福智瑠璃子の憂鬱
その日の夜、福智家。
(うわああああああああああああああああああああ、やらかしたあああああああああああああああああ‼)
私はベッドにうつ伏せになり、心の中で絶叫していた。
何度も思い出す昼休みの自分の振る舞い。
(恥ずかしくて生きていけない……)
枕を両手で抱きしめ、その端に顔を埋める。
そうやっても、顔の火照りはまったく引く気配を見せなかった。
(ああ、ダイエット意識して最近ご飯少なめにしてていつもお腹減ってる上に今朝寝坊してギリギリになって朝ご飯抜いちゃって空腹がMAXになったからってあんな変なキャラになるとかありえないでしょ私‼)
少し顔を枕から離すと、本棚が目に入った。自分で買い集めたものの他に、父親から譲り受けた古びたものも並んでいる。
読書家の父親の影響か、私は小さいころから本が好きだった。好きとは言っても、文学少女とか読書家を名乗れるほどじゃない。名作と言われるような作品はそんなに読んでないし、そもそも読んだ冊数自体も少ない。とは言え、本が好きなことには違いない。その気持ちには自負と言うか、何と言うか……自信はある。そこに綴られた物語だけじゃなく、本そのものの質感――私はすべてが好きだ。
だとしても。
『パンが無ければ本を読めばいいのよ!』
うん、これは無い。ワンチャンスも無いと思う。
一体どういう思考の果てにこの言葉に辿り着いたのか、自分でもはっきりとは覚えていない。でも何となくわからなくもない。
いつもはお母さんにお弁当を作ってもらっているけど、今日は私が自分で作って持って行くか、購買や食堂でご飯を食べなければいけない日だった。
そんな日に私は寝坊してしまい、朝ご飯を食べずに登校してしまった。ダイエットと称して食事の量を減らしていた私の空腹度は、昼休みを迎えるころにはMAXになった。ただこの時までは、私はまだ正気を保てていた。
授業が長引いてしまい、いつもより10分ぐらい遅れて購買と食堂のある1階に降りた私は、食堂の人混みに目もくらむ心地がした。
『空腹のまま待つより、購買で何か買おう』
そう思って私は購買へと入ったけど、すでに他の人たちにほとんど買われてしまった後で、お腹を満たせそうなものは残っていなかった。
深くため息をついた私は、食堂に近い中庭のベンチへと腰を下ろした。たまたま立花くんが先に座っていて、ベンチのそれぞれの端に2人で座る格好になった。
立花くんも食堂が空くのを待っていることは察していた。
あまりの空腹感に耐えるために、私は何か気を逸らせるものは無いかと考え始めた。そして本でも持ってくれば良かったと思ったところで何かが狂い始めた。
(ただじっと耐えてれば良かった……)
妄言を吐き散らした挙句、結局昼食を取り損なった私は、ランナーズ・ハイのような状態で昼休み後の授業を乗り切り、休み時間にメロンパンを食べてようやく落ち着きを取り戻した。授業中に変なことを言いださなかったのは自分でも奇跡だと思う。昼休みの件についても、ほとんどの生徒には聞かれていなかったのは幸いだった。
だけど、
(絶対、立花くんに言いふらされてしまう!)
唯一昼休みにわたしと相対して言葉を交わした人間。ぼさぼさとした髪に半開きの目、ただそのルーズな印象に反して乱れのない制服を着た彼が、口元を歪めて私を
たとえ他の生徒に聞かれていなくても、彼から広まっていく可能性が考えられるどころか十分にあり得る話だった。
(イメージぶち壊しだぁ……)
生真面目に生きてきて学級委員としても一生懸命働いてるのに、あんな変なことを口走っていたとか知られたら、もう……!
(うわああああああああああああ、もう嫌だあああああああああああ‼)
ジタバタとベッドの上で暴れる。ボスッ、ボスッと布団が乾いた音を立てた。
明日、私は皆にどんな目で見られるんだろうか?
そんなことを考えると、まったく眠れなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます