3-2章 お姉様と体育祭
第7話 お姉様と空飛ぶホウキ
「お姉様! 図書室で吸血鬼について色々調べてきたよー!」
俺が部屋で筋トレしていると、モアが探してきた新聞記事を見せてくれる。
「ああ、ありがとう」
新聞には『恐怖! 学園に潜む吸血鬼の怪!!』と書かれていた。
「ずいぶん古い記事だな」
日付を見ると、20年も前だ。
「黒百合寮で全身から血を抜かれたみたいに干からびた死体発見、吸血鬼の仕業か、だって」
この土地には元々、悪魔を封じた洞窟があったが、その上に学園が建てられ、その呪いではないか、と新聞記事にはある。
「去年のもあるよ!」
モアに手渡され、去年の記事も見てみる。
そこには姉5の一人、黒百合寮のルルカが寮の屋上から転落した、とある。
学校や警察は自殺としたが、目撃者によると、死体から出血は一切なく、その体はミイラのようにカラカラに乾いていたのだという。
ルルカが最後に会っていたとされる姉5――現在の姉4たちは、それぞれ追悼のコメントを寄せている。
「二つとも、取り壊されたっていう黒百合寮か。怪しいな」
ブルマ姿でスクワットをしながら新聞に目を通していると、鏡の悪魔はため息をついた。
「ところでお姉様は、一体何をしておるのじゃ」
「見ての通り、筋トレだよ!」
姉4に近づくために、姉4の中で唯一妹のいないツバキ様の妹になることを決意した俺。
だけど姉4の妹になるには次期姉4に相応しい人物であると認められなくてはならない。
具体的には、テストや普段の成績で判断される「智」。外見の美しさや優雅さの「美」。そして体育祭や部活動の活躍「武」の三項目に秀でている生徒が選ばれやすいのだという。
「ほら、俺って外見は綺麗だし、成績もそこそこ上の方だけど、ロッカもそれなりに可愛いし、試験では常に学年トップだって話じゃん? おまけに副寮長の実績もあるし。ってなわけで勝つには『武』の項目しかないなって」
部屋の中でブンブンと木刀を振る俺に、鏡の悪魔は渋い顔をした。
「剣の訓練は外でするのじゃ。危ないじゃろ」
「はは、ごめんごめん」
モアはそんな俺たちを見て笑った。
「そう言えば、もうすぐ体育祭だっけ。聞いた? ホウキ乗りレースとか、魔法でボールを浮かせる玉入れとかがあるんだって」
「ホウキのレースか」
俺はため息をついた。ホウキで飛ぶのって苦手なんだよな。
初めて授業でホウキに乗った時は、俺もようやく魔法らしきものが使えるようになったかと感動したんだけど、少し浮けるようになった程度で、皆のようにスイスイ移動できないんだよな。
「ねぇお姉様、ホウキの特訓しようよ。体育祭で活躍したら、きっと姉4にも認めてもらえるよ」
「うん……まぁ、乗り気はしないがやってみるか」
二人でホウキを持って裏庭に移動する。
「さぁお姉様、ホウキに乗ってみて!」
モアに言われ、ホウキにまたがる。
授業中教わった通り、腕に力を込め、浮いている自分をイメージする。
「たあっ!」
足で思い切り地面を蹴ると、ほんの少しだけホウキが宙に浮いた。
「お」
だがすぐに力尽き、俺は地面に尻もちをついた。
「いてぇっ!」
痛たたた。思い切り尻を打ったぞ。
「大丈夫? お姉様」
「お、おう」
「でも、少し浮けてたね。お姉様魔法使えるんじゃん!」
「まー、冒険者カードを作った時も無属性だとは言われたけど魔力が無いとは言われなかったしな」
「そっかぁ。じゃあ頑張ればお姉様も色々な魔法を使えるようになるかもしれないんだね!?」
喜ぶモア。
「じゃあ、今度はモアがお手本を見せるから、それを見てもう一回やってみて」
モアはホウキにまたがると、ふわりと簡単に浮いてみせた。くぅ、魔女みたいなモアも可愛いなぁ。
「じゃあ次、お姉様」
「お、おう」
気合いを入れてホウキにまたがる。
と――
「うわっ!」
今度はバビュンとホウキが前に思い切り進み、俺はホウキから振り落とされた。
「痛たたたた」
痛めたお尻をさする。
「大丈夫!?」
「うーん、俺、才能ないかも。体育祭はモアに任せた」
「えーっ!?」
よく考えたら、モアは世界一可愛いし、運動神経だって悪くない。本当なら中等部に入る年のところをクエストのためにわざと高等部に通ってるにも関わらず、成績も常に3位以内。
ひょっとして、俺よりモアのほうが姉4の妹に相応しいんじゃないか?
「でもモアのお姉様はお姉様だけだもん!!」
ぷぅと頬を膨らませるモア。
「でっ、でもさ、学校の姉妹関係と実の姉妹は違うし、それにこれはクエストのためだから」
「でも、姉4の妹って次期姉4なんでしょ? 普通は二年生がなると思うよ。モアはまだ一年だし!」
「そっかあ。じゃあ俺が頑張るしかないのか」
肩を落としていると、モアの影から声が聞こえた。
「もう少し助走をつけて飛べばどうじゃ?」
「助走か。なるほど」
俺は二、三歩助走をつけると、足で思い切り地面を蹴った。
ヒュン。
するとホウキは上手く軌道に乗り、気がつくと俺はホウキにまたがったまま空を飛んでいた。
「出来た!」
「お姉様、すごーい!!」
「わはは! 飛べた、飛べたぞ!」
だが次の瞬間、集中力が切れたためか俺はズルリとホウキから振り落とされた。
「だ、大丈夫!?」
「大丈夫……今度はちゃんと受身を取ったから」
体操服についた汚れを払う。
そうか、何となく分かったぞ。魔力の調節が難しいのは最初の浮き上がる所だけ。そこだけ脚力でカバーすれば何とかホウキには乗れそうだ。
「よし、こうなったら、今日から毎日ホウキの特訓じゃな!」
「おー!」
モアと鏡の悪魔が盛り上がる。
「えっ」
これから毎日!?
俺は痛めたお尻をさすりながらため息をついた。
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