毒の小瓶

「ねぇ、お兄さん、見て、見て。」


少年が、嬉しそうに話しかけてきた。

小さな手の中に、何か持っている。


「こんなの、見つけたの。」


誇らしげに僕に向かい突き出した其れは、暗く耀く、青い小瓶。


「へぇ、綺麗じゃないか。何処に在ったの?」


「階段の下、暗くて冷たいお部屋。」


少年が指差す先、鍵は壊され、分厚い木製の蓋が口を開けている。

冷えた空気が逆流してくる其れは、地下室へ続く階段だった。


「一人で入ったの?怖くはなかった?」


僕は小瓶を手に取り、空に透かしながら尋ねる。

瓶の中では、何かしらの液体が躍る。


「大丈夫。慣れてるから。」


彼年は無邪気に、そして、底の見えない微笑みを称え応える。


「そうかい、でも、あそこは暗いから、もう一人で入っちゃダメだよ」


適当に理由を丁稚上げる。

目の前の年端もゆかぬ彼が恐いからだ。


少し目を離した隙に、彼が何処かに行ってしまうのではないか。

僕を置いて消えてしまうのではないか。


何故僕だけが遺ったのかは判らないが、今この世界で、独りになるのは恐い。


何時訪れるかも判らない孤独と、目の前の少年、二つの恐怖が僕を支配している。


「ほら、返すよ。」


一頻り小瓶を眺め、意味の無い思惑を馳せた後、少年に毒の小瓶を渡した。


この世界に、僕と少年、二人きり。


まだ暫くの間、茫然と現実から目を逸らしていたい。

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