繰り返す地獄の一日、全員を助ける為に全員を殺す

朝だ・・・

今日からテスト期間と言う地獄が始まる。


俺の名前は『帯広 一』近所の北海中学に通う中学2年生だ。

アイスホッケー部に青春を捧げる思春期真っ只中の学生だ。

そして、今日からテスト期間で部活が休み・・・

まぁテスト勉強なんてせずに家に帰ったら筋トレするんだけどな。

んで朝練が今日から無いのに早起きしちゃった訳なんだが俺は今鏡の前で固まっている・・・


「なんだこれ・・・」


それは胸元に黒色で浮かんでいた『魂』と言う字に見えないことも無い痣が浮かんでいたのだ。




「よぅ帯広!おっはよ!」

「んっ?あぁ、足寄か」


こいつは俺と同じクラスメイトの『足寄 高貴』クラスの学級委員長をやっている。

運動神経は悪いんだが頭が良くて俺とは小学生低学年からの付き合いだ。


「そうそう、聞いてくれよ。なんか朝起きたら胸元に変な痣が出来ててさ・・・」

「えっ?お前も?」

「えっ?」


通学路でお互いの痣を見せ合う二人・・・


「ちょっとあんた達朝っぱらからなにやってるのよ?!」


そこに現れたのは同じクラスメイトの『本別 茜』クラスのマドンナだ。

実は茜は帯広の事を昔から好きなのだが帯広は茜が足寄を好きでいてると勘違いしている妙な三角関係だ。

そして・・・腐女子だ。


「そういう事する時は先に言いなさいって言ったでしょ?!ちょっと待ちなさい今撮影するから」

「「アホか?!」」


二人同時に突込みが入り朝起きたら変な痣が胸元に浮かんでいたって話をしたのだが・・・


「えっ・・・あんた達も?」

「もしかして・・・」

「茜も?」

「・・・うん」


なにか物凄く嫌な予感がする中遅刻しないように学校へ行きホームルームが始まる時それは突然起こった。

担任の十勝先生が出席を取っている時に突然窓から強烈な光が差し込んだのだ!


「うわっなんだこれ?!」

「ちょっとなにっ?!」

「まぶしっ!」


各々の悲鳴が響く中その光が消えた時、教室には誰も居なかった・・・





「ううう・・・ここは?」


俺が目をゆっくりと開くとそこはまるでダンジョンと呼ばれる雰囲気の暗い空間であった。

そして、クラスメイト達がそれぞれ自分達に起こった謎の現象を勝手に叫ぶ!


「これはキャトルミューティレーションだ!俺たちは宇宙人に誘拐されたんだ!」

「いや、これは異世界召喚だ!クラス全員召喚されたんだ!」

「馬鹿かお前等!集団誘拐に決まってるだろ!眠らされて連れてこられたんだよ!」


各々が騒ぐ中、俺はクラスメイトの『三輪 浩二』がそこに居る事に気が付いた。

ここに居る筈が無い、だって三輪は先週事故に遭って今も病院で寝たきりのはず・・・


「ようこそ皆さん、今日は私の召喚で来て頂いてありがとうございます。」


突然全員の頭に声が響いた。

各々キョロキョロと周りを見回すがそこに居るのはクラスメイトと教師の十勝だけだ。

そう思っていたら地面の一部が光そこから人が生えて来た。

羊の頭に執事服を着せて二足歩行をしている謎の人物・・・

クラスメイトの何人かはその姿を見て気付いたのだろう。

そう、悪魔と言う存在でたまに使われる姿である。


「皆さん混乱していらっしゃるようですが時間も押してますので簡単に説明させて頂きます。これから皆さんには殺し合いをしていただきます。」


その言葉に全員が「はっ?」っと首をかしげた。

意味が分からないが一部の人はあの映画を思い出したのだろう。

それはクラスメイト同士で殺し合いをさせて生き残った一人が助かるというあの映画だ。


「そして、最後の一人を我々の呪術の材料として生贄にさせていただきます。」


違った。あれよりも酷い・・・


「なんなんだあんたは?!一体どう言うつもりで・・・」


教師の十勝が執事服のヤギに文句を言いに前に立ったら十勝の胸にヤギの腕が突き刺さっていた。


「このように相手を殺す事で相手の力を吸収できる呪いが皆さんには宿っています。」


十勝の体がまるでゴミのように捨てられる。

その顔は恐怖に染まっておりそのまま死んでいた。

クラスの誰もが息を呑む・・・

何人か女子は泣き出している・・・


「それとこの空間には既に毒が蒔かれております。何もしなくても1時間程で全員死にますので誰かを殺せばその分の寿命が殺した方に加算されます。長生きしたかったら是非沢山殺して下さい」


