よくあるトラック事故で異世界転生、しかしこのパターンは無かった・・・

「クニちゃん・・・これ・・・」

「おっおぅありがとうな」


学校の通学途中、彼女の佐藤美鈴から渡されたお守りを受け取る。

俺の名前は高橋邦弘、通称クニだ。

実は彼女である美鈴と交際を開始したのはつい昨日の事だ。

身代わり地蔵を祭る神社の一人娘である美鈴はおかっぱ頭の可愛い女子中学生、俺の子供の頃からの幼馴染だ。

切欠は簡単、美鈴がクラスメイトに告白されたと困惑した様子で相談してきたので俺は言ったんだ。


「えっ?告白・・・されたの?」

「うん・・・私どうしよう・・・」

「悩むくらいなら断れよ、何だったら俺と付き合ってるって言っていいから」

「えっ?で・・・でも・・・クニちゃん・・・私と付き合ってるって噂されたら嫌じゃない?」

「いつも一緒に居るんだし結構そう思われているみたいだぜ」

「だっだったらさ・・・私達・・・本当に付き合ってみない?なんて・・・」

「いいぜ、美鈴が嫌じゃないなら」

「えっ・・・」

「だって俺・・・ずっとお前の事・・・」


流れと勢いでずっと押し殺していた想いをぶちまけてそのまま交際を開始しちゃった過去の俺をぶん殴りたいのは言うまでも無いだろう。

でもまぁ結果よければ全てよし、柔道の道場をしているうちの両親に一応昨夜報告したら・・・


「なんだお前知らなかったのか?佐藤さんとお前は許婚だぞ?向こうのご両親も知ってる筈なんだがな・・・」

「はぁっ?!」

「まっお前達ずっと仲良かったから明かさなくても大丈夫だろうとは思ってたが、うんめでたい!今日はすきやきだな!」

「親父・・・すきやき食いたいだけだろ・・・」


となった訳だが話しによると美鈴の家でも同じ様な事があったそうだ・・・

なんだかなぁ~


そんな初々しい感じの2人は学校へ向かって歩いている。

昨日までとは景色が変わって見えるのは彼女が居ると言う気持ちのせいだろうか?

そんな事を考えていると前の交差点でそれに気付いた。

左側から子供が歩いてきていて右側に居る女の人に気付いて走り出したのだ。

親なのだろうか?だが道路を左右を見ずに横断しようとしているその様子に俺は駆け出した。

正面から猛スピードでトラックが向かってきていたのだ。

運転手からは交差点角にある家の塀で子供の姿が見えていない、そしてこのまま行くと・・・


「クニちゃっ!!」


後ろで美鈴の声が聞こえたが俺は止まらなかった。

道路を斜めに横断して走る子供に駆け寄りその背を掴んで女の人目掛けて投げた。

そして、真正面に既に来ていたトラックのクラクションが鳴り響く・・・

両腕をクロスして衝撃に供えた俺はチラリと子供が上手く女の人に受け止められているのを確認して微笑んだ。

ごめんな・・・美鈴・・・


それが俺が最後に見た光景であった・・・














『おきなさい・・・』

「ん?あれ?・・・ここは?」


目を開いたらそこは真っ白の空間であった。

全てが白、自らの体も見えず白一色に染まったその世界に声が響いた。


『全て見させてもらいましたよ、貴方は大変立派な人間のようですね』

「立派?」

『えぇ、死ぬ筈の子供をその身を呈して助けるとは人間もまだ捨てたものではないですね』


子供・・・?

助けた・・・?


