第12話 お姉様と運動靴

「お姉様……モア、負けちゃった」


「モアはよく頑張ったよ!」


 俺はモアを抱きしめた。


「そうよ、まだ一年なのに!」

「あのカスミ様を追い詰めるなんて!」


 他の白百合寮の生徒たちも慰めの声を上げる。


「お疲れ様。強敵だったわ」


 カスミ様もモアに握手を求める。モアも差し出されたカスミ様の手をぎゅっと握り返した。


「お疲れ様でした。完敗です」


「よく頑張ったわ」


 しゅんとするモアに、ツバキ様も声をかける。


「すごいわモアさん、あの姉4に認められるなんて!」

「将来有望ね」


 騎馬戦が終わり、ゾロゾロと次の競技の場所へと向かう俺たち。


 俺の胸には、メラメラと熱い炎が燃えていた。


「モアのカタキは打ってやる。リレーで一位になる!!」


「お姉様頑張って!!」


 固く手を握りあい、誓った俺たち。

 必ずや勝って、優勝旗を白百合寮に!

 あ~、青春だぜ!





 騎馬戦を終えた俺たちは、モズクが出ている玉入れを見るために競技会場の中庭に向かっていた。


「モズクにはシューズを借りた恩もあるし、しっかりと応援しないとな!」


「うんっ!」


 中庭につくと、そこではちょうど玉入れの決勝戦を行っているところだった。


 戦っているのは黄色の鉢巻、黄百合と白の鉢巻、白百合寮だ。


「おっ、モズクのチームが出てるじゃん」


 だが――


「何やってるのよ!」


「す、すみませんだす」


 なにやらモズクが寮の先輩に怒られている。


「二度と私の邪魔をしないで! グズなんだから、黙ってそこで突っ立ってればいいのよ!」


 怒鳴る先輩。


 この学園の玉入れは普通の玉入れと違い、魔法で玉を動かし上空に浮いているカゴに入れるという競技だ。


 先輩が怒っているのは、どうやらモズクの浮かせた玉と先輩の玉がぶつかり両方とも外へ出てしまったかららしい。


「は、はい」


 縮こまってしまうモズク。

 そこへ別の先輩がモズクにぶつかった。


「きゃ!」


「す、すみません!」


「何であんたこんな所にボサッと突っ立ってんのよ! 早く玉を投げなさい!!」


「は、はいぃ」


 立ってろと言われたり立ってないで投げろと言われたり、無茶苦茶だ。


「モズク、なんだか可愛そう」


「そうだな」


 案の定、白百合寮は黄百合寮に大差をつけられ負けてしまった。


「お疲れ様ー!」

「おつかれ!」


 俺たちは、玉入れの終わったモズクに駆け寄った。


「ミアさん、モアさん」


 涙目のモズクが顔を上げる。


「負けてしまって、申し訳ねぇだす」


「いやいや、よく頑張ったよ!」


 俺たちが慰めていると、カツカツと先輩が近寄ってきた。


「どうしてくれるのよ! アンタがトロいせいで負けたじゃない!」

「そうよそうよ!」


 責め立てる先輩。


「そんな風に言うことは無いんじゃないか?」


「あなたは黙ってて!」


 仲裁に入ろうとするも、すごい剣幕でピシャリと言われてしまう。


「だいたいあなた、やる気が感じられないのよ! よりによって靴も上履きだし!」


 先輩が言うと、周りがどよめく。


「ヤダ、本当」

「何考えてるの?」

「汚~い」


 クスクスと笑い声が湧き上がる。

 や、ヤバイ。俺なんかに靴を貸したばっかりに!


「い、いや、これは俺のせいで」


 慌てて説明をしようとすると、後ろから声をかけられた。


「あなた達、これは何の騒ぎなの?」


「ツバキ様!」


 現れたのは、艶やかな黒髪をなびかせた美少女、ツバキ様だ。


「えっと、実はこういうわけで……」


 俺が事情を説明すると、ツバキ様は大きく息を吐いた。


「事情は良くわかったわ。とりあえず、ミアさんはモズクさんにシューズを返しなさい。モズクさん、次は綱引きでしょ? 踏ん張りがきかないと危ないわ」


「で、でも、ミアさんはリレーの選手で」


 モズクが言うと、ツバキ様は俺の腕を引いた。


「とにかく、あなたはモズクさんに靴を返してこっちにいらっしゃい」


「へ?」


 ツバキ様に連れられてやってきたのは寮だ。


「ここはまさか」


「私の部屋よ」


 ツバキ様の部屋!?


 部屋の中をチラリとのぞき見る。

 整然と片付いた物の少ない部屋。

 間取りは俺たちの部屋と変わらなそうだが、一人部屋のためか何となく広く見える。


「あったわ、これ」


 ツバキが俺に手渡したのは、赤い椿の模様がついた白いシューズだった。


「えっ? これって」


「私の予備のシューズよ。はいてみて。大きさが合うといいのだけれど」


 恐る恐る足を入れると、ぴったりと収まった。


「サイズはぴったりです」


「そう、良かった。あなたにはそれを貸すからそれをはいて走ればいいわ」


「ありがとうございます」


 頭を下げると、ツバキ様は肩を落とす。


「この寮には今年は優勝できるだけのメンバーが集まってる。でも他の寮に比べてまとまりが足りないの。私が不甲斐ないばっかりに。貴女がそんな嫌がらせを受けていただなんて知らなかったし、モズクさんにも嫌な思いをさせて……」


 泣きそうな顔になるツバキ様の肩を、俺はガッシリと掴んだ。


「そんなことないです。みんなツバキ様が寮のリーダーだから頑張れているんです!」


「そうかしら」


「そうです!!」


 俺が断言すると、ツバキ様は少し微笑んだ。


「ありがとう。頑張りましょう。リレーで勝って、みんなの心を一つにしましょう」


「はい」




 チャイムが鳴り、昼休みが始まる。

 午後からはいよいよメインイベントのリレーが始まる。

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