そう言ってその男は空にそのまま飛んで行き天井に開いた唯一の穴から出て行った。

そう、天井に穴が開いていて良く周りを観察して俺は気付いた。

これは壺だ。

巨大な壺の中に入れられてるんだ。

同時に同じ事を思ったヤツが居た。

彼は『芽室 真一』確かオカルト研究部とか言う部活に入った変わり者だ。


「これはまさか・・・蠱毒なのか?」


芽室がそう呟いた事でクラスの不良『弟子屈 明』が芽室に詰め寄った。


「おぃ!なんだよ蠱毒って?!」

「てっ弟子屈君、痛い・・・」

「いいから何か知ってるのか話せごら!」

「こ・・・蠱毒ってのは毒を持った虫を数種類壺の中に入れて殺し合いをさせて最後に生き残った毒虫を使って行う黒魔術だ。」

「なっ?!」


クラスの誰もがその言葉を聞いていた。

何か情報があればと思って聞き耳を立てていたのだろう。

そう、あのヤギ頭の男は言った。

この空間には毒が蒔かれていて殺し合いの最後の一人を生贄にすると・・・


「もうやだ!なんなの朝起きたら変な痣が胸元にあるし学校来たらこんな事になるし・・・」


一人の女子が泣き叫ぶ。

だが誰も彼女を助けようとはしない・・・

そう、さっきの男の話が全て本当なら誰かを殺さないと1時間で死ぬ。

そして、もう一つ分かった事は胸元にあの痣を多分クラスの全員が付けられていると言う事。

地面に転がっている十勝にもきっとあるのだろう。

そして・・・


「帯広・・・くん・・・」


声を掛けられて振り返るとそこに居たのは三輪だった。


「お前・・・大丈夫・・・なのか?」

「うん、病室のベットの上だった筈なんだけどね。何か窓が光って気付いたらここに居たんだ。そして、僕は歩けている・・・」


そう、三輪は下半身不随になって一生歩けないと医者に言われていたのだ。

その三輪が歩いている・・・

これだけでこの空間が明らかな人間の力を超えた何かだと言う事の証明になるだろう。


「これからどうしよう・・・」

「そうだな、とりあえず・・・」

「きゃあああああああああああああ!!!」


突然上がる悲鳴!

そして、振り返った人達が見たのは・・・

胸元に在ったボールペンを使って清水の首を刺している不良の弟子屈であった。


「お前の目が前からムカついてたんだよ!」


刺された部分を押さえて逃げようとするそいつを追い掛けて蹴り倒し後頭部を踏みつける弟子屈。


「止めろ!弟子屈止めるんだ!」

「うるせぇ!こいつが先に俺に手を出したんだ!」


そう言う弟子屈の腕にはネクタイピンが刺さっていた。

つまりそう言う事なのだ。


「これは正当防衛ってやつなんだ・・・よ!」

清水の後頭部を踏み潰し肩で息をする弟子屈だったがそいつが死んだのと同時に弟子屈の体に異変が起こった。

突然全身の筋肉が発達し体が一回り大きくなり制服が窮屈になったのだ。


「はっははっなんだこりゃ?!・・・すげぇ、力が沸いて来る・・・」


弟子屈は振り返り止めようとしていた別のクラスメイトに襲い掛かりその首に噛み付いた!

上がる悲鳴!飛び散る鮮血!

場は一気に修羅場に変わった。


「帯広君!こっち!」


茜が叫び俺は弟子屈から少しでも離れようと走る。

しかし、その時既に別の場所でも殺し合いが始まっていた。


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・殺した、いつも私を虐めていたこいつを私が・・・」


それはいつもクラスの女子に虐めを受けていた『更別 舞』であった。

物静かで反抗しないと言う事でいつも標的にされていた怒りが爆発したのだろう。

次々と上がる悲鳴!

誰かを殺した人間はその相手の能力を全て入手できる、それは単純でとんでもない事であった。

突然自分の中に湧き上がる強さを試してみたくなるのは人の性なのか、誰かを殺した人間はその力を試すのも兼ねて次々と人を殺そうと考えるようだった。


「止めるんだ!やめっ・・・」

「ゆるして!助けて!助けっ・・・」


既に数人殺した人間の筋力はとんでもなく手で握るだけで体を握りつぶせる程にもなっていた。

そして・・・


「茜!お前が居なければ私は足寄君に!」


一人の女子が茜に飛び掛っていた。

俺はそれに気付きポケットに在った自宅の鍵でその女子の首に全体重を掛けて突き刺した!

既に何人か殺しているのであろうその女子は普通にやっても止められないと考えたからだ。


「がぁああああ!お前!帯広のくせにぃいいい!!」


倒れて首の動脈が切れて血が噴出しているのに叫び続けるそいつに恐怖を覚えながら首に刺さっている鍵を更に蹴り込んだ!

