4-2章 お姉さまと岩の街のクエスト

第5話 お姉さまと町の冒険者協会

 昼飯を掻き込むように食い終わった俺たちは、冒険者協会へと向かった。


 冒険者協会は周りの家と同じように岩をくり抜いて作ったような建物だが、大きさは普通の家の倍以上はある。


 ドアを開けると、白い石造りの広い室内は冒険者たちの熱気で溢れていた。


「いらしゃいマセ~! こちらデルダの街の冒険者協会。私はここの受付のルルね。アナタにぴたりのクエスト紹介するネ~! この街クエスト沢山あるヨ」


 陽気な受付のお姉さん、ルルがドーンと机の上にファイルを叩きつける。


「は……はぁ」


 俺たちは呆気に取られながら席に着いた。


「確かに沢山あるな」


 お姉さんが持ってきたファイルをパラパラとめくる。今まで立ち寄ってきたどの街のファイルより分厚い。殴っただけでオーガでも倒せそうだ。


「アナタたち、レベルは?」


「二人ともBだ。早いとこAランクに上がりたいんで、経験値が沢山貰えるような依頼がいいんだけど」


 俺が言うと、お姉さんはチッチッチッと指を振った。


「ノンノンノン、DからC、CからBは簡単だケド、BランクとAランクの間には深ぁーい溝があるヨ。焦らずゆっくりネ」


「そうか。なら仕方ないな」


 俺としては早いとこ上に上がりたいんだが。


「Bランクのクエストはこのへんネ。この街モンスターは多い、冒険者は少ない。仕事多いネ」


「そうなのか?」


「いつもはもっと冒険者多いケド、今年は寒いからネ」


「なるほど」


 俺たちは分厚い依頼書に目を通した。だが、沢山ありすぎてどれがどれだかよく分からない。


「これなんてどうカナ? 用心棒の依頼デス」


 ララさんが見せてくれたのはドワーフの村まで商人を護衛する仕事だった。


「じゃ、それにするかな」


「モアもそれでいい」


「はいナ~。決まりだネ~」


 テキパキと書類を書いていくララさんに俺は尋ねた。


「あ、そうだ。ところでこの辺に宿屋とかないかな。できれば冒険者割引が効く宿がいいんだけど」


「ン? それならここどデスカ? 下がバーになってて、ご飯も美味しいだヨ」


「へぇ、それはいい」


 食事が美味しいかどうかは重要だ。

 俺たちはララさんに勧められた酒場兼宿屋の『荒磯亭』へと急いだ。

 岩肌をくり抜いて作ったかのような店に小さく暖簾がかかっている。

 ドアを開けると少し薄暗い店内。昼間だというのにアルコールと肉の焼ける匂いが漂ってくる。


「わぁ」


 モアは目を輝かせて辺りを見回した、


「あの、宿を利用したいんですが」


「はいよ」


 受付のおじさんに声をかけると、乱暴にカギを渡される。


「風呂場はタダで使える。それから宿の利用客は一階の飯の料金が割引になる。詳しくはここに」


 二人で宿のある二階に向かう。階段は石造りで薄暗く、壁に埋め込まれた松明の炎が揺らめいている。しかし思ったよりも寒くなく、中も綺麗だ。


「ベッドもフカフカー!」


 モアが嬉しそうにベッドに顔を埋める。

 俺たちは、受注したクエストの書類に目を通し、必要な装備を書き出すと、ゴロリとベッドに転がった。


「さて、どうする? 晩飯まではまだ時間があるが」


「確か、お風呂があるって言ってたよね?」


「そう言えば。山ん中だし、ひょっとすると温泉かもな」


 俺とモアはタオルと着替えを手にお風呂場へと急いだ。


「いいのぉ。妾も温泉に入りたいものじゃ」


 モアの影から声がする。


「他に人が居なかったら入ってもいいぜ」


 鏡の悪魔の外見は美少女とはいえ角も生えてるし尻尾もある。他の客に見られたら大変だ。


「おっ、ここだな」


 少しして風呂場にたどり着く。時間も早いし、冒険者は男が圧倒的に多いからひょっとしたら貸切かと思ったが、俺の予想に反し、風呂場には先客がいた。


「あれ、あんたは昼間の」


 ちょうど風呂から上がった所だったのだろう。脱衣所で服を着ていたのは、昼間食堂で会った赤髪の女と鎖に繋がれた猫耳少女であった。


 俺とモアは慌てて頭を下げた。


「あっ、昼間はありがとうございました。ええと……」


「私はクレーシーでこっちのケモナ族はメレ」


 赤髪の女、クレーシーはパンツ一枚のまま着替え中のメレを指さす。


 メレは黙ったままぺこりと頭を下げた。


「俺はミアでこっちは妹のモアだ」


 俺が紹介をすると、クレーシーは着替えながらもにこりと微笑む。


「よろしくね。お嬢ちゃん。この宿に泊まってるってことは、お嬢ちゃんたちも冒険者かい?」


「まぁ、一応」


「ふーん。まあ、今の時期、依頼は多いだろうし、頑張るんだね」


 クレーシーは口の端を少し上げると、上着を一枚羽織り、メレの鎖を引っ張った。


「さ、メレ、着替えたかい、さっさと行くよ!」


「はい」


 消え入るような声で返事をするメレ。俺は思わず声を上げた。


「あの、どうしてその子を鎖で繋いでいるんですか?」


 クレーシーはふんと鼻で笑う。


「どうしてって、この子は犬だからだよ」


「へっ?」


「……奴隷とでも言えばいいのかね。とにかく、こいつをどうしようと私の自由だよ」


 そう言うとツカツカと浴室へ歩いていくクレーシー。


 俺とモアは、思わず顔を見合わせたのであった。



 

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