第41話 お姉様と最後の一撃

 よし、とりあえず、あいつを倒す作戦は思いついた。後はどうやってそれを実行するかだが……。


 俺はモアの耳元で作戦を告げた。


「大丈夫か? 言った通りのこと、できるか?」


 モアは力強く頷いた。


「大丈夫! モア、がんばる!!」


「何をごちゃごちゃ言っている!」


 襲いかかる触手攻撃。

 俺はそれを軽いフットワークで避ける。


 蠢く触手。それを避けながら、俺は脚に力を込め、グングン加速していった。


「死ねェ!!」


 海の悪魔が叫ぶ。その瞬間一瞬だけど、触手の動きが止まる。


 大きく触手を振りかぶるモーション。

 おそらく水魔法を出す動きだ。


 ――今だ!!


「モア!!」


 俺が叫ぶと同時に、モアが魔法を発動させる。



「ウインド!!」



 巻き起こる上昇気流。

 激しい風に乗って、俺は飛んだ。


「でやああああああ!!」


 突き上げる右腕。

 繰り出すアッパー。


 俺の右の拳は海の悪魔の体にめり込んだ。


「まだまだああああっ!!」


「ハリケーン!! ハリケーン!!!!」


 モアが声を張り上げる。

 上級風魔法の重ねがけ。


 成功するかどうか不安だったが、魔法は初心者のはずなのに、

ここまでスムーズに発動するとは。



 さすが俺の妹。天才だぜ!!



「うおおおおおおおおおあああああ!!!!」



 俺は飛んだ。



 拳を突き上げ、海の悪魔を連れて。


 天井を突き破り、海を越えて、空へと――!!



「――だあっ!!」


 飛沫しぶきが弾け飛び、キラキラ光る。


 空は夏の晴天。眩しく太陽が燃える。


 俺と海の悪魔は、はるか海を超え、地上へ、空へと舞い上がった。



「ぐわああああああ……」



 苦悶の声を上げる海の悪魔。

 その体から炎が吹き出し、メラメラと燃え、灰になっていく。


 やっぱり。思った通りだ。

 

 真っ白な皮膚、退化した目――こいつは普段、深海で暮らしている。


 だから太陽に弱いんじゃないかと踏んでいたが、まさか燃えるとは。



 火だるまに包まれる海の悪魔。

 やがてその体は小さく黒く縮んでいき、細かい炭になって風の中に消えた。


 俺はほっとため息をつく。


「はあぁ、疲れたー!」


 そして、燃え尽きる海の悪魔を横目に、プカプカ波間に浮かんでいると、遠くから声が聞こえた。



「お姉様ぁあー! 大丈夫ですか!?」


 アンの声と共に近づいてくるのは、海賊船だ。


「ああ、大丈夫だ!」


 そして泳ぎ疲れた俺は、そのままグレイス海賊船に救助されたのだった。


「お姉様、無事で良かったです!」


 涙ぐむアンの頭を、俺はポンポンと撫でた。

 

「ああ、でもモアたちが――」


 俺は船の上から目を皿のようにして海面を探した。いない。まだ海中に居るのだろうか? 無事戻れるだろうか? 迎えに行った方が――


「お姉様、落とし物?」


 すると俺の背後から、聞きなれた声が――


「モ、モアっ!?」


 慌てて振り返る。そこにはモアだけでなく、ベルくんもいる。


「良かった。みんな無事だったんだな」


「本当に、無事で良かった」



 こうして俺たちは、海の悪魔を倒したのだった。





「ああ、無事だったのか。よかったよかった」


 モアたちや海賊船のメンバーとの再会に涙ぐんでいた俺だったが、背後からした思わぬ人物の声に、思わず固まる。


 恐る恐る振り返ると、そこには黒髪の男。


「オディル!? お前、無事だったのか!」


「ああ。この通り」


 平然とした顔をして立っているオディル。


 だが、何かがおかしい。


 そうだ。こいつ、腹部を思い切り刺されて無かったか? 血も物凄く出てて……


「えっ? お前、怪我は無いのか?」


「ああ……うん。まあ」


 オディルは困ったように頭を掻いた。


「まあ、って」


「そう言えば」


 俺の言葉を遮り、オディルは話し出した。


「俺の姿に化けてるいる間に、随分と色々としてくれたみたいだね?」


「……はは。それは、その……ハハハ」


 苦笑いをする俺に、オディルはため息をついた。


「おかげで色々と計画が狂った。責任は取って貰うよ」


「そ、そりゃあもう! 何でもするさ!」


 俺が咄嗟にそう答えると、オディルの目がキラリと光った。


「何でも? 今、何でもすると言ったね?」


「あ、ああ」


 な、何をする気だよ。

 ゴクリと唾を飲み込む俺に、オディルは一枚の紙を渡してきた。


「明日午前十時、この住所に来てくれ」


 俺は紙に書かれた住所に目を落とす。

 これってもしかして、オディルの家??

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