Vampire Killers 11

 

   *

 

 最近のハイブリッド車に装備された電気回生ブレーキは例外として――旧来の乗用車用ブレーキで主流なものは、LTドラムとディスクブレーキである。

 どちらも摩擦材をアクスルと共回りする制動対象に押しつけて、運動エネルギーを熱エネルギーに変換することで制動するものだ。

 ドラムブレーキの場合は半月型のシューに貼りつけた摩擦材をドラムの内側に押しつけることによって制動するが、ディスクブレーキの場合は回転するディスクに両側面から摩擦材を貼りつけたブレーキパッドという板を押しつけることで制動する。

 ディスクブレーキは固定式と浮動式の二種類の形式に別れており、一般的な乗用車に多いのは浮動式だった。

 ブレーキパッドはキャリパーと呼ばれる部品によって支持されている――コの字型にディスクを挟み込んだキャリパーの内部には油圧によって動作するピストンが組み込まれており、ブレーキが踏まれると油圧によって押し出されたピストンがパッドをディスクに押しつける仕組みになっている。

 固定式と浮動式では、このキャリパーの構造が違うのだ――固定式はディスクを挟んで両側にピストンが配置されていて左右から同時にパッドをディスクに押しつける構造になっているが、浮動式はピストンが片側にしかついておらず、ピストンが一方のパッドを押すと同時に反力でキャリパー自体が動き、反対側のパッドをディスクに押しつける構造になっている。

 構造が簡単な一方作動のタイムラグが大きく、十分な制動力を発揮するまでの時間が長くて空走距離が長くなりやすい――その一方コストは安くつくので、大衆車によく使われている。それに加えて軽量であるという特徴もあり、そのため固定式キャリパーが一般的なオートバイ市場においてリッタークラスの大型スポーツバイクに採用された例もある(例……YZF-R1)。

 ライトエースに取りつけられているのも、浮動式のディスクブレーキだった――メンテナンスは楽なのだが、内側と外側のパッドでディスクとの接触時間に差があるために摩耗の度合いに差が出やすい。あと、個人的にはブレーキの踏んだときの感触があまり好きになれない。

 まあ、俺の車じゃないから俺の好みなんざどうでもいいがな――胸中でつぶやいて、アルカードは磨き終えたキャリパーブラケットを足元に置いた。

 代わりにはずしたままほったらかしにしていたブレーキパッドを取り上げ、裏側に嵌めてある薄いシムをはずしにかかる。

 ブレーキの磨滅した粉と埃、錆で薄汚れたシムを、真鍮ブラシで磨いて汚れを落とす――鉄板に残った円筒形のピストンの接触した痕は、消し様が無いので頓着しない。

 ある程度汚れが落ちたところで、アルカードはブレーキプロテクターを手に取った。チューブから押し出した白いグリスを、シムの裏側に出来るだけ薄く塗りつけてゆく――厚塗りしすぎると埃を呼ぶ原因になるし、次回交換時の後始末が面倒臭い。主な目的は共鳴周波数を変えてブレーキパッドの異常振動による異音を抑えることなので、必要以上に塗りすぎても意味は無いのだ。

 摩擦材の全周を面取りしたブレーキパッドを手に取って、裏側のバックプレートにシムを取りつける――パチンと音を立ててきちんと嵌まったのを確認してから、アルカードは指先に残ったグリスをシムの外側に塗りつけた。ピストンの接触した痕をなぞる様にしてグリスを塗ってから、足元の襤褸切れに残ったグリスをなすりつける――水濡れ等で飛んだりしない様に、ブレーキプロテクターはかなり稠度が高い。それだけに拭き取る段になると始末に負えないのだが。

 かなり力一杯なすりつけてようやくべたべたしなくなってから、アルカードは続いてもう一枚のブレーキパッドを手に取った。

 摩擦材の全周がきちんと面取りされていることをあらためて確認してから、作業に取り掛かる――摩擦材が摩耗するのと同様に、ブレーキディスクも作動に伴って摩耗する。摩耗が進むと、縁の部分だけを残してだんだんと薄くなっていくのだ。その状態になるとブレーキの鳴きが酷くなり、ピストンの突き出し量が多くなって見掛け上ブレーキ液も少なくなってくる。セラミックシンタード等上等の素材を使ったブレーキパッドなら、ディスクに対する攻撃性もいくらか抑えられるのだが――生憎大衆車向けにそんな上等なものは無いし、あってもかなり高価だろう。探す気も起きないが。

