第18話 お姉様と熱演!大舞台

「ツバキ様っ……!」


 ツバキ様を連れ帰ると、舞台袖にはワラワラと生徒たちが集まってきた。


「とりあえず、何か飲み物と……どこか安静にできる所はないか?」


 俺が指示を出すと、生徒たちは我先にとタオルや飲み物を差し出す。


「ありがとう。でも舞台が」


 舞台を見るとそこではロッカが一人でアドリブで演技を続けている。なんて度胸だ。


「私、行ってくる」


「え?」


 モアがお盆とお茶の小道具を持って舞台に駆けていく。


「お嬢様、よくやりましたわね。これで王子はお嬢様のもの!」


 ロッカ一人で間を持たせるには無理がある。モアに続いて何人か侍女役の子が舞台に立ち、あれよあれよという間にお茶会がはじまった。


「王子様と結婚した暁には城に住むわよ」

「毎日美味しい料理が食べれるわね」

「それにしても白百合姫って生意気ね!」


 良かった。どうやら舞台のほうは何とかなりそうだ。あとはツバキ様だ。


 保険医がやってきて、ツバキ様の診察を始める。


「私、大丈夫だから。あとはラストのダンスとプロポーズシーンだけだし」


「ダンスだなんて、一番体に悪いわよ」


「でも、そのシーンは一番の見せ場だし、ダンス無しにするわけには」


 どうやらツバキ様が舞台に出るかどうかで揉めているようだ。


「ミアさん、そろそろ出た方がいいんじゃない?」


「あ、ああ」


 ロッカたちの時間稼ぎもそろそろキツくなってきたので代わりに俺が出る。


 予定では王子は「ああ、どうしよう、真の妃は……」とか一言二言のセリフで終わりで、次からは白百合姫のシーンなのだが、白百合姫がどうなるか分からないからとりあえず時間を稼がないと。


「どちらの姫が妃として相応しいだろうか。私としてはやはり清純な白百合姫がいいと思うが、どう思う?」


 苦し紛れに観客に尋ねる。

 一番前に座っていた女生徒は、困惑しながら答えた。


「白百合姫!」


「白百合かぁ。でも、君も綺麗だよ」


 ウインクすると、女生徒は顔を真っ赤にした。キャー、と黄色い歓声が上がる、


「さて、もっと聞いてみようか」


 調子に乗った俺は、ステージから降りると、客席の間の通路を歩きながら質問した。


「みんな、姫にふさわしいのはどっちだと思う?」


 通路側に座っていた女生徒に尋ねると、女生徒は顔を真っ赤にしながら答える。


「えっと……白百合姫」


「どうして?」


「ええと、優しくて素敵だから」


「そう。でも君も素敵だよ」


 そう言って手の甲にキスをすると、女生徒はゆでダコのように顔を真っ赤にした。


「ずるいっ、王子様! 私にも質問して!」

「こっちに来てーっ!!」


 妙な盛り上がりを見せる観客席。


「ええとじゃあ次は……そうだ、君はどう思う?」


 今度は誰かの弟だろうか? 小学生位の男の子に尋ねる。


「黒薔薇姫!」


 男の子は胸を張って答える。


「黒薔薇姫かぁ。どうしてそう思うの?」


「ロッカ姉ちゃんが一番美人だから!」


 男の子が叫ぶ。

 もしかしてこの男の子、ロッカの弟か!?


「そっか。お姉ちゃんみたいなお姫様が好みなんだね?」


「うん! 僕もロッカお姉ちゃんみたいなお姫様になりたい!」


 満面の笑みで言う少年。

 会場から笑いが起きる。


 俺も最初は反応に困っていたんだけど、よく考えたら女の子が王子様になってもいいし、男の子だってお姫様になったっていいのかもしれない。


「そうかぁ。じゃあ、会場のみんなに聞いてみようかな。白百合姫がいいと思う人は拍手を!」


 パチパチパチ……とまばらな拍手が聞こえる。


「じゃあ、黒薔薇姫がいい人は!?」


 またしてもまばらな拍手。


「そんなんじゃ、僕は姫を決められないよ。じゃあ、もう一度聞くね? 白百合姫がいい人?」


 さっきより拍手の音が増えた。


「黒薔薇姫がいい人!」


 パチパチパチ。


 先程のようなまばらな拍手。

 ただし、ロッカの弟だけは死にものぐるいで拍手をしている。


 ごめんな、少年。

 もう台本で王子の相手は決まっているんだよ……。


 チラリと舞台袖を見ると、モアが手で大きく丸印を作っている。どうやら、どうにかなりそうだな。


「さて、みんなのおかげで、どちらの姫を妃にするかようやく決まったよ。早く姫を迎えに行かなくちゃ!」


 舞台は暗転する。いよいよクライマックスだ。


 みすぼらしい衣服を身にまとっていた白百合姫が、ドレスを着て大変身し、王子のプロポーズを受け、黒薔薇姫を見返す一番の見せ場!


 明かりがつき、煌びやかなセットに変わる。周りにはドレスを身にまとった夫人たち。


 そしてその中でも一際輝いているのが――


「ん?」


 俺は、白百合姫のドレスを身にまとった生徒を二度見した。


 ツバキ様……じゃない。見慣れない女生徒だ。


「ミアさん」


「お前……モズク!?」


 なんと、ツバキ様の代役を務めていたのは、ワカメの役をする予定だったモズクだったのだ。

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