科学者と転送装置と魔王

「ほぅ、これが貴様の作り出した転送装置か」


魔王の前に科学者が巨大なカプセルのようなものを運び込み説明を開始する。


「はい、このカプセルに入りスイッチを押せば瞬時にもう片方のカプセルへ移動できます」


人間の中でも変わり者で有名である科学者は一人山中で暮らしながら研究に明け暮れていた。

魔法のあるこの世界では科学の存在を人々は異教だと唱えた。

そして、彼は人間を見限り独り暮らしを行っていた。

そこを人類を滅ぼそうとする魔族の王に目を付けられたのだ。


「くくくっこれさえあれば人類は終わりですな」


側近が嬉しそうに口にし、直ぐに魔王は作戦を実行に移した。

人類の残された最後の町と城。

そこ以外は全て魔族の手に落ちていた。

だが最後の防衛として人類の抵抗は激しく中々攻め混むのに苦戦していたのだ。

周囲を山に囲まれそこへ向かうには道が一つしかない。

そんな場所だからこそ戦況は片寄っていたのだ。


「直ぐに支度せよ!此度は我も出る!」


こうして、魔王自ら最後の戦い…

まさにラストハルマゲドンに出向くのであった。








人類の抵抗の中、転送装置が人類の最終防衛ライン直前に設置され固唾を飲む魔族達。

そして、連絡を受けた魔王は四天王と共に次々と転送されていった。

決着は直ぐであった。

地形を利用して待ち伏せを行う形で最後の砦としていた人類は蹂躙されこの日、科学者を除いて全ての人間は絶滅したのであった。







数か月後…


「科学者よ、人類はお前を残すのみとなった覚悟はよいか?」

「最後に…一つだけ宜しいですか?」

「よかろう」


科学者が最後の人類として生き残っているのを魔族達は許せず毎日魔物達から抗議が行われていた。

魔族だけの世界を作ると宣言していたにも関わらず匿っていたのが露見したのだ。

だが科学者が作り出した転送装置は今、世界中を行き来するのに魔物にとって欠かせない物となっていた。

瞬時に行きたい場所に移動できる転送装置は既に使用していない知性ある魔物は居ないほどである。

それを産み出した科学者は魔族の仲間と唱える者も多数いたのだが殆どは殺すことを望んでいた。

魔王は民主主義的に最後の生き残りの科学者の願いを叶えると共に王として自らの手を汚すのを決めていたのだ。


「こちらを御覧ください」


科学者が取り出したのは小さな瓶に入った砂であった。

キラキラ光るそれは魔王には一目で魔力を大量に含んだ砂だと認識できた。


「ほぅ、中々の魔力を感じるがそれがなんだ?」

「少し話をさせてください、魔王様はスワンプマンと言うのを御存じですか?」

「???そんな魔物は知らないが」


魔王の返答に科学者は笑みを浮かべ話し始める…

それは沼の近くで雷に打たれて死んでしまう男の話。

その時同時に沼に落ちた雷が汚泥で死んだ男と全く同じ存在を作り出すと言う話であった。

その泥でできた男はそのまま家に帰り両親に電話し、翌日仕事に向かうという話…


魔王は首を傾げて科学者の話に耳を傾ける。

そして、男の手にしている砂と転送装置を見て気付いた。


「き、貴様!?」


力の無い科学者は魔王に瞬時に消し炭にされ殺されてしまった。

その手から落ちた瓶が床に当たり割れて中の砂が飛び散る。

そして、魔王は気付く。

科学者を殺してしまった為に真実を知ることが出来なくなったのを…











「母さん、魔族だけの平和な世の中になって良かったな」

「全く便利にもなったからねぇ」


角のある魔物が転送装置で何処かへ転送される。

母親を見送った角のある魔物が作業をしながら呟く。

彼が行っているのは魔物達が愛用している転送装置のメンテナンスである。


「しかし、この機械は何故定期的にこの砂が出来るのかなぁ?」


そう口にしながら魔力のこもった砂を取り出す角の魔物。

彼は勿論この世界の誰も気付いていない。

唯一知っている魔王は乱心し身を隠してしまったからだ。

角の魔物が近くに捨てている魔力のこもった砂。

それが母親の変わり果てた姿だと知れば角の魔物はどう思うだろうか…






転送装置、それは中に入った者の全ての魔力を抜き取りコピーして指定先の転送装置で塵からコピーを作り出す装置。

魔力を抜かれた者は即死して魔力のカスが残った砂となる…

いつの日かそれに魔物が気付く日が来るかもしれない…

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