魁の花

朝星青大

第1話

1 石段




「あなた、待って!」




その声に振り向くと、紫穂が広い石段でしゃがみ込んでいる。




「あっ! どうした?」




新太は石段を駆け降りて、ひざまづき、紫穂の脇へ寄り添った。




水戸の梅祭りに押し寄せた観光客が、臨時駅から続々と階段を登って来る。




「足を挫いちゃった」




紫穂が泣き笑いの表情を浮かべ、雑踏の中で告げた。




「そうか。少し休もう」




新太はコートを脱ぎ、それをたたんで石段の端へ置いた。

そこへ紫穂を座らせ、後続の観光客から守るように、新太は紫穂の前に立った。




「ひどく痛むか? もし、あんまりひどいようなら救急車を呼ぶよ」




「ううん。そこまでは。ちょっと休めば、だいじょぶよ。少し捻っただけだから」




「そうか。だけど、それにしたって…………じゃあ、こうしよう」




「どうするの?」




「お姫さま抱っこで、階段を登る!」




新太は数十メートル先にある高台を見上げながら、きっぱりと言い切った。




「えっ? まあっ! だって、そんなこと!」




紫穂は、新太を見上げて戸惑いの視線を投げた。




「愛妻を抱っこするぶんには法律違反にならないさ」




「えっ? 法律違反? それは、そうでしょうけど…………うぷぷぷっ」




紫穂は吹き出してしまった。




「こんなところで、お姫さま抱っこだなんて……恥ずかしい」




「おんぶしてもいいけど、そっちのほうがカッコ悪いぞ」




「何を言ってるの。そういう問題じゃなくて」




「ああ、危ないって事か。だけど、他に方法がない。ゆるい勾配だからね。ゆっくり登れば大丈夫だよ」




人の波が切れて、人影がまばらになった。

臨時駅の改札口には人は居なかった。




「ええ。そうね。じゃあ、お願い!」




紫穂が新太の手を掴み、立ち上がった。




「よしっ! 紫穂は僕の首に手を回して、しがみつくんだよ。いいかい?」




「ええ、いいわ。落とさないでね!」








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