第13話 お姉様とリレー
昼食を食べ終わると早速午後の競技が始まった。
パン食い競走、綱引き、ハードル、剣術、薙刀、棒術、長距離走……
俺はパンをめがけてぴょんぴょん跳ねる可愛いモアを堪能したあと、剣術の競技に出かけた。
剣術の種目は、言ってみれば竹刀で行うフェンシングみたいなもので、俺はこの種目の準決勝まで勝ち上がっていた
「お疲れ様」
ツバキ様が様子を見に来てくれる。
「ありがとうございます。まぁ、まぐれですが」
「そんなことないわよ。貴女は強いわ」
王宮で小さい頃剣術を習っていたとはいえ、ほぼ自己流。体育祭で勝ち残るために剣術の授業も積極的に受けていたが、ここまで勝ち残ったのは俺的には意外だった。
「――でも、少し力任せな所があるわね。パワーとスピードが優れているせいか、それに頼ってしまう所がある」
「そうですよね……」
それは俺も自覚していた所だった。今まで実戦では、フィジカルの強みを活かしてたたかってきたが、こういう試合では相手を叩きのめせばいいというものでもない。
「相手の動きよく見て。次の動作予測するようにしたらいいわ。頑張ってね」
「はい」
準決勝の試合が始まる。
お互いに向かい合って竹刀を構える。
相手をよく見る。相手の動きを予測して――
◇
「いやー、優勝出来なくて残念だっただす」
「でもすごいよ、準優勝だし!」
モアとモズクが慰めてくれる。
俺は結局、剣術では準優勝だった。
準優勝では、ツバキ様の言う通り相手をよく見たら太刀筋が読めて勝てたのだが、決勝では、決勝戦の相手、サツキ様の様子を伺っている間に一本取られて負けてしまったのだ。
「じっくり相手を見すぎたな」
「でもまだリレーがあるし」
「そうそう、リレーでリベンジだす!」
「うん」
少し肌寒い風が吹いてきた。
長距離走の選手が続々とゴールに向かっていく。
もうすぐ最後の種目、リレーが始まろうとしていた。
張り出された成績表を眺める。
現在、総合得点は青百合寮が一位で、二位が白百合寮。そのあとを赤百合寮、黄百合寮が追うという順番になっている。
青百合寮は学業成績の良い生徒はあまりいないが、魔力や運動能力の高い生徒が多く集まっている。
短距離走でも、決勝に残ったのは俺とロッカ以外は皆青百合寮だった。
さらに午後からの長距離走やハードルという競技でも青百合寮は上位を独占している。
だがラストのリレーは各種目の中で一番配点が高い。
リレーの結果次第では、まだまだ逆転優勝も狙える位置だ。
「お姉様、頑張って!」
「ああ」
俺はモアとモズクの声援を受け、リレー選手の控え場所へと向かった。
「調子はどう?」
ツバキ様が声をかけてくる。
「はい、おかげさまで。シューズもピッタリですし」
「そう、なら良かった」
遠くを見つめるツバキ様。
「リレーに勝って、この寮のみんなの心を一つにしましょうね」
「はい。勝てますよ、みんなと一緒なら」
俺が力を込めてうなずくと、ツバキ様は大きく目を見開いた。
「ええ、そうね」
リレーが始まる。
白百合寮の第一走者はツバキ様だ。
俺がアンカーの控え場所で待機していると、青百合寮のアンカー、サツキ様が声をかけてくる。
「やあ、白百合寮はツバキじゃなくて君がアンカーなんだね。剣術に続いてまたしても君と対決とは」
「はい。そういう作戦にしようってツバキが」
「なるほど、第一走者に早い人を置いて逃げ切る作戦か。考えたね」
サツキ様が目を細めてグラウンドを見やる。
グラウンド上では、ツバキ様が二位の青百合寮に大差をつけ、一位で第二走者へとバトンを渡した。
「だけど、こちらも人材を揃えてる。そうそう逃げ切れるものでは無いよ」
