46.お姉様と犯人の正体
俺たちはその後も、草木をかき分けて森の中を進んだ。
どこにいるんだ? モア......
そうしている内に、雲が出てきて空が段々暗くなってきた。
するとヒイロが、俺の指輪を指さす。
「その指輪、光ってないか?」
「本当だ」
見ると指にはめていた悪魔の模様がついた指輪から真っ直ぐに、遺跡の中央部にある四角い棺桶のような石へ白い光が伸びて行っている。
「まさか......モアのいる場所を指し示してるのか!?」
もしかして、ずっと光っていたけど明るかったから分からなかったのか?
俺たちは、光の指し示す方向を目で追った。
「もしかして、この石に何かあるのか?」
ゼットが石を持ち上げようとする。
「ぐっ......全く動かねえ」
石がびくともしないのを見て、俺も石に手をかけ、ゼットとと二人がかりで持ち上げることにする。
「いくぞ!」
腕に力をこめる......と同時に石は軽々と宙に浮き、その下から真っ暗な地下へ続く階段が現れた。
「なんだ、そんなに重くないじゃないか」
俺が拍子抜けしながら言うと、ゼットは顔を真っ赤にした。
「いや、重いって! お前が異常なの!」
「さすがです~お姉様!」
アオイが俺を褒めるのを見て、ゼットは少し悔しそうな顔をする。
それを見て、俺は少し優越感にひたる。
......まあ、アオイは男の子なのだが。
地下に続く階段を下りていく。苔むした白い石組みの階段は、かなり古い時代のもののようだ。
こんなの「迷いの森ガイド」に書いて無かったよな、と思っていると、暗闇からひゅん、と何やら鞭のようなものが降ってくる。
「いてっ」
俺はとっさに打ち込まれたその細長い物体をつかんだ。するとそれは、草のツルであった。まさかまた人面樹か?
ツルを引っ張ると「ギャッ」という細い声がし、蛍のような小さな明かりがともる。ぼうっと辺りが明るくなった。
同時に俺に攻撃してきたモンスターの正体も明らかになる。
俺たちを囲むように飛ぶ羽の生えた一団。それは緑色の髪と服、手にはスズラン型のランプを持つ、小さな妖精であった。
「……ドリュアスか!」
ゼットが剣を構える。どうやら木の妖精らしい。俺も一応斧を構えるんだけど、あからさまにモンスターっていう見た目ならともかく、こういう小さくて可愛い女の子型モンスターは傷つけるのに戸惑う。
「ハッ!」
するとアオイが組紐を取り出す。紫の組紐が蜘蛛の糸のようにドリュアスたちを絡めとる。
「さ、先を急ぎましょう」
すごい。便利だなー、組紐。
すると、そのうちの一匹が組紐から運良く逃れて飛び立っていった。
「逃げたぞ!」
微かな灯りを追って、どんどん階段を降りていくと、ドリュアスの姿は岩壁の中へ吸い込まれ、カラン、と小さなランプが地面に落ちた。
「どこへ行った?」
辺りを見回していると、ヒイロが壁を指さす。
「なんか今、この壁の中に吸い込まれたように見えたが」
「そんな馬鹿な」
しかし、指輪の光も壁の先を指差している。見ると壁のその部分だけ色が変わっている。隠し通路か。俺は壁を押した。
壁を押した先にあったのは、部屋だった。かび臭い石畳の床。暗闇に浮かび上がる大きな鏡。
「あれっ? ここは……」
そこは、俺が冒険者試験の時に見た、あの隠し部屋であった。
「えっ......ちょっと待てよ、一体どうして......」
「どうしたの?」
「いや、何でも......」
以前と同じ大きな鏡。しかし、以前と違うのは、鏡が水たまりに油でも撒いたかのようにぬらぬらと虹色に光っているということ。
「中に入ってみよう」
すると部屋の隅に、以前は無かった大きな檻があるのに気づいた。床には真っ赤な魔法陣が描かれており、中央にはモアが倒れている。
赤く毒々しく光り続ける魔法陣。俺は直感的に、それはモアの魔力を吸い上げ鏡に送るためのものだと分かった。
「......モア!」
モアに駆け寄ろうとしたその時、部屋がぱっと明るくなった。
「よく来たわね。......まさかここを嗅ぎつけられるとは思わなかったわ」
現れたのは、銀色のツインテールにメイド服を身にまとった女の子。
この子、見覚えがあるぞ!
「あ、あんたは......グンジおじさんの所にいた......?」
兄さんの暗殺未遂の時にいた子だ。ええと、名前はシュシュ、だっけ。
「あら、覚えていてくれて嬉しいわ」
シュシュはにっこりと、妖しい瞳で微笑んだ。
モアを攫ったのは、グンジ叔父さんの屋敷にいたメイド、シュシュだったのだ。
「知り合いか?」
ゼットがシュシュを指さす。
「ああ。以前叔父さんが兄さんを暗殺しようとするっていう事件があったんだけど、その関係者だ」
あの事件の後、行方が知れないと聞いていたが、まさかフェリルにいたとは。だけど……なぜシュシュが鏡の悪魔を呼び出そうとしてるんだ?
「お姉さま……!」
するとモアが目を覚ます。俺は急いでモアの元へと駆け寄る。
「モア……モアー! 無事だったのか!」
「お姉さま、モアは大丈夫」
力なく微笑むモア。どうやら怪我は無いみたいだが、その表情には疲労の色が見える。モア、辛かったんだな。
俺が檻に触れると、バチリと音がし火花が飛び散った。クソッ、檻に何か魔法がかかってやがる。
「あらお姉さま、勝手に動いちゃ駄目よ」
シュシュがパチン、と指を鳴らす。すると、赤く光る棒状の物体が現れ、俺の周囲をぐるりと囲った。
俺もまた、モアと同じように檻に入れられたのだと気づいた時には既に遅く、檻をどかそうとした俺の指に、ビリリと電流が走る。
「ミア!」
「お姉さま!」
俺は舌打ちした。
「クソッ、あんたの目的は何なんだ!? なんでモアにこんなことを!? モアを返せ!」
問い詰めると、シュシュはやれやれと肩をすくめた。
「そんな怖い顔をしないで」
そして、シュシュは告げた。
「私はあなたのいとこなのよ」
「な……」
意味が分からず絶句しているとアオイが険しい顔をした。
「まさか、あなたはグンジさまの娘なのですか?」
シュシュが......グンジ叔父さんの娘!? 眼を見開いてシュシュを見ると、シュシュはおかしそうに笑った。
「そう。私はグンジ様が昔仕えていたメイドに産ませた子供なの。世間的には隠されていたけどね」
シュシュが真っ赤な唇で妖しく微笑む。
「グンジ様は言ってくださったわ。計画が成功したあかつきには正式に娘として認めてくれるって。お姫様にしてくださるって! でも、計画はぶち壊しになり、私は追われる身に......」
「それで『鏡の悪魔』を使って運命を変えようとしていたのね。陛下とグンジ様の立場を入れ替えて自分が姫に」
ヒイロが言うと、シュシュは首を振った。
「いいえ。初めはその予定でしたけど、今は気が変わったわ」
潤んだ瞳で俺を見るシュシュ。
「私、お姉さまのこと、すごく気に入ってしまったの。お姉さまを苦しめるのは嫌。だから......」
モアを横目でちろりと見るシュシュ。
「だから、作戦を変えたの」
シュシュは高いヒールをカツカツと響かせ歩いてくる。
思わず後ずさると、シュシュは蕩けそうな瞳でこう言った。
「私があの子と入れ替わって、私がお姉さまの妹になるのよ」
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