第22話 民泊が始まりました
「長崎に来るとは初めてかい?」
「あ、はい、初めてです」
班長ということで、
なるほど、細波さんは猫人か。
とはいえ、猫人にしてはかなり大きいな。
「細波さんはどのような種類の亜人ですか?」
「オイはラガマフィンと人間の亜人だよ。他の猫人よりも身長がだいぶ大きいだろう?」
確かに、俺よりは身長が小さいが、同じ猫人の倉持よりもかなり大きい。
身長で言えば164㎝の佐々木と同じくらいだろうか?
「というか、倉持ももとになった猫って大型じゃなかったか?」
「確かにサイベリアンは猫の
でも、倉持だって多々良よりは10㎝以上大きいんだよな。
確か多々良は人間とシャルトリューの混血で、シャルトリューは小型の種類だったはず。
猫の大きさも結構影響あるんだな。
「細波さん、筋肉すごいっすね」
佐々木が細波さんの腕を見て言う。
確かに、運転している細波さんの腕はかなりの筋肉量だ。
運動していてある程度鍛えている佐々木とも比べ物にならないくらいだ。
「まあ、こんくらいじゃにゃかと海の男もしてられんよ、ははは」
漁師をやるために鍛えているということか。
「ど、どのようにゃ鍛え方をしたらそんにゃに?」
今度は倉持が質問をする。
確かに倉持はかなり力が弱いからな。
「ん?サイベリアンなら力も結構強いんじゃにゃかの?」
「勉強ばかりしていて、鍛えたことにゃんてにゃくて……」
「筋トレもまずは基礎、そこからが重要だよ」
「わ、分かりました!」
基礎ね。
俺も基礎的な筋トレをやっていこうかな。
少しくらい筋肉があった方がいいよね?
「みんな、魚は好いとっかい?」
「好きですね!」
「俺も食いますよ!」
「普通ですー!」
「大好きです!!!」
ひときわ大きな声を出す倉持。
普通って秋川か。
秋川なら仕方ないか。
「よかもん釣って、美味い飯でん食おうか」
「はい!!!」
倉持のテンションが高すぎる。
これ、民泊終わった後のテンションはどうなるんだろう……。
「ほら、着いたよ」
「ありがとうございます」
車を降りる。
細波さんの家は、なんというか古民家のような、すごく古そうな家だ。
だからといってボロいというわけでもなく、時代を感じる。
「さ、どうぞ上がってくれんね」
「「「「お邪魔します!」」」」
いっせいに声を出す。
これから今日と明日と、ここの家で世話になるんだ。
「あらあら、元気がよかひとたちんが来たね」
居間から、おばあさんが出てきた。
「紹介すっよ。オイの母親の、
「時江ばい。こがんババアだばってんか、よろしゅたのむけんね」
かなり訛った言葉で、ゆっくりとお辞儀をする時江さん。
「腰も曲がってん元気なババアばい」
曲がってんっていうから曲がっているのかと思ったが、時江さんの腰は全く曲がっていない。
やべえ、方言難しいな。
「埼玉県から来ました佐倉幸といいます!よろしくお願いします!」
「お、佐倉がさっきより緊張してねえぞ」
「これがいつも続くといいんだけどねえ」
「佐倉に限ってそんにゃことはにゃいだろう」
外野うるさい。
「嫁は今買い物に出とるみたいだけん、あとでまた紹介すっけんよ」
「分かりました」
「長旅で疲れたやろう。部屋は用意してあっけんゆっくり休んでくれんね」
時江さんが2階へ上がっていく。
すげえ、階段の上り下りもしっかりしてる。
「オイは今から明日の用意ばしてくるから、4人は部屋でいっとき休んでてくれんね」
「ありがとうございます」
「2階の大部屋がキミたちの部屋だけん、すいとっごと使こうてくれんね」
「分かりました!」
ごめんなさい、一部分からなかったです。
部屋だけんのあと、なんて言いました?
