記録

伊豆泥男

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 こうしてアダムを追放し、命の木に至る道を守るために、エデンの園の東にケルビムと、きらめく剣の炎を置かれた。――――創世記3章24節



 主は告げられた。

「人はついに呪いを乗り越えた。もはや私は、アダマ生命エバの子たちを咎めはしない。彼らもわたしと同じになるのだ。」

 十字の子から二千の年が過ぎ、短いようで長い贖罪が終わったのだ。私は喜びに打ち震えた。これでようやく、地の民は救済される。

「さて、ケルビムよ。あなたに人を救う赦しを与える。知っての通り、命の木の実を食すには、幸せの中になくてはならない。この意味がわかるか。」

 私は主にこたえた。

「地の民すべてを、喜びの地ハレルヤへ導けばよいのですね。」

 主は大きく頷かれた。そして私に一切をゆだね、エデンのはざまに消えられた。

 しかし、天の使いである私には地の民の幸せがわからなかった。知りえぬものを、どうやって与えようというのか。人ならざる身に、それは不可能に思えた。

 こういうわけで私は堕天した。人の幸せを知るためには、人に身を落とさなくてはならない。私は天の使いとしての記憶を失い、翼と光輪を捨て、人の姿を受肉し、皮の衣をまとい地上へと降りたのだ。安息日の一つ前のことであった。

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