対話

 「皐月さん」

 「んんん、珍しいね夜空さんから話しかけてくるなんて」

 「あなたに話したいことがあるのよ。移動しましょ」

 放課後に夜空さんから声をかけられる。てくてくと彼女についていくと屋上の入り口まで連れていかれた。うちの学校は屋上が施錠されているので入ることはできない。そのかわり屋上入り口の踊り場が少し広くなっていて、物置代わりになっている。

 「今更だけど皐月さんは今日この後の都合は大丈夫かしら」

 「大丈夫だよ。お気遣いなく」

 「ならよかった。単刀直入に言うわね。机の上に封筒を置いたのはあなたね」

 文字通り単刀直入に夜空さんが切り出す。

 そういう言い方は嫌いじゃない。

 むしろ好きだ。もってまわったような言い方をされるのは苦手なのだ。

 「半分正解で半分はずれ。一週間と1日、つまり6日封筒が置かれていたけど、わたしが置いたのは2日だけだよ」

 「そうでしょうね。残りの4日は私だもの」

 やっぱりか。

 わたしが嫌がらせされていることを知っている人。

 それを止めさせたいと思う人。

 直接的にはなにもしない人。

 だけどなにもせずにはいられない人。

 そんなの夜空さんしかいないじゃないか。

 「やっぱりって顔をしているわね。気づいていたの?」

 「ううん、そうかなーーって思ってたくらい。まあ他にやりそうな人いないんだけどね。みんなヘタレでしょ」

 「はっきり言うのね。いいんじゃないかしら」

 珍しく夜空さんがほほ笑む。あまり穏やかなものではなかったが。

 「そもそもの話をするわね。私が何故あの連中のグループから外されたかということよ。なんでも『いつもスカした顔が気に入らない。バカにしてる』だそうよ。

 そんなつもりはないけど、案外当たっているのかもしれないわね。

 私、あの人たちを友達だなんて思ったことないもの。

 だから一人でお昼を食べたり教室移動をするのはかまわなかったのだけど、困ったのは授業中にグループを作らされることね。

 クラスの誰もが私を除けようとしたから。

 で、そこに現れたのは空気の読めないあなたよ。私に声をかけ昼食を共にし、あなたへの嫌がらせが始まってからは私以外とは口をきかなくなったでしょう。

 連中の目的は私を孤立させることだった。なのにそれが皐月さんによって阻まれた。だからあなたを排除しようとした。

 ごめんなさいね。私のせいで、あなたまで巻き込んで、ひどい嫌がらせまでされてしまって。

 なんて、謝ればいいのかわからないくらいだわ」

 夜空さんは悔しそうに俯いた。

 その一連の流れは想像通りであり、気づいてはいた。

 けど夜空さんがハブられた理由は納得がいかない。追及はしないんだけど。

 「いいよ別に。ていうか悪いのはあの人たちでしょ。夜空さんが謝ることじゃない」

 「そうなのだけど、気が収まらないのよ。

 それはそれとして続けるわね。私は考えたのよ。どうしたらローリスクでこの現状を変えられるかを。そうしたらね、もういっそのことクラス全員を巻き込んじゃえばいいやって思ってね。だってクラスの全員がだいたいの状況くらいわかっているのだもの。

 あの連中が放課後にバカみたいに自慢していたから。今日はどんなひどい嫌がらせをしたか、皐月さんがいつまで耐えられるかってね。

 そういうわけで手紙を作って封筒に入れてクラス全員の机の上に置いたのよ。2日続けてね。効果はてきめんだった。それで終わると思ってた。

 けど封筒はそれでは終わらなかった。あなたが続けたからよ、皐月さん」

 ちょっと眉間にしわを寄せて夜空さんがこちらを睨む。流石に立て続けにやったのはやりすぎだったかもしれない。

 「でもさ、やられてるわたしもなにかやり返したいよ」

 「そうよね。だから皐月さんへの嫌がらせが完全になくなるまでは続けることにした。今日はなにもなかったでしょう? ならもういいと私は思うのだけれど、あなたはどう?」

 「うん、いいんじゃない。あの人たちも多少は恐怖しただろうし、他の人たちも疲れてきてるしね」

 「あなたのそういう優しいところ好きよ。じゃあ封筒を置くのはお終いにしましょう」

 それでいい。べつにわたしは、わたしに対する嫌がらせにはなにも思っていないのだ。

 嘘、ちょっと面倒だとは思ってた。でもそのことで夜空さんが気に病んでいて、解消されたならそれでいい。夜空さんがなにかをすることで気が落ち着いたのなら連中は許されたんだろう。

 「夜空さん、最後に聞いていい?」

 「なにかしら」

 「明日こそはベランダでお弁当食べようか。天気いいらしいよ」

 「嫌よ。制服が汚れるもの」

 そう笑って、2人で屋上を後にした。

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