時を操る少女

水無月せきな

過去と僕と未来

第1話 僕を縛る過去の鎖

「就職先は考えているのか?」

 晩御飯の席上。父の一言で、ハンバーグを突っついていた僕の箸が止まった。

「ぼちぼち、かな……」

 顔を伏せ、目線も極力父から遠ざけて僕は答えた。

「そうか。まあ、お前の好きなところに行くと良い。相談には乗るぞ? まずは自信もってやることからだな。あっはっは」

「ははは……」

 軽快に笑う父に僕はかろうじて笑い返す。ただその後は、笑うことが出来ずに黙々と食べ続けた。好物のハンバーグでさえも、心を明るくすることは出来なかった。

 重い気持ちのままご飯を食べ終えると、僕はすぐに自分の部屋に引き上げた。そしてごろりとベッドに寝っ転がって天井を見上げた。ベッドに沈み込んでしまいそうな気分とは反対に、天井には蛍光灯が煌々と光っている。

 眩しさに目を逸らすと、壁掛けのカレンダーが目に入った。

 今は12月も末。寒さも一段と冷え込んできて、体を縮めて歩く日が多い。ただ、そうやって歩くのは寒さのせいだけじゃないけれども。

「就活、か……」

 大学3年生、それも12月になると周りも俄かに就活の話をするようになった。休み時間の講義室や研究室、通学中の電車の中……会話だけじゃない、各種イベントの告知も目に付くようになった。

 それでも僕は、努めて就活の事は考えないようにしていた。

 就職したい職種とかが無いわけじゃない。

 ただ、僕にはどうしても就活に向き合いたくない理由がある。

小学生の時、親の勧めで私立中学を受験して落ちた。

 中学生の時、行きたかった公立高校の受験で落ちて私立の高校に行くことになった。

 高校生の時、体育会系な校風が自分の性格に合わなくて、一時は自殺も考えた。結果、僕は高校を中退した。

 中退した後、せめて大学にはまともに行こうと思って高卒認定試験を受けた。一発合格はならず、2回目で合格。その後大学受験に臨んだけれど、二浪してようやく入学。しかも第1志望ではない大学に入った。

 この通り、今まで人生の節目となるような試験でうまく行ったことが一度も無い。

 また失敗するんじゃないか。

就活のことを考える度、いつもそのことが頭をよぎる。

 幸いなことに親はいつも僕のことを支えてくれた。だけど、そのことが逆に僕を苦しめてもいた。また失敗すれば親にさらに迷惑がかかることになる。それを思うといっそのこと逃げ出したかった。

 ひとまず、今日のところは考えるのをやめた。

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