第25話 お姉様と幽霊船

「あ、あれは、幽霊船!?」


 俺が腰を抜かしていると、幽霊船がどんどんこちらに近づいてくる。


「こっちに来る!」


 グレイスが慌てて操舵室にいる船員に目配せをする。急旋回する船。


 だが遅かった。幽霊船は俺たちの乗った船に横付けすると、海賊の服を着た骸骨たちがワラワラと降りてきた。


「ひえええええええ!!」


 全身に寒気が襲いその場にしゃがみ込む。心臓がバクバクする。思わず横にいたグレイスに抱きつく。


「がっ、骸骨ぅぅう!!」


 グレイスが大声を上げる。

 あれ、もしかして、グレイスも幽霊が怖い? 意外だ。


 グレイスが怖がっているのを見て、俺は少し冷静になる。


「お姉様!?」


 声を聞きつけたモアが走ってきた。


「お姉様、今の声は……大丈夫!?」


「あ、ああ」


 駆け寄るモア。俺はグレイスから離れた。モアの影から馬鹿にしたような声が聞こえる。


「唇が真っ青じゃぞ」


「うるさいなー」


 俺が少しムッとしていると、鏡の悪魔は低く笑った。


「安心せい。あれはただ単に悪魔に操られているだけの沈没船じゃ」


「悪魔に?」


 モアもびっくりした声を出す。


「じゃ、じゃあ、あれは悪魔の手下というか、ただのモンスターみたいなもんなんだな?」


「ああ、そうじゃ」


 それを聞き、俺は俄然やる気が出てきた。だってそうだろ? 幽霊は怖いけど、モンスターならそんなに怖くない。


「それなら!」


 俺は斧を取り出す。


 ナイフで遅いかかってくる骨の海賊。俺はそれを避けると、思い切り斧を振った。


「でりゃあ!」


 がしゃん、と骨の崩れる音。崩れ去った骸骨たちは、キラキラとした塵になって消える。


「ウインド!」


 モアが杖を振る。嵐の中巻き起こる風。

 同時に五体の骸骨がバラバラになる。


「凄いぞモア!」


 俺はモアの頭を撫でた。


 と、そこへ後から骸骨が斧を振り下ろしてくる。


「ちいっ!」


 振り返り応戦しようとした瞬間、骸骨の頭が撃ち抜かれる。


 振り向くとグレイスが銃を構えている。


「全く、よそ見してるんじゃないよ!」


「あ、ありがとう」


 なんだよグレイスのやつ、さっきまで震えていたのに、えらい違いだな。


「でやあっ!」

「たあっ!」


 嵐の中、骸骨たちを一体一体倒していく。


「くっ、何体倒せば良いんだ!」


 すると、骸骨たちが、急にキラキラ光る塵になって消えていく。


「何だ?」


 よく見ると、辺りが明るい。

 いつの間にか嵐が止み、太陽が出てきたのだ。


 もしかしてあいつら、太陽の光に弱いんだろうか?


 そんなことを考えていると、一人の船員が叫んだ。


「島に着いたぞー!!」


 見ると、いつの間にか陸地が間近に迫っていた。


「よし、上陸する!」


 グレイスの逞しい声に、わあっ、と歓声が上がった。





「大分雨も小降りになってきたな」


 錨を下ろし、砂浜に船をつける。


 確かに、雨はだんだんと落ち着き、空は微かに明るさを取り戻しつつある。良かった良かった。


「よし、作戦を立てよう」


 グレイスが地図を広げた。


「ここがカラスの巣のある山だ」


 地図によると、丸い島のほぼ中央に山があるらしい。山と言ってもそんなに高く無くてほぼ丘みたいなものらしいが。


「ここへ私とメリッサ、マリンちゃんの三人で向かおうと思う」


「たった三人で?」

「危なくない?」


「目立たないようにできるだけ少人数で行きたいんだ。それと、もし良ければ誰か囮になってカラスを引き付けておいてほしい」


 俺は反射的に手を挙げた。


「じゃ、じゃあ俺が!」


 その様子を見ていたモアも手を上げる。


「じゃあ、モアも!」


「じゃあ、私も」


 アンも手を上げる。


「じゃあ、三人には囮を頼む。危険だが、あんた達の腕は信じてる」


「ああ、分かった」

 

 こうして、巨大カラスの巣への襲撃作戦は始まった。


「何とかして、船長たちを出し抜いて先にセラスのブローチを手に入れよう」


「うん」


 俺とモアは目配せをし、頷き合った。

 肝心の船長たちを出し抜く作戦は、思いつかないのだけど。


「いざとなったら、気合いで何とかするしかない」


 まあ、なんとかなるだろ。

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