を持つ後輩をなだめながら、まず刈リ取ル者に殺人を依頼した青年の確保のため、車に乗り込んだ。
青年の家の周りに静かに捜査車両、いわゆる覆面パトカーが停まる。中からスーツを着た男たちが出てきた。手には何かの紙を持っている。
男たちの一人が家のインターホンを鳴らす。父親は出勤後、母親はちょうどゴミ出しに出かけていたため青年が出た。
「お早う。警察だ。何で来たか分かるね?」
「警察が何の用ですか?」
「君に
「しょくたくさつじん……? 何ですかそれ?」
聞きなれない言葉に青年はどういう意味かと問う。
「そう。簡単に言えば人殺しを誰かに依頼した。という犯罪行為だ。身に覚えあるよね?」
「俺は人殺しを依頼した覚えはありません。ダニ共を殺処分してくれって頼んだことはありますけど」
「よし、認めたな。7時43分、嘱託殺人の容疑で逮捕する!」
「ちょっと待て! 俺は人殺しを依頼した覚えなんてねえって!」
「黙れ! コラ暴れるな!」
暴れる青年を無理矢理押さえつけ、警察官は彼の手に手錠をかけ、連行した。
「何だと!?」
「お前! もう一回言ってみろ!」
「何度でも言いますよ。『ザマアミロ』って言ったんですよ。聞こえなかったんですか?」
「何がザマアミロだお前!」
人が死んだことに「ザマアミロ」という暴言を放った青年に対し机をバン! と叩いて山根が怒鳴り散らす。
「あいつらはくたばって当然の屑ですよ。あんなの人間じゃねえ!……そうだ。あいつらは人間じゃねえ! エイリアンだ! 人間の皮を被ったエイリアンか何かですよ! そうじゃなきゃあんな事出来やしませんよ!」
「いい加減にしないか!」
「いい加減にするのはあんたらの方ですよ! 何であいつらを捕まえなかったんですか!?
何であいつらを野放しにしてたんですか!? 何で俺をうつ病に追い込んだ奴を逮捕しなかったんですか!?
いじめたあいつらは学校で青春を謳歌して、いじめられた俺は学校を中退して引きこもりだ! おかしいでしょどう考えても!」
青年の暴言は止まらない。
「本当だったらあいつらには拷問刑でも科すべきでしたよ! それも「お願いしますからどうか殺してください」と泣いてすがりつくまで徹底的にやるべきでしたよ! 殺すだけで済んで有り難く思え! 泣いて感謝しろと言いたいくらいですよ!」
「お前は自分のやったことが分かってんのか!? お前のやったことは人殺しなんだぞ!? 直接手は下してはいないが30人殺したも同然なんだぞ!? 罪の重さを分かってるのか!?」
「刑事さん。あんたら警察もあいつらの味方するんですね。俺をうつ病にして学校を中退させた奴の味方するんですね。失望しましたよ」
もはや怒りのあまり声すら出ないタカと山根に対しトドメの一言をぶつける。
「俺は未成年だぜ!? 死刑に出来るもんならしてみろよ! 将来のある若者の命を奪う事が出来るならやれよ! やってみせろよ! 俺はいつでも受けて立つぜ!?」
「お前いい加減にしろ!」
山根は怒りのあまり青年に右の拳を食らわした。
「てめぇ殴ったな!? 国家権力が善良な市民の敵に回るどころか暴力か!? いい身分だなオイ! 訴えてやるからな!」
その後も罵声と怒声が飛び交う取り調べは続いた。
始末書を書いている山根にタカが声をかけてきた。
「山根」
「あ、タカさん。すいません。手を出してしまって。どうしても我慢できませんでした。ただ、どうしても罪と向き合ってほしかった。自分の犯したことの大きさを自覚してほしかったんです」
山根の言う事を黙って聞き、しばらく黙りこんだ後タカは口を開いた。
「山根、手を出したお前の気持ちは分かる。だがお前は例え新入りだとしても刑事であり警察官なんだ。お前がやったことを見て「ああ警察っていうのはこういう組織なんだな」って思うんだ。そこだけはしっかりと分かってほしい」
「はい。すいません。タカさん」
そう言って彼は止めていた手を再び動かし始めた。
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