「あー、あれ好きに使ってくれってことだったのか」
「方言のせいで半分くらい何言ってるか分からねえなー」
佐々木が荷物を置いて寝転がった。
「にしても、細波さんの第一印象と
「確かに、最初ちょっと怖そうって思ったけど、すごく優しそうだよねー!」
それに関しては同意だ。
漁師って言うからてっきり厳しい人だと思っていた。
ふたを開けてみたらこれがびっくり、優しい人だ。
「明日がんばらないとな!」
「おう、俺がみんなの分まで魚釣ってやるから、期待しておけよー!」
「じゃあ俺も頑張るー!」
「ぼ、僕は食べる係だにゃ!」
「倉持、働かざるもの食うべからずって言葉、知ってるか?」
「も、もしかして僕だけ
倉持のしっぽがピンと立った。
「じゃああれだな、倉持は餌付けとか手伝う係だな」
「分かった!にゃんでもするから魚だけは食べさせてくれ!」
必死だなあ……。
「にしても、ここら辺の風景っていいなあ……」
カーテンを開いて、窓を開けると、外には田んぼと海という、埼玉だと絶対に見れない風景が広がっている。
「なんだ、佐倉はこういうのが好きなのか?」
「ああ、こういうのどかな風景、好きかもしれないな……」
「じゃああれか、大人になってこういうところで多々良とのんびりしたいなーとか思うだろ」
「……あー、それいい……って何聞いてんだ!!」
なぜ多々良を混ぜる!?
「いや、まあ佐倉が多々良のことが好きだなんて周知の事実だしな?」
「なっ……!」
佐々木と秋川はニヤニヤしている。
「ここなら魚もよく獲れるみたいだし、多々良と結婚でもすればついてきてくれると思うぞ?」
「待ってくれ、先の話過ぎて先が見えてこない」
た、多々良と結婚か。
「わ、佐倉が赤くなってる~」
「や、やめろ」
何も言わない倉持。
こいつやっぱり多々良のこと好きだろ。
「でも実際佐倉ってずるいよな。クラスの女子だって選り取り見取りだろ」
「そーゆーこというのやめろ。ほとんどしゃべれないから」
「佐倉は初対面の人が苦手だもんにゃー」
あ、しゃべった。
「だって現時点で多々良と姫川と、凜先輩までいるんだぜ?」
「ひ、姫川は友達だろっ」
「まあそうだねー、姫川は俺たちの長年の友達だもんね」
「でもにゃんか、最近ちょっと色気づいてにゃいか?」
姫川のちょっとした変化に気付いているような倉持。
色気づいて、と聞いてこの前のことを思い出す。
「ん、なんか本当に佐倉の顔が赤いな。姫川と何かあったのか?」
「な、ない!」
何かされたような気もするがない。
あれは秘密だ。
ベッドに誘われたのも秘密だ。
「そういえば、焼き肉屋で見せてくれにゃかった写真、今見せてくれにゃいか?」
「いっ……!」
3人が近寄ってくる。
「じゅ、10年後って姫川が言ってただろ」
「つまんねーこと言うなよ」
「も、持ってきてないぞ!」
「それほど佐倉が大切にしている写真……
恥ずかしい写真……うん、恥ずかしい。
「そ、そうだ!あの写真を見られるのは多々良にとっても恥ずかしいことだから!」
「知るかー!」
「こいつらひでぇ!?つか写真ないからね!?」
「じゃあ今度見せろよー」
「やーだーよー!」
あの写真だけは本当に恥ずかしい。
「あー、俺らも出会いが欲しいなー!」
「佐々木はサッカー部にマネージャーいるじゃん」
「いやいや、あいつは彼氏いるから」
サッカー部のマネージャー、確か佐々木と仲良かったと聞いたけど。
お付き合いまではいかなかったのか。
「秋川は?」
「うーん、俺は……うーん」
「え、何その反応」
まさかまさかってやつじゃないっすか!?
「え、秋川、お前彼女いたりとかするの?」
「いや!彼女がいるわけじゃない!」
わけじゃない!?
「おー、なんだなんだ!?もしかして秋川に気になる人が!?」
「なんだお前、俺たちに何も言ってくれねえのかよー!」
「水くさいじゃにゃいかー!」
「え、えー!ちょっとやめてよー!」
普段あまり自分のことを話したがらない秋川が!
ここにきて好きな人発覚か!?
「言っちゃえよー!」
「ま、待って!分かった!話すからー!いったん離れてー!」
サッと離れる俺たち。
そんなに話が聞きたいらしい。
「話すけどいったん待って。夜になってからにして。お願い」
お願いといわれてしまった。
「うーん、お願いされちゃ仕方ねえな」
「まあ、秋川が話したら、今度佐倉も写真見せてくれるだろうしにゃ」
「え、俺!?」
なんか急に振られたんだけど!?
