第5話 狩人たち
「それじゃあ、世話になったな」
「まったくだ」
愛想のないやろうだ。こういうところは相変わらずだな。
「そういえばシエルはどこ行った?」
「さっき、ちょっと空飛んでくるといって出ていったな」
「そうか」
別れの挨拶ができなかったな。そこらへん飛んでいるならもしかしたら会えるかもしれないが。
「気が向いたらまた来い。話だけなら聞いてやる」
「……お前、本当に変わったな。今度はイノシシじゃなくて、でかい牛でも獲ってきてやる。じゃあな」
「ああ」
俺はダガーに別れを告げ、歩き始めた。村を出てしばらく歩いたところで、俺は立ち止った。
――なんだこれは。嫌な気配を感じた。空気がピリピリしているような気がする。それにこれは、獣の血のにおいか。
ユード諸島は自然が豊かだ。多くの獣が生息している。あのイノシシさんのようなばかでかい獣や島を渡る珍しい鳥たち、希少な昆虫などもいるという。
ユード大陸ではそれらの種を保護するために、とある国が法を定めてその管理下に置いているが、なんたってここも辺鄙なところだ。何かあってもその動きは遅いという。
みつりょうしゃ。密猟者。俺はシエルの言葉を思い出していた。
空気を切る音が聞こえた。俺は飛んできた矢を指で挟んで止めた。
矢は至るところから飛んでくる。俺はそれをすべて弾き飛ばした。近くの草むらから俺の心臓めがけて矢が伸びてくる。それは他のものよりも速く、鋭く飛んできた。が、それも俺は難なく防ぐ。
「お前さんはなかなかの腕前みたいだな。だが、この程度で俺を仕留められると思ったか?」
俺に矢を当てられるのは、世界一の矢の名手クインくらいなものだろう。なめられたものだ。俺は剣を抜いた。
「ひひ、ひ。残念。万が一でも、魔王を倒した戦士の一人を打ち取れれば、おれたちの名をあげられたのに」
フードを被り、鳥のような仮面をつけたヤツらがわらわらと茂みから現れる。
「なんだおまえら」
「ひひひ。悪かったな。おれたちはただの狩人さ。この島は獲物が豊富だからな。獲物は殺しても生け捕りにしても高く売れる。何よりも狩りを存分に楽しめる」
「なんだと?」
「ひひ。そんな怖い顔しなさんな。悪かったって。本気であんたを打ち取れるなんて思ってやしないよ。もう、ちょっかいださねぇ」
草のすれる音が鳴ったと思うと、その一人を残して連中は姿を消していた。
「いやいや、ホント、おれたちはあんたらに感謝してるんだぜ。魔王を倒してくれたおかげで、おれたちはこうして狩りを楽しむことができる。ひひ、あんたもモンスターをたくさん狩ってきたんだってな。おれたちは同類ってわけだ」
「……俺は楽しんでモンスターを殺したつもりはないがな」
「ひひ。そうかな。あんたは楽しんでいたはずだ。今も求めているはずだ。刺激をな。獲物を屠る快感をな」
「――失せろ!」
俺が怒鳴ると、そいつの姿も消えた。
(ひひひ。怖い怖い。でも、思い出すがいいよ。戦いを楽しんでいた自分を。その本能が赴くがままに生きれば楽しいよ)
そしてその声も風とともに去っていった。
俺が……求めているだと。戦いを? 殺しを? 楽しんでいただと?
剣を握る俺の手が震えている。俺は……俺は!
「ちくしょう! そんなの、楽しいわけねぇだろう!!!」
俺は地面に頭突きした。地面が震撼して割れる。
「あああぁぁぁあああぁあぁぁっ!!」
俺は叫んで、両の頬をバシッと叩いた。
いちいち悩むな。悩むのは後だ。なら、俺のすべきことはなんだ。決まっている。連中をここから叩きだしてやる。どうして? それが俺だからだ。
俺は剣を握り直し、駆け出した。
4人はあっという間に捕まえて縄で縛ってやった。あの場には確か全部で8人いたはずだ。あと4人もすぐに捕まえてやる。
意気込む俺の前にどさっと何かが転がってきた。それは今まさに探そうとしていた4人の狩人たちだった。
「意識を失っているだけだ。最近、こういった輩が増えて困っている」
「ダガー……!」
「後の始末は任せておけ。役人にでも引き渡しておいてやる」
「ああ、頼む……いや、待て。まだだ、まだ、いる!」
「何?」
一番腕の立つ、あの男がいない。くそっ、あの場にはいなかった仲間もいたってことか。何か嫌な……嫌な予感がする。急いで捕まえなければ。
「きゃあぁぁぁっ!!」
「――シエル!!」
遠くからの叫び声を聞き、俺とダガーは弾けるように駆け出した。
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