第28話本番

 楽屋に入ると、先生が一人、椅子に座っていました。


 桜に話しかけます。


「あのさ、桜ちゃん。桜ちゃんに使う時間は、オレにとってしんどいの。オレの劇団には桜ちゃんは絶対入れない」


 わかっていること、と、桜は思いました。


「勿論、桜ちゃんがオレの恋人だったらどんな話でも時間をかけて聞くよ。でもそうじゃないもん」


 振られてしまいました。


 でも、こんな本番寸前に言うなんて。


 桜は舞台に立ちました。憧れていた舞台です。けれど、そこで見たのは希望ではなく絶望でした。


 拍手される瞬間だけ、妙に高揚していたのを、桜は覚えています。


 仲間が一列にならんで、拍手を受けるのは、例え絶望の時でさえ、桜を酔わす魔法の力を持っていました。

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