53.お姉様と最強の女の子
シュシュを警察に引き渡すと、俺たちはマロンの別荘へと帰ってきた。
「みんな、お帰りなさい! モアちゃんが帰って来てよかったわ。さあ、夕ご飯、用意してるから」
別荘へと戻るや否や、マロンが大慌てで飛び出てくる。よほど心配したらしい。目には涙が浮かんでいる。
「いや、その前に疲れたから俺は風呂入ってくるわ!」
ゼットはそう言って風呂場へダッシュする。全く、折角マロンが心配してくれてるのによ。マロンはくすりと笑う。
「そう? じゃあお風呂を先にして、その後みんなで晩御飯にしましょう!」
そんなわけで、俺たちは皆で大浴場に行くことになった。
「汗かいたな」
「ここの大浴場は広くていいぜ」
「モア、温泉大好き!」
そんな風に話していると、男湯の前でアオイが手を振った。
「じゃあ皆様、私はここで」
俺はぎょっとしてしまう。
「ま、まさかアオイ、男湯にいくのか?」
「はい。何か問題でも?」
きょとん、と首を傾げるアオイ。
「いや、問題は無い。問題はないけど......」
男湯には先にゼットが入っている上、そのゼットはまだアオイを女の子と勘違いしたままなのだ!
ヒイロがぐい、と俺の肩を引く。その目は、キラキラと輝いていた。
......そうだな。確かにこのまま黙ってたほうが面白そうだ。
「......いや、何でもない! じゃあな、また後で!」
俺はアオイに手を振った。ヒイロも性格が悪いが、俺もたいがい悪人かもしれない。
「はあ~、なんとかして男湯を覗けないものか......」
ヒイロがため息をつく。
「逆だろ、普通......」
そんな風にして脱衣場で服を脱いでいると、モアの影から鏡の悪魔が現れた。
「ふい~、どれ、妾も温泉とやらに入って見るかの」
帽子と衣服が脱ぎ捨てられ、すっぽんぽんになる鏡の悪魔。
「きゃっ!」
驚いた下着姿のマロンが俺に抱きついてくる。押し付け合わされる柔らかい胸と胸。
「大丈夫だよ、この子は俺たちの味方なんだ」
「そ、そうなの......」
するとヒイロが俺とマロンの乳をジロジロと見て言った。
「なんなんだここ、巨乳が多すぎる......」
そしてモアの方にも視線をやった。
「それにあんた......子供なのになんで私より胸があるんだ!?」
「モ......モア分かんない」
「そりゃー、モアは俺の妹だし」
ヒイロは鏡の悪魔を指差した。
「いいか? 子供はこういう慎ましやかな胸であるべきなんだ! それを」
鏡の悪魔は困ったように笑う
「いや、妾は今は魔力の消費を抑えるためこの姿になっておるが、その気になればいくらでも巨乳になれるぞ」
「そうだったのか!!」
......ってなわけで、俺たちは、皆で温泉に入った。
「皆さん、疲れたでしょう。しばらくこの別荘でゆっくりしていってね」
「ありがとう。でも早くBランクに上がりたいし、そうゆっくりもしてられないかな」
「私たちも次のクエストがもう決まってるから、明日には立たなきゃいけないしな」
「明日? そんな急に?」
「忙しいんだな」
「ええ、私たち、常に2、3個クエストを掛け持ちしている状態なんだ。装備やら何やらでお金がかかるし、早くSクラスに上がりたいしね」
「Sクラスかあ。凄いな」
Sクラスに上がった冒険者は勇者と呼ばれることになる。いいなあ。俺の憧れだ。
「でもあなたたちのことだから、すぐに追いつくだろう」
ヒイロが頭にタオルを乗せながら言う。
「そうじゃな。妾も長く生きてきたが、お姉さまは間違いなく逸材じゃと思う」
鏡の悪魔が俺に向かってウインクする。
......え? なんで鏡の悪魔まで?
「......お姉さま?」
「なっ、なんで鏡ちゃんまで!」
モアとマロンが色めき立つ。
「え? だって皆そう呼んでおるので......嫌か?」
「いや、別に嫌とかじゃ......」
するとヒイロがこう言った。
「別にみんな言ってる訳じゃない。私は違うし」
「なぜヒイロはお姉さまと呼ばないのじゃ?」
「だって別に私のお姉さんじゃないしな」
「お姉さまじゃないならどういう関係なのじゃ?」
「どういう関係って......」
困るヒイロ。俺はうーん、と考えた末、こう言った。
「お姉さんじゃないなら......親友だな!」
「え!?」
全員が俺の方を一斉に見つめる。そんなに変なこと言ったかな?
「だって俺には妹ばかりで友達が一人もいないから、だからヒイロは親友だ。だって親友って一番の友達のことを指すんだろ?」
「わ、私が一番の友達!?」
ヒイロも何故か動揺しだす。
「そうだ」
そう言うと、ヒイロは酷く照れた顔をしてそっぽを向いた。
「ま、まあ、あなたがそこまで言うなら親友になってやらないでもないというか......」
全く、相変わらず可愛くないんだから。
するとモアが勢い良く抱きついてくる。
「ずるーい、モアも親友になる!」
「モアは妹だろ」
「わ、私もお姉さまの親友にしてください!」
「では妾も......」
あー、もう、一体どうなってんだよ!
*
風呂から上がると、ゼットが意気消沈とした顔で項垂れていた。
あの様子をみると、さすがに男でもいい、とはならなかったんだな。
「......お前ら、全部知ってたんだろ」
恨めしそうに言うゼット。
「はははは......」
俺は笑って誤魔化した。
「アオイちゃんはさ、武器の話とか俺の好きな格闘家とかに詳しくてさ、凄く趣味が合って、話しやすくて、運命の相手かと思っていたけど......まさか男だったとは」
ゼットはため息をつく。
「は~あ、どこかに男心を分かってくれる可愛い女の子はいないかな~」
何言ってんだこいつ。
そんな都合のいい女の子なんているわけないだろ!
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