 ブレーキパッドにシムを組みつけ、横に置いておく――アルカードは脇に置いてあったキャリパーブラケットを手に取り、ブレーキディスクをまたがせる様にして裏側の取りつけ用サポートにあてがった。太いボルトを裏側から通して仮組みし、仕上げの粗いラチェットレンチを手に取った。

 大手メーカーのものと違って小さな丸いヘッドを持つ、全長の短いラチェットハンドルだ。

 仕上げはさほど手間がかかっているとは言い難いがれっきとした日本製、NKCという新潟県三条市のメーカーが生産している逸品だ。

 楔の原理を応用したきわめて小型のヘッドを持ち、構造上、大手メーカーのラチェットレンチと異なり回転角度に関わらず作動するという特徴がある。

 普通のラチェットレンチは内部の歯車が動作し、ひとコマでも次のコマに移らない限り動作しない――だが、NKCのラチェットはねじに空回りしないだけの摩擦抵抗が掛かっていれば、それで動作するのだ。

 この特徴を買って、アルカードはもうかなり長い間NKCの愛用者だった――工具である以上精度の高さとそれを保証する意味でのブランドは重要だが、ブランドだけで道具の優劣を定めるほど愚かなことは無い。有名なブランドでなくとも、見た目が小綺麗でなくとも、メーカーが真摯に取り組んでいれば逸品というのはあるものだ(※)。

 ラチェットハンドルである程度締め込んでからソケットをスピナハンドルにつけ替えてボルトを完全に締めつけ、ボルトの頭とその周囲を何度か軽く叩いて完全に一体になっていることを確認してから、ブラケットにブレーキパッドを取りつけにかかる――ブレーキパッドの取りつけ方は車種、というかメーカーによって結構ばらばらで、あらかじめキャリパーブラケットに二枚とも取りつけておくタイプのほかに、外側のパッドだけ二本爪の裏側にあらかじめ取りつけておくものもある。

 トヨタの場合は、二枚ともキャリパーブラケットに取りつけておくものが多い――排水溝の縁のコンクリートの上に敷いたサンドペーパーになすりつける様にして摩擦材の表面を削り取ってから、アルカードはブラケットの溝に合わせてブレーキパッドを取りつけた。

 それから手を伸ばして、それまでストラットのコイルスプリングに針鉄で括りつけていたキャリパーボディを手に取る。針鉄をほどいてコイルスプリングからキャリパーをはずし、針鉄もスプリングから抜き取って脇に置いておく。こういうのを後回しにして放置すると、たいてい忘れるのだ。

 日本車の場合、浮動式のキャリパーはピストンの反対側が二本爪の様な形状になっているのが一般的だ。

 キャリパーの分厚い部材で作られた二本爪の裏側とピストン、それぞれに古いディスクパッドをあてがい、アルカードはボックスレンチ二本を使ってこじる様にしてピストンをキャリパーの中に押し戻した――これが固定式キャリパーの場合は一方を戻すと別のピストンが飛び出す、ちょうどモグラ叩きの様な状態になるために、専用の工具ですべてのピストンを一度に押し戻さなければならないのだが、浮動式キャリパーの場合はたいていピストンがひとつしかないので専用の道具が無くてもなんとかなる――もちろんふたつのピストンを備えている場合もあるが。

 キャリパーについたグリスや埃などの汚れを簡単に拭き取って、アルカードはピストンの縁やキャリパーの内側に附着した汚れを真鍮ブラシで掻き落とし始めた。

 一応そんなことをしなくても動くのは動くのだが、適当にやってお茶を濁すのは彼の好みではなかった――キャリパーを取りはずしてきちんと清掃し、ピストン周りについた汚れを落としてブレーキがきちんと仕事を出来る環境を整える、そこまでやってはじめてメンテナンスだと言える。他方、ピストンやオイルシールの損傷は、走行距離の関係上気にするほどではないだろうが。

