魔導士見習いプリーネと再生の魔法
夏炉冬扇
プロローグ
夕焼け色の揺らぎが広がっている。
何だろう……?
まるでそれは茜色の妖精たちが舞を披露しているかのよう。
キレイ……
それなのに、どこか哀しい。
こんなにも魅了されるほど美しくあるのに、この感情がどこから来るものなのか……思い出そうにも、心のどこかで何かが思い出す事を拒んでいる。
なぜ……?
わからない……。
視界はおぼろげながら、やがてその夕焼け色の妖精は燃えさかる炎である事がわかった。
今、自分は紅蓮の炎の中にいるのだと……。
しかし、そんな中にいても不思議と「熱い」とは感じない。痛みも苦しみも、触覚そのものが何もない。
ただ、自分がそこに在る。あたかも死してゴーストにでもなってしまったかのように、その場所にいるだけ。
揺らめく炎の向こうに、僅かながらぼやけた淡く青い空間が見て取れる。
そこが空だという事を知るのに、どれくらいかかったろう?
五分か……或いは自分の中で長く感じていただけで、数十秒とかかっていないかもしれない。
ああ……そうか……
自分は大地の上に仰向けになっているのだ。
しかし……やはり、どうして仰向けになったまま炎に包まれているのか、まるで見当がつかない。いや、考える気にもならなかった。
このまま再び目を閉じれば、また別の世界が見えてくるかもしれない。夕焼け色の妖精たちに見守られながら、この世界から消えてゆく。それで良いと思えた。
でも……
炎と黒煙の向こう側に映し出される蒼天は、このまま消え去るにはどこか名残惜しさがあるほどに惹かれるものがある。
手は……辛うじて動いた。
感覚は無いものの、手を伸ばせば黒煙とともに青い空へ昇って行けそうな気がする。
ゆっくりと右手を伸ばすと、不意に何かが聞こえてきた。
それまで全く無音の空間にいたはずなのに、微かに……しかし、どこか聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「……ネ……リーネ……! ……ろ!」
野太い男の声だ。
「……てる! は……く……医者を!」
お医者さん……? どうしてお医者さんが必要なのだろう?
複数の声が聞こえてくるが、何を話しているのかは不明瞭だ。
そのうち、誰かに抱え上げられた感覚はあった。
「プ……ネの両親は……だ?」
自分を抱える者が別の誰かに質問を投げかけている。何やら切迫した様子だ。
そして、その問いに返ってきた声だけは、何を言っているかはっきりと聞き取る事ができた。
「あの炎の中だ。もう助かりはしない……」
苦悶に満ちた、絞り出すような声であった。
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