「当たり前だろー、俺らは隠し事はなしだぜ」
「いつから決まったんだそんなルール……」
「まあ、まだ倉持が何も話してねえけどな!?」
「にゃっ!?ぼ、僕は今好きにゃ人にゃんて……」
「まあ、倉持は勉強坊主だからなー」
嘘つけ。
佐々木も微妙に棒読みな辺り、多分気づいてるんだろう。
秋川も微妙にニヤついてるし。
「ま、まあ僕は猛勉強して東大に行くからにゃ」
「へー、そりゃすげえや」
「ほ、本気だぞ!」
倉持の頭を
俺たちと離れたくないという理由で雛谷高校に来た倉持だが、実際俺たちの高校はそんなに頭のいい高校でもない。
そこからだからなあ……。
でも、うちの高校から初めて東大合格者が!ってことにもなり得るか。
「つか、それだったら佐々木は好きな人いないのかよ」
「まあまあ、それに関しては夜に話そうぜ」
「あっ、こいつ逃げる気だな!?」
「いや、細波さん帰ってきたみたいだからよ」
外を見ると、確かに軽トラが家の前に止まっていた。
「そういえば軽トラってあまりあっちじゃ見ねえよな」
「俺らの住んでるところって農家とか全然ないじゃん」
「東北の方とか行けばいっぱい見れるんじゃにゃいか?」
確かに、軽トラは農家のイメージがある。
俺たちの住んでるところは都心まで電車で30分くらいのところだから、農家はないもんな。
「ただいまぁ、嫁が今から飯作るって言うから、先に風呂に入りに行こうか」
「分かりました!どこに行くんですか?」
「車に乗って温泉に行こう。近いところにあるんだ」
温泉!
「……って、秋川は大丈夫なのか?」
「ああー、うん、そこまで長風呂しなきゃ平気だよー」
秋川にはヘビと犬の血を受け継いでいるせいか、一応恒温動物ではあるのだが体温が少し変化しやすい。
お湯につかるわけだから、大丈夫なのかと思ったのだが。
「よし、じゃあ行こうか。あ、紹介すっけんね。妻の
「遠いところからよく来たね。夜永ばい、よろしゅね」
「佐倉幸です、よろしくお願いします!」
「佐々木です!」
「倉持です!」
「秋川です!」
3人合わせて~的なポーズを取る佐々木たち。
「ちょっ、俺も混ぜろよ!」
「お~!」
温泉だ!
「広いぞー!」
「お、お湯……」
「まず身体ば洗ってけんね」
存じております。
ちょうど空いていたので4人で並んで身体を洗う。
「佐倉、髪伸びたんじゃねえか?」
「え?あ~……そうかも」
鏡に映った自分を見て、伸びていることに気付く。
髪が濡れているから分かりやすいな。
「佐々木は髪濡らしても下がらないよな」
「毛質が硬いからな。オールバックしかできねえよ」
髪型固定とかなにそれ楽そう。
あーでもオールバック固定か……。
「佐倉の髪は少しくせがあるんだにゃ」
「そういう倉持の髪はくせだらけじゃんか」
「これはくせ毛じゃにゃい、猫毛だ」
濡らしてもくるんくるんしてるんですけど。
「そう考えると秋川の髪もすげえよな……」
「え、俺?」
ボルゾイ特有の真っ白な髪の毛が、重力に逆らわず下がっている。
確かに、こいつストレートなんだよな。
さらっさらだし、ちょっとうらやましい。
髪長いけど。
「しかも秋川の髪は柔らかいからな!」
「え、ちょ、佐々木やめてよ~」
濡れた秋川の髪を佐々木がぐちゃぐちゃにする。
ただしここからがうらやましい。
シャワーで髪を流すと、元通りになるのだ。
超ストレートじゃん、うらやましいわ。
「オイもすごうくせ毛だけんなあ……さらさらにあこがれるよ」
そういう細波さんも、倉持と同様濡らしても髪がくるんくるんだ。
というか細波さんを見てすごく気になるのは……。
「すげえ筋肉……」
「はっはっは、ちゃんと鍛えればだいでんこいくらいになるよ」
だいでんこいくらい?
