第20話 手塚カケル
今日の気分は最悪だ。なぜなら同室の患者の大きなイビキで、夜全く眠れなかったからだ。今度ナースに頼んで睡眠効果もある薬をいつものクスリにプラスしてもらおう。このままじゃ俺様、手塚カケル様が消沈してしまうからだ。
今日はヒロトの野郎がホールに来る気配がない。暇だ。ソウタのやつも同様だ。
あいつらまだベッドでお寝んねしてるのか?俺様は頭が痛くて目も冴えてるから
眠れる気がしない。
時刻は9時。特にすることがない。今日の担当のナースに売店でお菓子を買ってきてもらうように頼んだ。頼んだのはコンソメ味のポテトチップスとどら焼きとコーラだ。
ナースが部屋に戻ってくる。お菓子の入ったビニール袋も一緒だ。
どら焼きを食べながら雑誌を読む。
俺様がこの病院に運ばれた理由は俺にも分からない…。というのも俺にはその時の記憶が無いからだ。学校のいつもの帰り道でどこかによっていったことは一応覚えてる。
ワールドクリエイト全国大会か…。雑誌のワールドクリエイトのページを見てそう呟く。前回の大会の優勝者が葛城タクトという名前のバトルクリエイターであり、
俺様の憧れでもあった。葛城タクトのバトルスタイルはまるで運命を操るような戦い方からデスティニークリエイターと呼ばれている。
運命を操るデッキか…一体どんなデッキかが分からない…。
雑誌を見る限りでは。
お菓子を食べ終えた頃には雑誌を読み終えていた。
とにかくやることが無い。隔離病棟にいた時もこの上なく暇だったが
ここでもカード仲間のソウタとヒロトがいないと退屈なことには変わりは無い。
とりあえず部屋の外に出て暇つぶしになることを探してみる。
ホールで目に付いたのは卓球をやってる遠藤さんたちだ。
卓球か、それも悪くねえな。
「すみませーん。俺も混ぜてもらっていいですか?」
「おお、手塚くんかい。いいよわしと交代しようか」
遠藤さんにラケットを手渡される。卓球はどちらかというと得意な方だ。というのも中学では元卓球部だったから卓球の腕には自信があった。
サーブの第1球を打つ。だが思わぬところに逸れてしまった。この病棟の暮らしで
完全に感覚が鈍ってしまっているしな。仕方ないといえば仕方ない。
そう割り切ってラリーをする。手元の感覚がぶらついて思ったようにコースを狙えない。もともとこの卓球はラリーで打ち勝つことよりラリーを続けることの方が
大切だとは分かっているが、やるからには勝ちたい。それが俺のポリシーである。
だが年配の人相手にビシバシ打ってみるがミスばかりなので、おとなしく
ラリーを続けることに専念することにした。
卓球を終えて卓球台を片付ける。いい運動になった。俺様の鈍っていた体も
少しは目を覚ましたってところだ。
昼食時間になってようやくヒロトとソウタが部屋から出てきた。
3人部屋でイビキが俺様の部屋と同様にうるさくて、よく眠れないソウタは置いておいて、1人部屋のヒロトが昼まで部屋に引きこもっていたかは謎である。
「おいおい、お前ら。いつまで部屋で横になってるんだよ…俺様は寂しかったんだぜ」
「カケルちゃんは寂しがり屋だねぇ〜。僕がいないと全然ダメなんだから〜」
「いやそこまでお前に依存してるつもりは無いんだが…」
「ひっどいな〜。僕だって午前中はカケルちゃんがいなくて寂しかったんだよー」
「いやお前部屋で寝てただろ…」
「あれれ?バレちゃった?」
「おいおい君たち漫才でもやっているつもりかい」
「そんなんじゃねえよソウタ。お前も部屋から出てなかったがお前も寝てたのか?」
「いや、親に買ってきてもらったパックでデッキを強化してたのさ。もっと強くなりたいからね」
「よーし、そんなら俺様が直々にまた相手してやるぜ。全力でかかってきな」
「おうよ!俺だって負けないぜ!カケル」
「いや〜二人ともお熱いね〜。僕もそのバトル見物させてもらおうかな〜」
俺たちはホールで同じ席に座る。あのカードがどうやらとかこのカードがいいとか
俺様たちの会話は大半それだ。とくに俺様が着目してるのは最近出たパックに収録されてるサポートカードの回収カードだ。回収カードはダメージをたくさん受けたく無い時にレベル3を手札に戻せる効果で、俺の中ではキーポイントとなるカードだと思ってる。まあ、そのレベル3を再び出すのにエナジーカードをまた2枚必要になるのが
リスキーなところだ。
「よーし、食べ終わったな。お前ら!早速バトルしようぜ」
「いいぜ、リベンジマッチだ。今度こそ勝たせてもらうぜ」
こうして今日の俺様の時間は過ぎていった。
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