 池上の譲ってくれた荷物の中にはゴミなどの混入を防ぐゴム製のダストブーツのキットがあったので、これもついでに替えておく――塵埃や水などの異物が混入することを防ぐためのものだが、ディスクパッドよりもはるかに傷みやすい。見た目にはまともでも、肝心のシール部分の縁が傷んで水が入っている可能性もあるからだ――こういったゴム部分の傷みと、その交換を怠ったことによる水などの混入が原因の錆の進行が、整備業者の見積金額があとから跳ね上がる最大の原因だ。見積りは外観からしか出来ないが、実際にばらしてみたら中身が水に浸っているということは珍しくもない(※2)。

 キャリパーをブラケットにかぶせる様にして組みつけると、スライドピンを手に取った。

 スライドピンは長いボルトの頭に近い部分にだけねじを切り、ボルトのねじを切ったのと同じ軸の先の部分が若干細く研磨された棒状に加工されたもので、同じく研磨された穴に挿入すると自在に摺動する。キャリパー本体とブラケットを接続しつつも動き自体は制限しないという役目を果たしており、浮動式キャリパーの機能はこれが肝になってくる。

 まずキャリパーのピストンが動いてディスクパッドを押し、同時にその反力でキャリパー自体も逆方向にずれる。そのときに爪に引きつけられて、逆側のディスクパッドもブレーキディスクに接触し制動するわけだ。

 このキャリパーのずれる動きを円滑に行うために、スライドピンの摩耗状態と潤滑が重要になる――効きも悪くなるし、なにより効き方がおかしくなるのだ。

 研磨された摺動軸の部分に右手の指先を這わせても、特におかしな引っかかりは無い――走行距離が短いので、金属の摩耗はさほど気にする必要は無い。池上が譲ってくれた品物はブレーキパッドだけでなく塵埃や水などの異物が入り込むのを防ぐダストブーツ類も含まれていたので、替えられるものは替えてある。オイルシールは交換しようとするとエア抜きがおじゃんになるので、そのままだが。

 キャリパーのスライドピン穴にグリスを塗ったスライドピンをあてがって、アルカードはスライドピンをまっすぐに押し込んだ。

 上部のスライドピンを一番奥まで押し込んでから、軽くつまんだりひねったりして防水用のゴムを所定の位置にかぶせる。ダストブーツがきちんと嵌っていることを確認してから、アルカードは襤褸布を手に取ってはみ出したグリスを拭き取った。指についたグリスも拭い取ってから、スライドピンの駆動角にラチェットハンドルに取りつけたソケットをかける。

 NKCのラチェットハンドルは構造上、さほど大きなトルクでボルトの締緩作業を行うのに向いていない。ラチェットはギアではなくローラーの摩擦によって動作する構造になっていて、過大なトルクがかかると滑る。

 キャリパーに取りつけたダストブーツのせいで回転の重いボルトを指で回して奥まで捩じ込んでから、ボックスレンチに持ち替えて十分なトルクで締めつける。

 二本のスライドピンボルトをきちんと締めつけてから、アルカードはフラット形状のボックスレンチを工具箱の上に置いた。

 まずはブレーキディスクを軽く揺すって、ドラムをそうしたのと同様にナットを使って仮締めしたディスクが動かないことを確認する――やらなくてもドラムブレーキほどに誤差は深刻ではないが、やっておいて損は無い。

 ずっとかがみっぱなしだったせいでいい加減疲れてきたので一度立ち上がり、何度か屈伸してから、ツールチェストの上に放置してあった襤褸布を取り上げる。襤褸布といっても、ちゃんと業者から買ったウェスなのだが――アルカードはまだ使っていない真っ白な布でライトエースのアウターハンドルを掴み、運転席のドアを開けて車内に上体を入れた。ブレーキペダルを掌で押し込む様にして、何度か動作させる。

 最初は深く入っていたペダルの沈み込み量が一定になったところで、アルカードはペダルの操作を止めた。

 ブレーキペダルを踏み込むと、ピストンが押し出されてブレーキパッドを押し、ブレーキパッドとディスクローターが接触することで制動を行う。今回はパッド交換のために完全にピストンをキャリパー内部に押し込んでいたわけだが、ブレーキを踏み込むとそれが再び押し出されて飛び出してくることになる。