……えーと。
「俺もできますかね!?」
佐々木が食いつく。
でも君もうすでになかなかいい筋肉してませんかね。
「なれるなれるとばい。佐々木くんは筋トレば続ければよかって思うよ」
「まじっすか!ありがとうございます!」
すげえ、多分佐々木とか細波さんの腕で殴られたら顔の骨折れそう。
「佐倉くんは……鍛えたいけんであれば、やっぱい基礎からやるべきかな」
「あ、ありがとうございます」
基礎か……。
「秋川くんはよか脚だね」
「一応、長距離は得意なんです」
「倉持くんも、もし鍛えたいんやったらオイが鍛え方ばおそゆよ」
おそゆよ……うん?教えるよってことかな?
「お、お願いします!」
「は~~~~~……」
「おっさんみてえだな、佐倉」
「温泉浸かるとこうならねえ?」
「俺はならねえな」
なると思うんだけどなあ。
「にゃ~~~……」
「倉持はなってるぞ」
「あいつさっきまで風呂の温度確かめるためにお湯をツンツンしてたよな」
「ふぅ……」
「細波さんもなってるよ」
「えっ、ならないの俺だけか……?」
「わ、これは長風呂できないな~」
秋川は声が出なかった。
なーんだ。
「そういえば、細波さんは猫人なのに「な」の発音が「にゃ」にならないんですね」
「あー、オイは結構なんか間練習したとよね」
「練習でにゃんとかにゃるもんにゃのか……」
にゃんにゃん言ってる倉持とは大違いだ。
「大事な話ば忘れとった。うちは定置網漁ばやっとこさるから、明日は朝4時には港に着くごとしなきゃいけん。早起きは覚悟しておいてほしか」
4時!?
「早いなー!でも漁師ってそんなもんだよな!」
「釣りじゃにゃいんだにゃ」
「定置網ってあの魚がいっぱい網にかかってるやつだよね!見てみたかったんだー!」
みんなのテンションが上がる。
確かに佐々木の言う通り、漁師の仕事なんだから早起きは当たり前だろう。
俺も役に立てるように頑張ろうっと。
「もし仕事の終わって、みんなの気力が残っとったらそんあとオイの船ば使こうて釣りに行こうか」
「行きます!!」
倉持が真っ先に反応した。
あなた元気過ぎません?
「貴重な経験だし、疲れるかもしれないけどできれば俺も行きたいっす!」
「俺も~!」
確かに貴重な経験だ。
損のないように行かなきゃな。
「俺も、釣り行きたいです」
「はっはっは、元気ばい。じゃあ決まりだ」
風呂から上がり、着替えて車に乗り込む。
「夕飯ができたって連絡が来た。早めに帰ろうか」
夕飯、どんなものなんだろう。
すげえ楽しみだ。
「魚……魚……!」
倉持がまた魚魔人になってしまっている。
明日の夕飯に魚が出るとして、明後日のホテルの飯が心配だ……。
「街並みはどがんかい?関東とはいっちょん違うやろう」
え、えーと。
「はい、埼玉とは全然違いますね。でも、こういうのどかなところ、俺は好きです」
「そうかそうか、移住してもろてもよかとよ」
嬉しそうに言う細波さん。
「あ、こいつ彼女と一緒にこういうところに移住したいとか言ってましたよ!」
佐々木が後ろから余計なことを言いやがった。
「へえ、彼女いるんたい。いつでん待っとるよ」
「い、いないです!彼女いないです!」
「はっはっは」
おかしそうに笑う細波さん。
おのれ佐々木の野郎!!
「お帰りなさい、さあ、夕飯にしよう。今日の夕飯はすき焼きばい!」
「たまご!」
すき焼き、という言葉に真っ先に反応したのが秋川。
卵に反応するのか……。
「ほらほら、座ってくれんね!みんなで
来客用だろうか、さっきまでなかったところに大きなテーブルが置かれている。
にしてもすき焼きとは……何とも太っ腹な。
みんなでテーブルを囲む。
細波さんが上座で、そこから佐々木、秋川、俺、倉持、夜永さん、時江さんと並んでいる。
「お、倉持が隣か」
「
「仕方にゃいにゃ~」
「ば、バカにするにゃ!」
そんにゃつもりはにゃい。
「さ、じゃあ食ぶうかね。ばあさんはなんか酒でん飲むかい?」
「日本酒でん貰おうかね」
酒か。
俺もいつか飲めるようになるんだろうか。
俺らの分は夜永さんが麦茶を入れてくれた。
「ありがとうございます!」
「じゃあほら、護さん、音頭取って!」
夜永さんがコップを掲げる。
その中には俺たちと同じ麦茶が入っている。
飲めない人なんだろうか。
「そ、そうだなあ。えー、佐倉くん、佐々木くん、倉持くん、秋川くん。南島原へようきたね!乾杯!」
「「「「かんぱ~い!」」」」
皿に肉と野菜が盛られる。
「いっぱい食べてよかけんね」
時江さんがニッコリしながら俺の皿にもっと盛ってくる。
「あ、ありがとうございます」
せっかくもらったのでいただきましょう。
俺はたまごは使わない派なのでそのまま。
「……お、甘い」
味付けが、なんというか関東のものよりも甘い。
これはこれでおいしい!
