第3話 お姉さまと赤いコートの少女
「へ、へ、へんたーーーーい!!」
赤いコートの少女が叫ぶ。
「ま、待て、誤解だ!」
ジリジリと少女ににじり寄るも、俺は裸だし……でも別に、女同士だし裸でも良くないか!?
「お、お姉さま、これ」
モアがバスタオルを投げてよこす。
「おお、ありがと」
俺はバスタオルを腰に巻いた。
「おい、誤解だ。俺たちは――」
だけれど少女は涙目でこう叫んだのだった。
「寄るんじゃないにゃん、この痴女がーーーーーーー!!!!」
◇
「一応紹介する。俺はミアでこっちはモア。俺たちは姉妹だ」
「お姉さまとは仲良しなの♡」
「は、はぁ、そうだったにゃんか。それはすまにゃい」
それから数分後、なんだかんだで誤解を解いた俺たちは共に食卓を囲んでいた。
「私はチトにゃん。私たちの村はこの山のさらに奥にあるにゃん。この山小屋は日が落ちる前に村にたどり着けなかった時のために作られた簡易的なねぐらにゃん」
「そうなのか」
奥の村から来たという少女の顔をしげしげと見やる。
身長は140センチ程しかない。干し草みたいな柔らかい茶色の髪と茶色の目。
そして先程はフードを被っていたせいで気づかなかったが、頭の上にはニョキっと猫みたいな耳が、お尻にはフサフサした尻尾が生えている。獣人なのか?
「奥の村は、チトちゃんみたいなお耳の生えた人立ちが暮らしているの?」
モアが首を傾げる。
「そうにゃん。奥の村は私みたいな耳の生えたケモナ族が多く暮らしてるにゃん」
「へぇー、面白いね!」
モアが目を見開くと、チトは俺の作ったキノコと干し肉のスープを美味そうに飲み干した。
「うーん、美味しいにゃん! いやー、食料が無くて困ってたにゃん。二人は命の恩人にゃん!」
「いやいや、そんな大袈裟な」
「困った時はお互い様だから」
とはいえ、これで俺たちもアレスシアから持ってきた食料を全部使い果たしてしまった。早いとこ食料を手に入れられるどこかの町にたどり着かないとヤバい。
チトはペロリと舌なめずりして俺たちのほうを見た。
「ところでお二人はどこから来たにゃんか? ここら辺の人ではないように見えるにゃん」
チトが耳をピクピクさせる。ひょっとしたら、俺たちの金髪や銀髪がこの辺りでは珍しいのかもしれない。
「えっと、俺たちはエリス王国出身であちこちを旅して回ってるんだ」
「うん。この間までアレスシアにいたんだけど、寒いから」
「デルダはアレスシアより暖かいって聞いたからな」
チトは俺たちのやり取りをじっと見たあと、うんうんとうなずいた。
「そうにゃんね、デルダの冬はアレスシアより暖かいし、例年通りであればここはもう春の陽気でもおかしくないころにゃん」
「例年通りであれば?」
「ってことは、今年は特に寒いってこと?」
「にゃう。いつもであれば、雪は降っても一日か二日でこんなに積もったりはしないにゃん。でも今年はどういう訳か雪が多くて、今頃になってもまだ雪が溶けないにゃん」
「そうだったのか」
「はっきり言って異常気象にゃんね」
しゅんと下を向くチト。
「大変だなあ」
俺はキノコのスープとパンを食べ終わると、ひんやりした床にごろりと横になった。
「うわっ、冷てっ」
「寝るならその襖の奥に布団があるにゃんよ」
「じゃあ布団でも敷くか」
襖を開けると、そこには予備の服やタオル、布団が入っていて、俺は三人分の布団をいそいそと床に敷き始めた。
「お姉さま、モアとお姉さまの布団はもっとくっつけて! その方が暖かいでしょ?」
「おお、そうか」
俺はモアと自分の布団をぴったりとくっつけた。
なんだかエロいな。まるで新婚初夜みたいだ。ゴクリと唾を飲み込む。
「お姉さま?」
「い、いや! そ、そうだ、チトはどうする?」
慌ててモアから視線を逸らしチトに目線を合わせると、チトは顎に手を当て、うーんと考え込んだ。
「そうにゃんね。確かに密集していた方が暖かいかもしれないにゃん」
「じゃあ決まりだな」
俺はチトの布団を自分の布団の隣にくっつけた。俺が真ん中で、左にモア、右にチトが寝る形になる。
「じゃ、明日は朝早く出発するのでそろそろ寝ることにするにゃん」
「ああ、おやすみ」
「おやすみなさーい」
灯りを消し布団に潜る。外はまだ吹雪いていて、ガタガタと入り口や屋根が揺れる音がした。
初めは敷布団が冷たかったが、徐々に体温で温まってくる。うつらうつらとしていると、チトがごろりとこちらへ転がってきた。
「うーん、むにゃむにゃにゃん」
どうやら完全に眠っているようだ。
フサフサのしっぽ。人間よりも高い体温を感じ、俺はチトの方へ身を寄せた。モフモフしていてお日様のような匂いがして、何とも心地良い。
「うーん、お姉さまぁ」
するとモアも寝ぼけているのか起きているのか、俺の背中にぴったりとくっついてくる。
「モア……」
俺はモアの方へ向き直り、ぎゅっと抱きしめると背中を撫でてやった。モアの暖かな体温がこちらに伝わってくる。
「にゃうにゃう……」
と、今度はチトが俺の背中にぴったりとくっついた。
暖かな温もりが背中からもお腹からも伝わってくる。
あ~! なんて幸せなんだ!!
結局俺たち三人は、子猫みたいにくっついたまま朝まで眠りについた。
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