 ピストンが押し出されてパッドとディスクが接触し、それ以上動く余裕が無くなれば、ペダルはそれまでの様に深く沈まなくなり、踏み込んだときの感触にも節度感が出てくる。

 ピストンの動きしろが無くなって、ペダルがそれ以上沈まなくなったのだ。

 このときのブレーキペダルの踏み代が一定で連続で踏み込んでも深さが変わらなければ、作業自体には問題無い――もしも踏み込むたびに徐々に踏み代が小さくなっている様なら、ブレーキ配管内部に空気が入り込んでそれを圧縮するためにブレーキを踏む力が消費されているのだ。

 二十回ほど連続でブレーキペダルを手で押し込んでも感触が変わらなかったので、アルカードは問題無いと判断してドアを閉めた。

 

   *

 

「――と、いうわけで」 フィオレンティーナを片手で示して、アルカードがしゃんと背筋の伸びた矍鑠とした老人に向かって説明を締めくくった。

 裏口から直接連れ込まれたので、店の様子はよくわからないが――どうやら、ここがアルカードの勤め先らしい。

 部屋の片隅に置かれたAQUOSの液晶テレビの前には休憩用に四人がけのテーブルとソファーが二脚置かれ、テーブルの上には柑橘類の入ったバスケットが置かれている。果物ナイフと皮を包んで棄てるための新聞広告があるのは、勝手に食べてかまわないということなのだろうか。

 食事もここで取るからか、これも四人がけのダイニングテーブルと椅子、電気ポットや冷蔵庫が置いてあり、部屋の隅の方には分別用なのかいくつかのゴミ箱と、洗い物用にシンクもあった。

 視線をめぐらせると、コンピュータ用のテーブルの上にかなり年代もののデスクトップパソコンのブラウン管ディスプレイがでんと鎮座ましましているのが視界に入ってきた。

 デスクトップパソコンはどうも一日中起動しっぱなしらしく、ディスプレイにはiTunesの動作画面が映っている。

 曲目から察するに、店の中のBGMをあれで制御しているのに違い無い――曲名自体は聞いたことが無いが。

 袖を引っ張られて、フィオレンティーナは老人に視線を戻した。アルカードが続ける。

「彼女をうちのバイトとして雇うことを決めましたので」

 金髪の吸血鬼の紹介を受けて、テーブルの向かいに腰を下ろしたその老人――アレクサンドル・チャウシェスクと名乗ったが――が鷹揚にうなずいてみせる。

「わかった。よろしく頼むよ、お嬢さん」

 少しも疑った様子は無く、気楽に手を伸ばして握手を求めてくる――それに答えて老人の手を軽く握り返すと、思ったより力が強いことがわかった。

「あとでうちの嫁さんも紹介しよう――もうしわくちゃの婆さんだがね」

 アレクサンドル老人がそう言ってにこりと笑い、アルカードに視線を向ける。

「アルカード、休日なのにすまないが接客を手伝ってくれんかな。今日はわしらだけで遣り繰りするには人が多くてね」

「わかりました」

 アルカードがうなずいて立ち上がる。彼はフィオレンティーナに視線を向けると、

「ついでだ、君も来てくれ――なにかしろとは言わないから、そこらへんで見てて雰囲気だけでも掴んでくれ。それが今日の仕事だ」

 フィオレンティーナはアルカードについて廊下を歩きながら、イタリア語でアルカードに話しかけた。

「どういうことですか? わたしみたいに身元もなにもはっきりしない人を、従業員としてあっさり受け入れるなんて」

「従業員の雇用は俺に一任されてるんでな――というより、店の経営の雑務のほとんどは俺の担当だ。良くも悪くも無頓着な人なんでな」 そう言って、アルカードは廊下に面した一室の扉を開けた。アルカードの体の隙間から中を覗くと、ロッカーがいくつか並んでいるのがわかった。

「ここは男性従業員の更衣室だ」 ついて入りかけたフィオレンティーナに視線を向けて、アルカードが言ってくる。

「俺の着替えでも見ていたいのか?」

 明らかに面白がっている口調に、フィオレンティーナは叩きつける様にして扉を閉めた。

 

   *

 