「気づいたかか?長崎ん味付けは他の県よりも甘かもとが多かと」
「そうなんですか!」
「他の県のもとは塩辛くてね。特に東北の味はオイには合わなかったなあ」
やっぱり、味付けって住んでる場所によってだいぶ変わるものなんだな。
俺、こういう甘めの味付け、嫌いじゃないかも。
って、すき焼きの割り下に砂糖を直接足すんですね。
だいぶ衝撃的な光景だ。
「ん~!へへへ~……」
たまごが絡んだ肉をおいしそうに食べる秋川。
たまご絡んでりゃなんでもいいんかお前は。
「肉うめえ!」
「野菜も食え佐々木!」
「肉がうめえぜえええ!!」
金のかかるやつだ!!
「佐倉、野菜多めでお願いしてもいいか?」
「倉持はえらいな……」
「いきにゃりにゃんだ!?」
話の分かるやつだよ、お前は。
割り下をちょっと混ぜて卵をすする秋川。
野菜をかなり抑えて、肉を食いまくる佐々木。
俺と倉持で野菜を食べていかないと。
「倉持、俺たちは明日、魚をたくさん食べような」
「そうだにゃ……」
細波さんはその後、すぐに寝てしまった。
そりゃそうか、起きるの早いもんな。
「仕事、手伝うんやったらみんなもいつっちゃより早めに寝た方がよかよ」
「大体何時くらいに起きればいいんですか?」
「3時前には起きることになると思うよ」
早いな……。
「じゃあ、俺らも用意して早めに寝るか」
「そうだな、それがいい」
「僕は大体いつもと寝る時間が変わらにゃいかにゃ」
「倉持は寝るのが早すぎるんだよ~」
「うちもみんなの朝ごはんば作るために早くぬっけんで、みんなもきばって起きてね。おやすみなさい」
「「「「おやすみな(にゃ)さい!」」」」
うち……姫川と同じ一人称だ。
もしかして姫川は……いやそんなことないか。
そういえば時江さんの姿が見当たらない。
もう寝てしまったんだろうか。
「布団が用意してある……いつの間に」
「これって、本当は俺たちが用意してなきゃいけねえやつじゃねえの?」
「多分……」
こりゃいかん、明日は自分たちで用意しないと。
布団に入り電気を消すと、まあなんというか、修学旅行のお約束めいたものが始まった。
「そういえばよ、さっき秋川が言ってた話の続き、聞かせてくれよ」
「……あ~、覚えてたかー」
「ああ、面白そうな話だからな」
佐々木がにやにやしている。
悪い顔だ。
「秋川、好きな人とかできたのか?」
「佐倉まで……うーん、なんて言えばいいのかなー」
言え!早く言うんだ!
楽しい話を聞かせてくれ!
「とりあえず、好きにゃ人がいるってことでいいのか?」
「好きな人というかー……うーん、気になる人がいるというかー……」
「好きかどうかはってことか」
「そうそう、佐倉とは違う感じ」
「なんで俺を引き合いに出すんだよ」
「だってほら、佐倉はもうマルちゃんしかないじゃん」
言い返せないのが悔しい。
「で、その秋川が気になってる人ってどんな人なんだよ?」
「みんなの知らない人だよ?」
「そんなん別に気にしねえって」
秋川にそういう人がいるっていうのが面白い話のネタだからな。
こいつはあんまり自分のことを話したがらないし、いい機会だ。
「バイト先の人なんだけど、話してて楽しいなあって思ってさー」
「バイト先か……どんな人なの?」
「大学3年生のお姉さんなんだけど……」
「「「大学3年生!?」」」
俺たちの声が被る。
めっちゃ年上じゃん!