見ると、第二走者に変わった途端、白百合寮は青百合寮にグングン追いつかれて、もはやほとんど差が無くなってきている。
「それに、アンカーは私だ」
自信満々に微笑むサツキ様。
俺もニヤリと笑い返してやった。
「でも、こちらもらアンカーは俺です。今度こそ勝ちますよ」
俺がそう言うと、サツキ様は俺のお尻をポンと叩いた。
「ふふ、いい勝負をしよう」
全く、本当に人のお尻にセクハラするのが好きだなー。
グラウンドでは、第三走者にバトンが渡る。
白百合寮の第三走者はロッカ、青百合寮の第三走者はケイトだ。
最高級ホウキに乗ったロッカは安定した飛行を見せるが、ケイトも負けず劣らず速い。
二人の走りは拮抗していて、どちらが一位になってもおかしくない。
が、コーナーを曲がったところで急にロッカの勢いが落ちた。グングン加速していくケイト。
「おや、君のところの第三走者は急に勢いが落ちたようだね」
ニヤリと笑みを浮かべて走っていくサツキ様。少し遅れて、俺もロッカからバトンを受け取った。
どうしたんだロッカ……何か表情が暗かったような?
まぁ、今はそんなことよりリレーだ。早いとこサツキ様に追いつかないと!
「うおおおおおおおお!!」
足に力を込めると、ホウキが火を噴くように加速した。猛スピードでサツキ様を追い上げる。
だがサツキ様も、風のように軽やかに飛んでいき、追いつきそうで追いつけない。
俺の苦手なコーナーも、最短距離で器用に曲がっていきロスが少ない。曲がる度どんどん離されていく。
「負けるか!!」
俺は腰を浮かせ、ホウキを握る腕に力を込めた。ちょうど自転車の立ちこぎみたいな形だ。空気抵抗は大きくなるが、この方がホウキに力がダイレクトに流れていく。いける!!
程なくして、俺はサツキ様に追いつき、俺たちはしばらくの間グラウンドを並走した。
「ふふっ、やるね」
「そっちこそ!」
そしていよいよ最後のコーナーを曲がり最後の直線だ。渾身の力をホウキにこめる。
「お姉様、頑張って!!」
モアの声が聞こえる。
ああ、なんだか体が軽い。
全身に軽やかな風を受けて、飛んでいくような気分だぜ……!!
「ゴーーール!! 一着は、白百合寮!!」
一着でテープを切る。
やったぜ! これで総合優勝も白百合寮で決まりだな!!
だが、どうにも周りの反応がおかしい。
なんだかザワザワして……もしかして、姉4に勝っちゃったのがまずかったのかな?
見ると、後からゴールしたサツキ様が鼻からボタボタと鼻血を出している。
「ふ……やるね。見事な美尻で私の目を引き付け、その隙にゴールするとは」
……何のことだ?
「お、お姉様、後ろ……」
モアの弱々しい声に後ろを見ると、妙にスースーする。もしやと思いお尻に手をやると、何やらプリプリした感触が。
えっ? まさかこれ、ブルマが破けてる!?
俺ってばお尻丸出しで走ってたのかよー!!
「ミ、ミアさん、これ!」
モズクが慌ててバスタオルを持ってくる。
俺はそれをスカートのように巻き付け、丸出しのお尻を隠した。
「あ、ありがとう」
く、クソっ、俺ってばみんなの前でケツ丸出しで走ってたのかよ!?
超かっこ悪い!!
「お疲れ様。何かハプニングはあったみたいだけど、あなたのおかげで優勝できたわ」
ツバキ様が俺の手を握る。
「い、いえ、ツバキ様が靴を貸してくださったお陰です。モアやモズク、みんなの応援もあったし」
俺は頭をかいた。
良かった。とりあえずリレーで活躍して優勝するっていう目的は果たせた。それに、ツバキ様からの評価は上がったはず! 全ては計画通りだぜ!
計画通り……だよな?
俺はスースーするお尻を押さえた。
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