『虐殺器官』を観て
平 一
第1話
1 あってはならない『戦争の効用』
劇場版アニメ『虐殺器官』を観ました。
犯人の最期や主人公のけじめ、公的機関の関与など、補足資料がないと分かり難いところもありましたが、作品が何よりも言いたかった主題は、『 戦争で(テロも含む)戦争を抑える 』ことの可否だと思います。
ネタバレ注意……といっても
TVアニメ『ヨルムンガンド』に出てくる航空航法妨害システムのように架空だが、大衆操作のようにソフトな分だけ、現実味のある手段が怖い。国家間や民族・階層間の紛争問題にこのような対処をするようなことになってはいけない、と我々に語っているように感じました。
文明には、ダビデの星あるいは
社会的な認識、決定、行動すなわち科学・技術、制度・政策、経済・社会活動という3つの文明活動と、それらの基礎あるいは必要条件となる物的資源、人的資源、自然・社会環境という3つの環境条件です。
そして、偽書『アイアンマウンテン報告』に書かれたように、あってはならない〝戦争の効用〟というのも、事実上は存在してしまっていたのかもしれません。
① 科学・技術の発達。
② 新しい制度・政策の導入。
③ 経済・社会活動における活性化や格差縮小、統合や安定化。
④ 老朽市街地など物的資源の更新。
⑤ 私のような虚弱者など人的資源の淘汰。
⑥ 自然・社会環境の再認識や改善、適応。
戦争は、6つの文明要因のいずれについても、良い影響を与えてしまうことがあるのです。
悪意だったら非難もできますが、困窮さらには善意から犠牲が容認・要求されるのは、もっと悲しく恐ろしい。
2 戦争をもたらす諸課題
そして今また、人類は3つの持続可能性の課題に直面しています。
Ⅰ 科学・技術が経済・社会活動を豊かにするときに必要な条件である、
『物的資源』の持続可能性。
Ⅱ 制度・政策が経済・社会活動を健全に保つときに必要な条件である、
『人的資源』の持続可能性。
Ⅲ 文明活動の本体たる経済・社会活動が続いていくための内部条件である、
科学・技術を受けた富の再生産と制度・政策を受けた富の再分配の両立、
すなわち『経済・社会活動』それ自体の持続可能性です。
それら3つの理論的な課題を、人間が生きていくのに必要な資源(富)の生産(獲得)と分配という点からみれば、4つの現実的な問題として現れます。
① 特定の資源が不足する、『資源枯渇』。
② ある資源の利用が、環境内にある他の資源を損なう『環境破壊』。
③ 資源の分配が、文明の持続的発展には不適切な『貧困や不公正』。
④ 公正感覚の不足や食い違いから、さらに資源が損なわれる『紛争や犯罪』。
これまでそうした課題は、資源を巡る戦争や各種の淘汰によっても〝解決〟されてきたのかもしれません。しかし文明の発展により、生活水準や武器の威力は向上し、地球という自然的な限界や、国際社会の一体化も見えてきました。今や従来のようなあり方は、非人道的、無責任、非効率あるいは不確実で、将来性がなく、自滅的でさえあります。
新しい技術と、政策が必要です。
3 犠牲なき解決のために
新しい技術は、生まれつつあります。
Ⅰ 資源枯渇や環境破壊を防げる、新素材・新エネルギーの技術。
Ⅱ 人的資源の経年・経代劣化を人道的な手段で防ぎ、補える、先進的な保健・医療・教育やロボット・HMI《ヒューマン・マシーン・インターフェイス》の技術。
Ⅲ 経済・社会活動が巨大化・複雑化・急速化しても、個人や組織の活動を支援し、争い少なく上手に利害を調整して、再分配と再投資を両立させ続けられる、IoT《インターネット・オブ・シングス》とビッグデータ処理、知能ロボット、
それは、人間の頭脳のような自己発達型の、技術開発や意思決定も支援できる
効果としては、人工物と自然物、機械と生物の間の障壁を取り払って両者の長所を分け合い、いわば〝
従来の技術との関係でいえば、農業・工業・情報技術といった、ある意味において人間や自然や社会の〝外部〟にあった、物質・エネルギー・情報の利用技術を、いわば内部化・親近化することで、持続可能性を高める技術です。
そして一言でいえば、体内環境を含む自然環境や、社会環境に優しい、『 親和技術 (familiar technology) 』 と呼び得る技術です。
しかし、そうした技術だけなら、まさに作品世界にも数多く登場したのでは? そう、新しい政策も必要です。
Ⅰ 最もよく文明課題を解決し、生産性を高めうるように新技術を開発・普及するための、技術的政策。
Ⅱ 新技術を悪用・誤用せず、活用できる人材を育成・確保するための、人的資源政策。
Ⅲ 新技術により健全な経済投資や利益の社会還元を促すための、経済・社会政策。
(行政活動を健全に保つ行政管理政策も、広い意味ではここに含まれます。)
こうした政策への参画こそ、全ての人々が関わることが可能となり、かつ必要となっていく、人間だけが主体となれる〝仕事〟だと思います。
より少ない犠牲あるいは
そのような〝人間性〟がもつ、無制限的な可能性と危険性の双方を増幅するのが、富を増やす技術であり、前者を最大化し後者を最小化するのが、富を分ける政策だと思います。文明の二本柱をなす、技術と政策の向上という潮流から外れてしまう社会は、今後の発展から取り残されてしまう恐れがあると考えます。
一方、以上のような技術や政策によって、経済・社会活動をより豊かにし、健全に保つことができれば、次にはそれを、宇宙施設・植民地などより小規模な
戦争はもとより、この物語のような犠牲も出ない方法による、人類文明のさらなる発展に期待したいです。
この映画はあらためてそんなことを考えさせてくれる、素晴らしい作品でした。
『虐殺器官』を観て 平 一 @tairahajime
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