36.お姉様と人面樹
「くっ……こいつ、モンスターかよ!」
暗闇の中、目を凝らす。目の前のモンスターはどうやら人面樹のようだ。
太い木の幹ポッコリと空いた苦痛にゆがんだ人間の顔のような洞。
幹から伸びる二本のツタはまるで腕のように伸び、鞭のようにしなって俺の足を捕らえる。
「クソッ! 離せ、離せよー!!」
ジタバタと足を動かしてみたがツタは余計にキツく絡まる。クソッ、思ったよりも硬いぜ。
「お姉さまー!!」
モアが悲鳴を上げる。
「何の! これくらい......ッ!」
俺はツタを掴むと指に力を込める。
「ふんがあああああ!!」
ブチブチと千切れるツタ。無理やり指でツタを引きち切った俺は、素早く地面を転がりツタから逃げた。
「大丈夫か?」
「ああ」
駆け寄るゼットに息を切らせながら返事をする。だが安心したのもつかの間
「きゃあああああ!」
「なっ!?」
今度はモアが足をとらえられ引きずられたではないか。
こ……このクソ木が!! いくらモアが森の妖精よりも可愛いからって!!
「クソッ! 待てこの!」
「いやあああああ!!」
走って追いかけたのだが、人面樹はモアを捕らえたまま凄い勢いで裏庭から森の方へと逃げていく。
「大丈夫だよお姉さま! こんなのモアの魔法で......きゃあ!」
しかし杖を振り上げた右手はツタに絡めとられてしまい、カランコロン、と乾いた音を立ててクマちゃんステッキが地面に転がる。
ぎゃあああ!! モアの杖がああ!!
「モアを離せってんだこのクソ木がーー!!」
俺は全速力て走って人面樹に追いつくと、にょろにょろと蠢くツタに蹴りを入れる。ツタはブチブチと千切れ、モアは地面に転がった。
「うわーーん、お姉さまぁ!」
「よしよし、怖かったな」
クソッ、モアの服が泥まみれじゃねーか! 膝まで擦りむいてるし。何て可愛そうなモア! 許さねぇ、死ね!!
「二人とも、ちょっち退いてな!」
ゼットの声に、俺は咄嗟に人面樹から離れる。剣を振り上げ人面樹に向かっていくゼット。
「でやあああ!!」
ブン!と空気を切る心地よい音。
剣は枝の部分にクリーンヒットし、枝は綺麗に幹から切り離された。
が、次の瞬間、斬られた枝は一気に再生し、またもやモアを狙った。マジか。再生するのかよ、こいつ。
「あああああ」
再びモアが片方の足首を捕まえられる。ずるずると引きずられて行き、モアは悲鳴をあげる。ザン、ともう一度枝を切り落とすと、人面樹はしぶしぶ一歩後ろにさがった。
これは、茎の根元とかその辺を狙ったほうがいいかもしれないな。
「よし、みんなであのモンスターの根元を狙おう」
「分かった!」
ゼットが切り付ける。これはわりと効いたようだ。茎がぐらり、と揺れる。
続いてモアの攻撃。火属性の魔法が人面樹を襲う。
オオオオオ......と人面樹は呻くがまだ倒れない。
攻撃力はあまりないが、防御力のやたら高いタイプの敵ようだ。
しかし流石に限界なのか、すごすごと森の奥へと逃げていく。
「見ろ! 逃げていくぞ」
「逃がすか! でやっ!」
俺は人面樹に向かって飛んだ。背後から人面樹の幹を両手で掴む。そしてそのまま思い切り膝蹴りをくらわせでやった。
「おりゃあああああ!!」
バギバキと音を立てて半分に割れる人面樹の幹。
「ギョワアアアアア」
人面樹は断末魔の悲鳴を上げた後しばらくのたうち回っていたが、その内動かなくなった。
「ふー......なかなかしぶとい敵だったぜ」
俺は額の汗を拭った。
「ねえ、見てこれ」
するとモアが声を上げた。
「こんなところに、魔法陣が……」
モアのしゃがみこんでいる地面を見ると、そこには紫色に輝く不気味な魔法陣があった。
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