「5つ上にゃんだにゃ!?秋川、そういうのが好きだったんだ!?」
「た、楽しければ年とか関係ないよー!」
出ました名言。
確かに、好きになるのに年齢は関係ないよな。
「てか、大学3年生なら、彼氏とかいるんじゃないのか?」
「前一緒にご飯食べに行ったときは、彼氏はいないって言われたんだよね」
「それ、チャンスじゃね!?」
「いいじゃん秋川!好きならアタックするのがいいと思うぜ!」
「ちょっ、佐々木も佐倉もやめてよー」
可能性があるならアタックするのがいいだろー!
「にしても意外だにゃあ……秋川に好きにゃ人ができるにゃんて」
「そうだな、普段何考えてるかあんまり分からないからなー」
「も、もう俺の話はやめやめ!さ、佐倉はいつマルちゃんにアタックするのさ!?」
「なんで俺の話になるんだよ!?」
今秋川の話してたじゃん!
わざわざ俺の話にしなくていいから!
「確かに、佐倉がいつ多々良にアタックするのかってのも気になるよな」
「佐倉、本当に花丸さんに想いを伝えるのか?」
多々良にアタックか……。
いや、今は無理だろう。
「文化祭が終わった後さ、多々良言ってたんだよ。好きとかそういうの、まだよく分からないって。だから、まだやめておこうかなって思ってさ」
「つまんね」
「佐々木ひどくね!?ってか、佐々木はどうなんだよ!」
「俺か、2学期からサッカー部に新しいマネージャーが入ってきてよ、気になってるから最近仲良くしようと頑張ってんだよ」
飯食う前に焦らした割にはあっさり言ったなコイツ!?
「ま、俺はそんだけだな。明日は早いみたいだし、もう寝ようぜ」
「こいつ逃げたな!?」
本当は追及したかったが、明日は本当に早いのでしぶしぶ寝ることにした。
Side 多々良
「……ね、多々良ちゃんって、好きな人とかいないの?」
寝る時間になって、部屋の電気を消したら、同じ班の
「あ、それ私も気になってた!多々良ちゃんはやっぱり、佐倉くんが好きなの?」
「ゆ、ユキちゃん?うーん、どうだろ」
「どうだろってことは、佐倉くんのことは好きじゃないってこと?」
「好きじゃにゃいって言われたら嘘ににゃるんだけど……人のことを好きににゃるとかって、あんまりよく分からにゃくて」
文化祭の日、ユキちゃんとデートと称して一緒に回った。
確かにすごく楽しかったし、いい思い出もできた。
できた……んだけどなあ……。
「うーん、多々良ちゃんはピュアだねえ、可愛いねえ♪」
「そうだね!多々良ちゃんはそのままの多々良ちゃんでいて!」
「にゃ~~っ!?」
間島さんと舞田さんがくっついてくる。
「まあ、それはさておき、多々良ちゃんていつも男子が周りにいるから、てっきり誰かしら好きなのかと思ってたよ」
「そ、そんにゃことにゃいよ……あの4人は昔からの腐れ縁ってやつだし、
「そうなの?」
「うん、4組の女の子にゃんだけど……」
「そうなんだ、知らなかったなあ」
うーん、割と一緒にいるところ見ると思うんだけど、
身長的にはだいぶ目立つと思うんだけど……。
「というか、間島さんは好きにゃ人いにゃいの?」
「え、私?私はねえ……うん、佐倉くん、かっこいいなって思っててさ」
どくん、と、心臓の音が大きく聞こえたような気がした。
「ゆ、ユキちゃん?確かに顔はかっこいいよね」
「顔もイケメンだよねー!でも、佐倉くんって優しいじゃん?」
間島さんが声を抑えめにして言う。
「ほら、他の人と話すのは苦手だけど、いつも多々良ちゃんに優しいよね。もし佐倉くんと仲良くなったらさ、私にも優しくしてくれるのかなあってさ……」
ちょっと恥ずかしそうに言う間島さん。
暗くて顔は全く見えないけど、もし明るかったら、多分赤い顔をしてるんだろう。
「それ分かる!佐倉くん、優しいよね!私にも優しくしてほしいなー!」
舞田さんも、ユキちゃんに優しくしてほしいらしい。
この2人、ユキちゃんのことが好きなのかな?
……なんだろう、このモヤモヤした感じ。
好きとか、そういうのとは違う感じ。
この感覚、前にも同じようなことがあったような気がする。
……そうだ、綺月がユキちゃんのこと好きなのかもしれないと知った時だ。
なんでこんな気持ちになるんだろう。
自分でもよく分からない。
たたらは、ユキちゃんのことをどう思ってるんだろう?
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