 アルカードが出来上がった料理をパイン材のテーブルに並べていく手際は、フィオレンティーナの目から見ても見事なものだった――フィオレンティーナはもともとイタリアの資産家の生まれだから料理が得意だったわけではないが、資産家だけに他人の手際を見る目には肥えている。

 子供の頃から家の専属コックの手際を見て育ってきたフィオレンティーナの目から見ても、食欲をそそる綺麗な料理の盛りつけといいアルカードの所作といい、まったく非の打ち所の無いものだった――それこそ一流ホテルのシェフでも通りそうなくらいだ、真ん中に犬のお巡りさんのアップリケが縫いつけられたエプロンを除けば。

 ちなみにこのときのメニューは、フィオレンティーナの嗜好を考慮してかイタリアンで占められていた――鶏の肉をトマトソースで煮込んだものにチーズを絡めたスパゲッティ、茹でた白いアスパラガスとトマトのサラダ、デザートのつもりなのか皮に切り込みを入れた大き目の柑橘類が置かれている。殻つきの茹で卵が十個くらい置かれているのは彼の好みなのだろう。

 基本的に彼は煮込み料理が好きらしい。フィオレンティーナが彼の部屋に運び込まれた朝にアルカードが用意したのは血液不足で固形物の消化が難しい彼女でも無理無く食べられる様に煮崩したクリームシチューだったし、それを取り分けたであろう元の鍋――鋳鉄製のダッチオーヴンだが――の中身を見るにつけ、それを三日は食べますよといわんばかりの量だった。二日目にご馳走になった、程よく煮込まれた骨つきのラム肉のシチューが絶品であることは、認めざるを得なかった。

「出来ればパンも用意したかったんだが」 さすがに時間が無かったからなあ、と、アルカードがぼやく。まがりなりにも人間外のモンスターの科白としてはあまりにも所帯臭かったが、そこが突っ込みどころではない。

「焼いてるんですか?」

「ん? ああ、時間のあるときにはな――丸一日休日のときくらいだけど」 バイクで出かけてることのほうが多いけどな、と、アルカードはかすかに笑ってみせた。

 絶妙に茹で上げられたパスタをフォークに巻きつけたところで、フィオレンティーナはアルカードに視線を向けた――当のアルカードはというと、粗挽き胡椒と細かく挽き砕いた岩塩を混ぜた調味料の小皿を手元に置いて、茹で卵の殻をせっせと剥いているところだった。

 こちらの視線に気づいたのか、アルカードが顔を上げる。

「なんだ?」

「いいえ」 一瞬だけ絡まった視線をはずし、フィオレンティーナはアスパラガスをつつき始めた。


※……

 実に良い製品なのですが、残念ながら数年前に経営者さんが廃業なされたらしく、すでに手に入りません。俺が持ってるのは3/8インチ用の一個だけですが、大切にしようと思います。

 ちなみに現在であれば、KTCのNeprosブランドの旗艦フラッグシップNBR390シリーズ等、送り角の細かなラチェットレンチが増えてきているので、無段階ラチェットにこだわる必要はありません。


※2……

 ロアアームのボールジョイントなんかが特にそうです。

 ボールジョイントのブーツの口が緩んで水が入り、内部に水が溜まってボールジョイントが錆びて摩耗、結果ユルユルになっているというのは珍しくもありません。

 こういうのは見た目からではわからないので、ボールジョイントブーツを交換しようとしてブーツをはずしたらブーツどころかロアアームごと交換ということもあります。

 タイミングが悪いのかなんなのか、俺はこういうのがよくあって社長に文句タラタラ言われて心が折れました。

 錆びてんのは俺のせいじゃねーよ。いちいちロアアームとハブキャリアを分離して確認してたら時間がかかる時間がかかるって文句言うんだろうが。

 そもそも売り物にするのにくっそぼろい中古車買うなよ! エンジンの内部がスラッジでゴテゴテになってるのは俺のせいじゃねーよ!

 報告されて不機嫌そうな顔するな、そんなおんぼろのポンコツを仕入れることを決めたのは俺じゃねえ!(愚痴)

 否、車体全体が変形するレベルの事故車を鈑金修理して売ろうっていう発想がそもそもの間違いなんですけどね……

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