そして、そいつが死んだのであろう。

突然自分の中に力が溢れかえってくるのを感じた。


「帯広危ない!」


横から足寄の叫び声が聞こえた。

それに振り返った時、弟子屈の拳が俺の顔面を捉えて俺の頭部が粉砕する。

それが俺の最後の記憶であった・・・









「うわぁああああああ!!!」


全身から汗を噴出しながら目を覚ましたのは自宅の自分の部屋であった。

そして、辺りを見回し今まで見ていたのが夢だったのだと理解して一安心する。


「なんだ、夢か・・・とんでもない夢だったな・・・」


全身から出たべた付いた汗を一度洗い流そうと起き上がって俺はその異変に気付く・・・


「えっ?なんか肌着がキツイ・・・」


そして、自分の体が明らかに筋肉質になっている事に気が付いた。


「ま・・・まさか・・・」


慌てて洗面所に行って鏡を見て・・・


『嘘・・・だろ・・・』


自分の胸元に『魂』に読めそうな痣が在るのに気が付くのだった。



「よぅ帯広!おっはよ!」

「あ・・・あぁ、足寄・・・」

「なんだ?凄い真っ青だけど大丈夫か?」

「あ・・・あぁ、ちょっと酷い夢を見てな・・・」

「なんだ夢で気分が悪いのか?珍しいヤツだな、それよりも聞いてくれよ朝起きたらさ・・・」

「胸元に『魂』に見えそうな痣・・・だろ?」

「な・・・なんで知ってるんだ?」


俺の言葉に頭の良い足寄は何かを察したのか黙る・・・


「よぉ、お二人さんおはよう!」

「あぁ、茜おはよう」


足寄が挨拶を返すが俺は何も言わない・・・

頭の中でグルグルと酷い妄想が巡っているのだ。

そして、その妄想は現実となる・・・


チャイムが鳴りホームルームが始まり、同じように窓から光が差し込む。

そこで俺は一つの実験を行った。

左手の手の平にペンを刺したのだ。


そして、あの空間に移動した。

左手の傷は・・・無い!

辺りを見回すとやはり入院していた筈の三輪の姿もある。


「ようこそ皆さん、今日は私の召喚で来て頂いてありがとうございます。」


前回と全く同じ台詞が入りそして教師の十勝が殺される。

俺は手に用意しておいたコンパスの針を握ってタイミングを見守る・・・


「きゃあああああああああああああ!!!」


やった!弟子屈が清水の首を刺した!

俺は飛び出して弟子屈の後頭部にコンパスを突き刺した!


「ぐぁああ!!!」


脊髄を貫いたのだろう、痙攣を起こして弟子屈はそのまま絶命した。

そして、俺はそのまま倒れている清水にも止めを刺した。


「帯広!お前何やってる!?」


足寄が叫んでこっちに近付いて来たので俺はその首を握りつぶす。

高揚感が体から溢れるが俺はそれを必死に抑える。

そして、そこからは皆殺しであった。

誰かを殺すたびに体が強化されるのを感じその力を試してみたくなりまた誰かを殺す。

既に走れば瞬間的に時速50キロくらいは出て力は指で摘むだけで人間をバラバラに出来るようになっていた。


「あっ・・・あぁ・・・」


そして、最後に残った茜の前に立ち俺は懐から用意しておいた折り畳みナイフを取り出し自分の心臓に打ち込んだ!

茜の目の前で自殺をしたのだ。

彼女だけは殺せない・・・

例えそれが偽善だとしても彼女だけは・・・


そして俺は彼女の手を取りその手で自分の胸に刺さるナイフを押させ俺は死ぬ。

彼女はこの後あの悪魔に生贄にされるかもしれない・・・

だけど俺はクラスの全員を助けたいんだ。






「うわぁあああああああ!!」


目を覚ました俺はやはり自宅に戻っており胸元にはあの痣が在った。

体の様子を確かめたら超人的な身体能力が備わっているのが良く分かった。

これなら・・・


教室が光に包まれてあそこへ連れて行かれた。

そして、俺はあの悪魔が現われると同時に襲い掛かった!

だが・・・


「これは中々イイ素材ですね!」


俺の体は吹き飛ばされた!

まだだ・・・まだ足りないんだ・・・

俺はまたクラスメイトを皆殺しにして体を強化する。

そして、最後にまた茜に殺される・・・


これは帯広がクラスメイト全員を助ける為にクラスメイト全員を何度も皆殺しにし続ける物語・・・

例え全員を助けられたとしても元の生活には自分だけは戻れないと理解している少年が永遠に続く1日を繰り返す物語・・・


彼はまだ知らない、これがこのクラスだけで行われている事ではないと言う事を・・・

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