花火

 夏が終わりに差し掛かっていた。

 夏休みの最初こそ揉めたりもしたけれど、きっとそれはそれで良かったんだと思う。今だから言えることなのかもしれないけど。

 あれから夜空とは毎日のように会っていた。なんとか7月中に宿題を終わらせて、あとはひたすらに遊んでいた。近所のアイス屋さんでアイスを食べながら雑談したり、ショッピングモールでぶらぶらしたり、プールや遊園地も行った。

 とてもとても、楽しい夏休みだった。

 そんな夏休み最後のイベントが今日である。


 「皐月、お待たせ」

 「そんなに待ってないよ夜空」

 振り返るとそこには浴衣姿の夜空がいる。白地に濃い色の花と淡い色の蝶が舞う浴衣は、とても夜空に似合っていた。

 「夜空かわいいねえ」

 「皐月も元気な感じが似合っているわ」

 対するわたしは甚平である。濃紺のシンプルなデザインで、動きやすいのがいいところだ。

 「でもせっかくなのだから、皐月も浴衣でもよかったのではないかしら」

 「それも考えたんだけどさ、動きにくいかなって。夜空が浴衣だからわたしがエスコートするよ」

 「甚平の王子様ね」

 そんなかっこいいものじゃないけどね。そもそもかっこよくないね、甚平の王子様。

 二人でぷらぷらと防波堤の上を歩く。今日は大きい河川敷で行われる花火大会で防波堤が広いためにそこで屋台も結構出る。屋台だとなにを見てもおいしそうだし楽しそうだから困る。中学生のお小遣いはそんなに多くないのだ。なんとか食べたいものを決めて防波堤から河原に降りる。

 王子様なので階段では夜空の手を引いた。混んでいるものの、隅っこの方に座ることができて、買ってきたものを食べる。

 しばらくすると音割れだらけのアナウンスが入り、花火が打ち上げられた。

 「ねえ皐月」

 「うん?」

 「あなたと花火を見に来られてよかったわ」

 「わたしも。夜空と一緒に来れてよかった」

 「夏休みの最初、怒ってごめんなさいね」

 「いいよ。わたしが悪かった」

 「新学期に入ったら今度は二人とも席がないかもしれないわ」

 「そうかも。でもいいよ。そうなったら一緒に机を探しに行こう。いなかったら図書室で本でも読もう」

 夜空はくすくすと笑う。そうやって夜空が笑ってくれるならそれでいいんだ。

 「ねえ夜空」

 「なに?」

 「秋になったらイベントがたくさんあるよ」

 「そうね。文化祭、体育祭、修学旅行、盛りだくさんね」

 「楽しみだねえ」

 「ええ、そうね」

 夏が終わろうとしている。

 それを惜しみつつもわたしたちは次の季節に進む。

 きっといいことも嫌なこともあるだろう。

 でも二人なら大丈夫。

 夜風が少し涼しくなってきた。

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