エレベータ

麦食くま

第1話

「まだちょっと眠いな。今からエレベータでの移動時間を考えると、休憩室をあと5分後に出れば十分間に合う。よし、念のために」男はそういいながらスマートフォンのアラームを5分後にセットすると、そのままうつ伏せになって眠った。しばらくするとアラームがなる前に自然に目が覚める。「ふうちょっとだけど良く寝った。さてオフィスに戻ろう。男はそういいながら休憩室を出て、エレベータホールに向かう。男の働いている会社のオフィスは、複数の会社が入っている高層ビルの24F。休憩室は最上階の30Fにあった。そこでいつも毎朝コンビニで買ってくる弁当を、昼の休憩時間にエレベータで最上階にあるこの休憩室で食べた後、時間までうつ伏せになって眠るのが日課であった。

男はいつもの通りエレベータの下るボタンを押す。そしていつもの様にエレベータが上がってきたので、エレベータの中に入って24Fのボタンを押した。最初は何の問題もなくエレベータが下る。ところが途中の27Fで止まったかと思うと、突然上昇しだした「え?」驚く男であるが、29Fで止まり3人が乗り込んできた。そしてまた下るが、27Fでドア開いてその3人が降りていく、そしてドアが閉まったかと思うと、また上昇して29Fで止まり、別の5人が乗ってくる。「一体どうなっているんだ?仕方がない27Fで降りて階段を使おう」そう思った男は、27Fで止まったエレベータから先ほどと同じように5人と一緒に降りる。男が後ろを振り向くとエレベータは閉まるが、今度は下に降りていき、24Fで停止した。「何という事だ!運が悪すぎる。もう一度乗っても良いけど、同じことになったら嫌だから、やっぱり階段だ」といって男が非常階段を探すが、普段オフィスのある24Fと休憩室のある30F以外の階で今まで降りたことがなく、建物のレイアウトも普段のところとは違うように見える。

とはいえ、同じビルだから非常階段の場所も同じところにあると思い、そこを目指すと、やはりそこに非常階段の非常口を発見。非常口のドアを開ける。すると階段が上の方向にしかない「どういうこと?別の非常階段を使おう」と振り向くが、何故か先ほど開けた筈のドアがない。その周りは暗闇でうっすらとした壁しかなく、上に上がる階段しかない。男は今にも泣きそうになりながら「遅刻確実!今からどういう言い訳しよう」と、非常に焦りながら階段を上がっていく。その階段はいつまでたっても続いているように見える。「いったいどうなっているんだ??」男の焦りは最高潮に達したとき、上のほうにドアが見えうっすらと明かりが見える。「あそこが出口かとりあえず出るしかない。と男はドアから外に出ると、ビルの屋上のようなところに出てきた。「屋上か、もう焦っても仕方がない。電話して助けてもらおうか」と、普段スマートフォンを入れているポケットに手を突っ込むがスマートフォンが入っていない。「え?まさか休憩室に忘れてきた??といっても、元に戻れそうにないし、とりあえず屋上なら一番先にいけば、なにか手がかりがあるかもしれない」男はそういいながら一面が灰色のビルの屋上を歩く。空は雲ひとつない青空であるが、いくら歩いても一向にビルの端に到達しない。「こんなに広いビルだったかなあ?」男は疑問に思いながらさらに歩き続けると、目の前に何か箱のようなものが見える。「何だこれは?・・え・エレベータ??」男は恐る恐るそのエレベータらしきものに近づく。


「ドアが開いているな。このまま歩いても埒が明かない入ってみよう」男が入るとドアが自動的に閉まる。ボタンは何処にもなく外の風景が見える。「と、閉じ込められた??」と思った瞬間。そのエレベータが急発進で横に動き出す。男は思わず倒れこむ。エレベータはシーソーのように激しく左右に大きく動いたかと思うと、男から見て右下のほうに急速に動いていく。窓の外は薄暗いものが見えるが、あまりにも激しく動くので男の視力が低下していて良くわからない。「助けてくれー」男は叫びそうになる。すると後ろから非常ボタンを押したようなベルが鳴り響くかと思うと目の前が真っ暗になった。ふと気づくと先ほどまでいた休憩所に戻っていて、目の前のスマートフォンのアラームがなっていた。どうやら夢を見ていたようであった。

「夢か・・・5分だけだったのにあんなに長い時間を感じるなんて」と小さくつぶやきながらスマートフォンのアラームを止めて休憩室を出る男。いつものようにエレベータホールに来てエレベータに乗るときに先ほどの夢を思い出して少し不安になるが、エレベータはいつもどおりに24Fに止まり、予定通りオフィスに戻る。この後も普通に、時が流れ夕方になり仕事を終えて帰る男。しかし、この時からしばらくの間、エレベータに乗ることに対して若干の不安と抵抗を感じることになるのだった。(完)

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