第26話 お姉様と囮

 島の南方向から上陸した俺たちは、丈の長い草に身を隠しながら、カラスの巣がある島の中心部へと足を進めた。


「いました。あそこです!」


 アンが前方を指さす。黒いモコモコした塊が見えた。巨大カラスだ。


 カラスやタコだけでなく、この辺りは植物までデカいようで、体はすっぽりと草に覆われ、カラスにはまだこちらのことはバレて居ないようだ。


「凄い大きい草ー」


 モアが不思議そうに大きな草を摘む。


「この辺りには異常な魔力発生があるな。恐らくカラスや草の巨大化もそれが原因であろう。しかしこれは」


 影から鏡の悪魔が出てきて首を捻る。アンがビクリと体を震わせた。


「こ、これが悪魔! 話には聞いてましたが、随分と可愛らしいですね!」


 そう言えば、アンが実際に鏡の悪魔の姿を見たのは初めてだったな。


「異常な魔力? どうして」


 モアが眉を顰める。


「さあの」


 意味ありげに鏡の悪魔が笑う。


 俺はカラスに視線を戻した。


「それよりも、だ。囮になるとは言ったものの、どうしたもんかな」


 ため息をつく俺にアンが言う。


「取り敢えずグレイス船長からの合図を待ちましょう」


「まあ、そうだな」


 煮え切らない俺の返事に、アンは怪訝そうな顔をする。


 俺たちは島の南側からカラスに近づいて囮になり、グレイスたちは、その隙に島の西側からお目当ての宝を探す、というのがグレイスの作戦だ。


 だが――アンはグレイス船長の味方だからそれでいいのかもしれないが、俺たちはグレイスたちを出し抜いて先にブローチを見つけなきゃいけない。


 でないと、俺は兄さんだけじゃなくセラスからも追われるハメになる。この国に滞在するのも出国するのも難しくなるのはごめんだ。


 何か良いのに案は無いだろうか。


「えっ?」


 俺が考えていると、アンの顔色が急に変わる。


「どうしたの?」


 不思議そうな顔をするモア。


 ヒイロが黙って手の中を見せる。そこには手のひらに収まるほど小さなハトがいた。


「なんだこれ」

「もしかして、何かの魔法?」


 モアが尋ねると、アンは頷く。


「ええ。魔法伝書鳩です」


 何だそれ。普通の伝書鳩と何が違うんだ?


 俺がじっと見つめていると、鳩は小さな声で喋り出した。


「ポッポッポ。ロレンツ海賊団が島の北側から上陸したッポ」


「喋ったあ」


 喜ぶモアに、アンは得意げに解説した。


「ええ。しかも知らない相手には普通の鳩のフリをして決して喋りません。有能です」


 それは便利だ。……って、それは良いとして、まさかロレンツ海賊団まで!


 まずい。俺たちはグレイス海賊団に引き続きロレンツ海賊団まで相手にしなきゃ行けないのかよ。


 だが、どんなに考えても二つの海賊団を出し抜くアイディアは出てこない。


 すると、丘の真ん中に陣取っていたカラスがふわりと浮き上がる。


 ヤバい! 見つかったか!?


 思わず身を固くする。


 カラスの向かう先は――北側!


「どうやらロレンツたちの船が見つかったようですね。この隙に船長たちが動くのでしょうか?」


 呟くアン。


 同時に、俺は巨大カラスに向け、走り出した。


「お姉様!?」


 モアの声が背後で響く。


 チャンスは今だ。グレイスとロレンツ、両方を出し抜くには今行くしかない。


 この隙に、巣へ向かう!


 ありったけの力を足に込め、走る。


 同時に、グレイスたちも草むらから飛び出した。


「ギョーッ!!」


 そんな俺たちに、黒い影が近づいてくる。

 巨大カラスがこちらに気づいたのだ。


「まずい、一旦引くぞ!」


 散り散りに逃げるマリンちゃんとメリッサ、そしてグレイス。


 巨大カラスは、その中で一番近くにいたマリンちゃん……ではなく、遠くに居たはずのグレイスに狙いを定めた。

 

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