異世界転移は本当は怖い話

小さい頃から俺には見えていた。

死相と言うのかな?その人が2時間以内に死ぬのが俺には分かるのだ。

病気や事故死、どんな死に方かは分からないがそれが見えてから2時間以内に見えなくなるように行動をとらなければ死は確実に訪れるのだ。


「え~であるからして夏休みだからと言って…」


ステージで俺の通う高校の校長が何か言っているがそれどころではない。

体育館に全校生徒が集まっているのだが見えているのだ…全員に。

俺の能力の欠点として自分の死相は見れない。

だがこの異常事態は既に手遅れなのだろう。

大災害が起こるのか?

それとも某国からミサイルが飛んでくるのか?

何にしてもここを抜け出したとして助かる見込みは限りなく低いだろう。


「うわっ?なんだこれ?」


誰かの声がして視線がそこに集まる。

それを皮切りに次々とそれは現れていった。


「えっ?」

「なに?なに?なに?」

「ふぇ?!」


連鎖的に騒がしくなる声は広がっていき教師にも現れたのだろう。


「静かにしなさい!誰だこんな悪戯をするやつは?!」


俺は床に出現したそれを見詰める…

丸い円の中に見たことのない文字が沢山書かれていて良く分からないが魔方陣というやつなのだろう。

大きさは肩幅位で周りの生徒にも同じように現れていた。


「きゃぁっ?!」


突然聞こえた誰かの悲鳴、だがそれも瞬時に消えて何かが床に落ちる音が聞こえる。

ざわざわと騒がしい声が聞こえたと思ったら直ぐに聞こえなくなりそれは俺の元へもやって来た。


「うわっ?!だれかたすっ…」


俺は目を疑った。

目の前で人が…

そこまで考えた次の瞬間視界が真っ白になりいつの間にか俺は石造りの建物の中に立っていた。


「なんて…なんてことじゃ…」


誰かが嘆く声が聞こえたがそれどころではなかった。

地獄絵図とはこういうものを言うのだろう。

俺の目の前には直ぐ前にいた男子生徒の体があった。

首から上がなく血が吹き出しながら事切れるように男子生徒の体は床へと落ちる。


「俺の腕がぁぁぁ!!!」


叫びを聞いて視線を向けるとそこには両腕が無くなり血を滝のように流す生徒が…


「なんなんだこれは?!一体なにをやったんだお前ら?!」


怒鳴り声に視線を向けると担任が老人に怒鳴っていた。

担任も左腕が肘から先が無くなっていた。


「助け…たす…け…」


床に転がる女生徒は腰から下が無かった。

辺りに広がるのは人の血…血…血…

どうすることもできずただ立ち尽くしていた俺は自分の体が五体満足な状況を確認して初めて体が震えているのに気付いた。

するとなにもしていないにも関わらず頭の中に現在の状況の説明が流れ始めた。


転移魔方陣、異世界の者を呼び出す禁断の魔法。

呼び出された者が行った先で所持する魔力量に応じて転移を行える範囲は決まる。


つまり、あの魔方陣の中に在ったモノがこの世界へ呼び出された訳だ。

魔方陣の中に在ったモノだけが…


周りを見ると殆どの生徒は出欠多量で既に虫の息、何人か無事なものはあの老人を責めていた。


「帰して!」


その言葉を叫んだ泣く女生徒は女とは思えない力で老人を持ち上げていた。

だが俺に見えているのは老人ではなく女生徒の死相であった。


「わ、分かりましたじゃ!今すぐ送り返しますのじゃ!」


首を持ち上げられている老人がそう叫び聞いたことのない呪文を唱える…

ゾクゾクゾクゾク!!!

何かが背を這い上がる様な感覚を受け俺はその場から逃げ出すように駆け出した。

そして俺は見た…

足元に一瞬出現した魔方陣、転移魔方陣は転移した先の所持する魔力量に応じてそのサイズが決まる。

俺がチラリと見た魔方陣のサイズは小石程度のものであったのを…

そう、俺が元居た世界には魔法は存在しない、つまり魔力が無いのだ。

その結果がアレであった。


ドサッドサッドサッドサッ…


俺以外の生きていた人間が次々とその場に倒れていった。

頭の天辺に小さな穴が開いており即死したのは間違いなかった。

あの小さな魔方陣の中のモノだけが元の世界へ帰ったのだろう。

それを俺は込み上げる吐き気を押さえながら岩影に隠れる。


「ほほっ?!これは良いことに気づけたわい!早速王に相談せねば!」


老人は妙に上機嫌になってそのまま何処かへ歩いていった。


『自動経験値獲得をスタートします』

「えっ?!なにっ?!」


突然聞こえたその声に反応を示すがそれ以上何も聞こえなくなる。

そして、再び目を疑う光景が広がる…

大量の死体から光の塊が浮かび上がり俺の体に飛び込んできたのだ。

その光の塊が体内に入る度に自分の体が強くなっていくのを感じた。


「なんなんだよ…」


泣きそうになりながら外を目指して歩くと天井が無く夜空が広がる空間に出た。

空に浮かぶ3つの月、それがここは地球ではないことを表していた。


「生きてやる…皆の分も…」


そう言って俺はその天井の穴から外へ飛び出すのであった…




これは他者の死相を見ることで戦えば必ず相手は死ぬ事から『必殺の冒険者』と呼ばれることになる男の物語…



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