scene.10 23番

 いつものようにエゴサーチ(自分の名前で検索する事。ここでは「刈リ取ル者」で検索をかける事)をする。

 今ではすっかり有名人になったせいか「刈リ取ル者ニュース」とか「かりそく! 刈リ取ル者速報」なんていう専用のまとめブログまで出来ている。


 以前の事件もきれいにまとめられており、そこでは学校でいじめがあったことをきちんと調べた上で報じている。ただアクセス数を稼いで金に変換して一儲けしたいだけのどうしようもない連中とは違って今時珍しい中々に誠実な管理人である。

 そんな中、とある書き込みに目を止める。


「刈リ取ル者様へ。

 私は現在うつ病で家に閉じこもりきりの生活を送っています。そうなったのも全て学校で起こったいじめのせいです。クラスメートと先生が憎くて仕方ありません。詳しい話は会って話しましょう。

 XXXXXX@XXXXX.jpまで連絡ください」



 念のため捨てメアドを取得し、彼あるいは彼女と連絡を取ることにした。



 数日後




 昼間の暑い公園で待ち合わせをすることになった。待つことしばし、重そうなバッグを持った猫背の青年がやって来た。

 おそらくコイツだろうと思い、刈リ取ル者は≪読魂ソウル・リーティング≫で記憶を読む。




 青年の記憶が頭の中に流れ込んでくる。


「うわ」


 下駄箱を開けるとカッターナイフでズタズタに切り刻まれた上履きが入っていた。おまけに悪意ある落書きまでびっしりと書かれていた。



「今打ち上げ。『23番』がいなくてサイコー!!」

「『23番』がいないと盛り上がるよねー」


 『23番』には内緒にしていた集まりで出席番号を暗喩にしたわざと見せつける様にSNSを通じたクラスぐるみのいじめ。



「私たちが調べた限りでは、証拠になるものは見つかりませんでした」

「見た限りたかし君と他のクラスメートは仲良くやっていると思いますので

 注意深く見守っていただけないでしょうか?」


 両親と一緒に証拠を突きつけても知らぬ存ぜぬですっとぼける教師たち。……吐き気と憎悪しか湧いてこない学校ぐるみのどす黒い犯罪行為の決定的証拠だ。

 そして、数日前に自分のパソコンから自分の手で例のネットに依頼を書き込む映像も流れてきた。おそらく本人だろう。


「よお。刈リ取ル者だ。訳あって姿は見せないがちゃんといるぞ。何も言うな。たった一人でよくここまで戦い抜いたな。つらかっただろう」

「俺以外のクラスメート27人全員と担任や校長、教頭までもが全員グルでした。あいつらを全員殺してください」


 青年はバッグを預けた。


「500万あります。足りなければもっと出します」

「良いだろう。500万で手をうとう」


 刈リ取ル者はバッグを受け取ると飛び去って行った




 その日の夜、3年4組の仲良しグループの1組の居場所を突き止めた。場所はカラオケルーム。

 何を歌おうか迷っている少年少女たち6人の前に姿を現した。


「俺は刈リ取ル者。『23番』の無念を晴らすため、貴様等全員を処刑する」


 そう言って手近なところにいた奴の左腕の手首とヒジの中間地点という本来は関節の無い個所に思いっきり力を込める。

 ぼきり・・・という鈍い音と共に、曲がった。激痛による絶叫と女たちの悲鳴が聞こえてきた。

 片っ端から腕を全壊させ、脚を大規模半壊させて、いたぶる。時々≪癒しの手トリート・ファクター≫で傷を癒してから改めて引き千切り・・・・・、腹部を半壊させる。


「何で……何でこんな事するんだよ! お前は!」

「……人を絶望させておいて「何でこんな事を」だと?」


刈リ取ル者は淡々と答える。


「だってしょうがなかったんだよ! 山崎の事無視しないと今度は俺が無視されるかもしれなかったんだ!」