『ふむ・・・どうやら記憶が死んだ衝撃で失われたみたいですね。でも安心して下さい貴方は異世界ですが人間として転生する事となりました』

「転生・・・」

『そこは地球とは違って魔物や魔法のある世界、なので貴方には特別に貴方に由来のある力を発揮するスキルを与えましょう』

「スキル?」

『これです・・・名を『前世再現』と言います。例えば死んだ時の効果を発揮すれば中学生だった貴方と同じ身体能力と知識を得るでしょう』

「それは凄い・・・のですか?」

『それは貴方しだいです。それでは新しい世界でも頑張って下さい・・・』


そう告げられ目を開いたそこには新しい両親の姿が在った・・・












「ようクニ、今日でお前もDランク冒険者だな」

「あぁ今まで世話になったダン」


冒険者ギルド、その受付で俺はDランク冒険者の証であるカードを受け取った。

冒険者Dランクになると町の外の依頼を受ける事が出来るようになり魔物退治が出来るようになるのだ。

そうなれば報酬は一気に高くなり両親への仕送りも沢山送れるようになる。


「それじゃ最初はこれなんてどうだ?吸血ナメクジの討伐だ!動きが遅いし最初の討伐以来としては妥当だぜ」

「吸血ナメクジ15匹か・・・よし、やってみるわ!」

「んじゃこれ持ってけ」


そう言って渡されたのは塩である。

食用の塩であれば高額であるがこれは安物の食べれない塩だ。

聞いた話では人の汗を使って作り出すとか・・・うぇぇ食べたくないな・・・


「ありがとうダン」

「おうっ頑張れよ」


そう言って町を出たのは早朝の事だったのだが・・・

現在時刻は夕方・・・

そして俺は木の影に隠れていた。


「おぃっお前あっちいけよ!」

「何言ってるんだよお前がいけよ!」


森の浅い部分で吸血ナメクジを退治していた俺は突然現れたこいつに巻き込まれた。

冒険者ランクDと言う同じランクの冒険者の男だが問題はこいつの連れて来た魔物だ。

豚骨ゴーレム、その名の通り豚の魔物オークとゴーレムの間に生まれたハーフの魔物だ。

体の半分が石で出来た奇妙な生態のコイツはランクC冒険者でも苦戦する強さの魔物だ。


「くそっなんでこんなことに・・・」


調子に乗って勝手に奥へと行って強い魔物に目を付けられた馬鹿が唸っているが知った事ではない。

巻き込まれたのはこっちなのだ。

2人掛かりでも俺達の手に負える相手ではないのは明白、森から抜ければ助かるかもしれないがそれも出来そうに無い・・・

どうするか悩んでいる俺の頭にあの言葉が思い出された。


『名を『前世再現』と言います。例えば死んだ時の効果を発揮すれば中学生だった貴方と同じ身体能力と知識を得るでしょう』


中学生と言うのが何なのか分からないが凄い身体能力と知識があるのであればこの窮地をなんとか出来るかもしれない・・・

そう考えて最後の賭けに出た!


「おっおぃっ!」


馬鹿が叫んでいるが俺は気にする事無く木の陰から飛び出した!

そして森の外へ向かって走りながら叫ぶ!


「スキル『前世再現』発動!」


生まれて始めて使うスキル、目の前が光に包まれて俺は目を瞑った・・・















『あれ?おかしいですね・・・なんで?でもこっちも・・・あれ?・・・ま、まぁいいでしょう・・・』


白い空間で何処かを覗き込んだソレは困惑しながらも自らの処理を誤魔化していた。

そこに記されていたのは転生者のプロフィール・・・

そこに記されていたのは・・・













「な・・・なんじゃそりゃぁあああああああ!!!」


馬鹿の叫びが聞こえた。

だがそんな事は気にする必要は無い、俺は今最高に気分が良いんだ。

後ろから迫る豚骨ゴーレムの足音が非常に小さく聞こえる。

俺は体を反転させながら木々をなぎ倒し豚骨ゴーレムに向かう合う!

そして一気に・・・前進した!

地面を抉りながら突き進む俺の驚くほどの加速に豚骨ゴーレムは焦ったのか立ち止まった。

だがもう遅い!俺は直前まで突き進み左へ・・・ハンドルを切った!

後輪が横滑りを起こしドリフトの容量で荷台が豚骨ゴーレムに激突する!

周囲の木々をなぎ倒し圧倒的物量で20トンの重量まで詰める荷台は豚骨ゴーレムを粉砕しながら周囲を吹き飛ばした!

そう、俺は・・・大型トレーラーだ!


そして、直ぐに俺の体は元の人型へ戻りその光景を見て唖然とする・・・

魔物は肉片となり木々は伐採され地面には大きく残るタイヤ痕。

とりあえず肉片から残された豚骨ゴーレムの魔石を拾って町へと戻る・・・

これはスキル『前世再現』により大型トレーラーに変身する事が出来る異色の冒険者の物語・・・

無敵の荷台プレスは魔王城すらも魔王ごと粉砕して異世界を平和にするのはまだ先の話である・・・












「クニちゃん!クニちゃん!」

「ん・・・んんっ・・・ここは?」

「大丈夫?クニちゃんトラックにぶつかられたけど受身を取って助かったんだよ」


顔を上げるとトラック、いや大型トレーラーはハンドルを切ってクニを避けるように横転していた。


「きっと身代わり地蔵のお守りが助けてくれたんだな、ありがとう美鈴」

「っ?!」


ちゅっとほっぺにキスをされて真っ赤になった美鈴は泣き腫らしたであろう顔を邦弘の胸に押し付けた。

遠くで聞こえるサイレンの音にトレーラーの運転手が這い出す映像・・・

運よく死者が出なかったこの事故であるが誰も知らない・・・

一つの魂がこの時死んで異世界に転生している事など・・・





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