或る記憶1

 空を仰ぎ見るのはいつぶりか。思い出せない。


 何故だ。何故、我が倒れている。

 我が敗れたというのか? 人間如きに。この我が?

 有り得ぬ。そんなことがあるはずがない。

 どこだ。どこで間違った。見誤った。

 あの時か。あの時、あいつらを葬り去っていれば……。


 あの男。

 レオンと言ったか。

 あの男の顔だけが、今も妙に頭にちらつく。

 何故だ。


 ああ。そうか。

 似ているのだ。


 誰に?

 思い出せない。何も思い出すことができない。

 どこで何を、我は間違った。どうして我は思い出すことができない。“昔”のことを何一つ思い出せない。


 何故、我は人間を憎む。何故、この世界を滅ぼそうとした。何故。


 ああ。

 我が瘴気が消えていく。空が、晴れていく。

 

 こんなにも青い空など、どれくらいぶりに見る。わからない。何もわからない。

 あれは、虹、か。

 何故……なぜ、こんなにも悲しい。


 どうして我は、泣いている。

 手を伸ばす。何も、つかめない。

 我には何もない。


 ああ。

 そうだ。


 ひとつだけ。思い出した。



 我は。



 我の、真の


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