「分からないねぇ。理解したいとも思わないねぇ。助け舟を出さなかった時点で、お前は俺の敵だ」


 慈悲無し、情けなし、容赦なし。彼のやる事に関しては終始一貫しており、ブレは無い。仕返し・・・というただ一点に置いては。

 延長するかしないかの電話に出なかったので不思議に思った店員が6体のかつて人間だった残骸・・・・・・・・・・・・・を発見するのはそれから2時間ほど経った後だった。




 別の日、図書室で友達と表向きには受験勉強に励んでいた学生ターゲットたちを見つけた。

 人もまばらだったこともあり、彼らを覆う結界を張れば何とか存在を隠すことは出来ると判断して襲い掛かる。


 カラオケルームや教室と違ってある程度人の出入りがある場所のため時間をかけずにサクッと退治する。頭部、胸部といった人体に致命傷を与えられる個所を狙って攻撃する。5人組の生徒たちが次々とあの世へと旅立っていった。


「何で……こんな事するんだ!? お、俺達が何したってんだ!?」


 仕留めそこなった獲物が苦しみながら問いかける。


「黙れよ。犯罪者・・・のくせに」

「犯罪者? いや俺犯罪なんてやってないし!」

「いじめは犯罪なんだよ。

 靴を隠せば窃盗罪だし傷つけたら器物損壊罪、暴言を吐いたら名誉棄損罪か侮辱罪、暴力を振るえば暴行罪あるいは傷害罪、金を脅し取れば恐喝罪、全部立派な犯罪行為だ。

 でもいじめなら何となく許される雰囲気がある。警察官も裁判官もその雰囲気にのまれてる。

 だから国に代わって、天に代わって、俺が貴様らの罪を裁く」


 そう言って胸部を大規模半壊、頭部を全壊させる。

 全てが終わった後は結界を解除し、メッセージを残して校長室へと向かう。

 5体の死体が転がっていることに気付いて図書室は大騒ぎになるが特に気にしない。


 せっかく学校に来たんだからついでに寄っておこう。もしいたらもう1度来る手間が省けて助かるし。と気軽な気持ちで校長室に押し入る。中に入ると騒ぎに気付いていないのか都合がいい事に校長が教頭と何か話し合いをしていた。




 ついてるな。




 そう思い刈リ取ル者は校長と教頭、両方の足を破砕する。苦痛にのた打ち回る2人にさらに腕を砕き、生爪を引っぺがし、とにかく1秒でも長く苦しむようにじわじわといたぶる。


「何で……何でこんな事するんだ! お前は!」

「俺からすればいじめは無かったって学校から言いくるめられるのって、ナチスに家族を皆殺しにされた上にヒトラーと笑顔でフォークダンスを踊らされるようなもんだぜ? そんな外道な行為を見逃すわけにはいかないね。そういう意味ではテメーはヒトラーみたいなもんだ。いやヒトラーにすら劣るな。クソすぎて」


 怪物はそうののしる。こいつも自分の時のように自己保身に走って助け舟を出さないどころか握りつぶそうとした屑にすら劣る存在だ。


「俺は言いくるめた事なんて無いぞ! ちゃんと責任は取るつもりだったんだ! それを何で!?」

「俺は嘘つきが嫌いだ。……嫌いなんだよ!! テメエみてえな屑は!!」


 反吐が出るのをこらえつつ、刈リ取ル者は校長の脳天を文字通り・・・・叩き潰す。カニ味噌のようなもの・・・・・・・・・・が飛び出た。

 次いで教頭の胸を半壊、腹を大規模半壊させる。腹の破損個所から中身・・がズルズルと出てきた。慌てて戻そうとするが上手くいかない。そのうち全身の力が抜けていき、息絶えた。


「こんなものか」


 刈リ取ル者は≪光迂回ライト・ディトゥーアル≫で透明になり、緊急通報を受けてやって来たパトカーのわきをすり抜けて去って行った。

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