まうすうますまうす
鐘辺完
まうすうますまうす
なんかマウスの調子が悪い。
マウスといってもネズミではなく、パソコンにつないで使うあれだ。念のため。
マウスはときどきすねたようにポインタを動かさなくなる。中のボールをはずして掃除をしてみるが、それでも不調だ。
そろそろ買い換えるか。
近所の電気店で新しいマウスを買った。ボールがあるのでほこりがつまって不調になったのだろうと思い、多少高いが光学マウスを買った。
早速接続してみる。
おー、なかなか快適。うんうん。これなら。
快適なブラウジングのおかげか、その後の睡眠も心地よかったが、なにか妙な気配に目が覚めた。
机の上で、ボールマウスが光学マウスの上にのしかかって動いていた。
乗っかってるほうがボールマウスだということは、やっぱり玉のあるほうがオスなのか。
数日後。光学マウスが太くなってきていた。手にしっくりこない。
光学マウスはだんだん太くなってゆき、二週間もするとマウスが五つ増えていた。その五つは親指の先ほどの大きさで、出産して元の太さになった光学マウスの乳を吸っていた。
小さなマウスはすぐに大きくなった。もうすっかり親マウスと同じ大きさだ。
そのうち、またマウスはマウスを生んだ。マウスなだけにねずみ算だ。友達にくれてやったりしたが、一つの家庭に二〇個も三〇個もマウスはいらない。結果、うちのマウスは引き取り手も尽きて増える一方になった。
このままでは部屋がマウスで埋まってしまう。
困っていたが、ある朝、部屋のマウスはひとつもなくなっていた。
首をかしげていたが、夕方のニュースでわかった。
『非常に珍しい映像が偶然撮影されました。ごらんください』
画面にはうちからほど近い港が映った。
防波堤の先端に向かい一目散に走るたくさんのマウスたち。
マウスはそのままみんな海に飛び込んで死んでいった。
『ネズミの仲間のレミングなどは、仲間が殖えすぎるとあのように海に飛び込んで集団自殺をする習性がありますが――』
俺は少しあわれに思い、次はトラックボールにしようと誓った。
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