自殺学校の入学式の時期ですねぇ

ちびまるフォイ

自殺学校の卒業入学式

「であるからして、最も楽な死に方は実はギロチンだとわかったのです」


自殺学校の5時限目の授業が終わるとみんな片づけをはじめる。

お互いに別れの挨拶を済ませて下校していった。


ここは自殺学校。

自殺に関するありとあらゆる知識を学んでいく。


「日本人はもっとも自殺が多い人種です。

 自殺するならもっと正しい知識をもって誰にも迷惑をかけず死にましょう」


これが担任の先生の口癖だった。

この学校ではじめて担任になった3年目の先生でやる気満々。


その暑苦しさには毎日うっとおしく感じながらも日々楽しく過ごしていた。


「あと1ヶ月で俺たちも卒業か」

「さびしいな」


「自殺学校って普通のところじゃ学べないことも、実地研修で身について楽しかったな」


「……そうだな」


思い出せば今まで体験してきた自殺の思い出がありありと蘇る。


なぜか卒業式翌日に行われる

入学式には在校生が自殺をしてみせてくれた。

修学旅行では自殺スポットをめぐった。

文化祭ではクラスで自殺喫茶をやったっけ。


どれもいい思い出だ。


「俺たちも1か月後に自殺するんだな」


友達の言葉を聞いて耳をうたがった。


「え? 1か月後って卒業じゃ……」


「うん。卒業だから自殺するんだろ? どうした、今さら」


普通の勉強しないで済むから入った自殺学校。

その卒業とは学校からではなくこの世からの卒業を意味していた。


「楽しみだなぁ。人生は1度しかないから自殺も1度きりだ。お前、何で死ぬ?」


「れ、練炭かな……」


「っかぁー! 練炭!? しぶい! 最後まで苦しみたいのかよ!」


自殺学校では楽な死に方を選ぶことはダサイ認識だった。

そんなことより1か月後に控えた集団自殺をどうするのか。

友達と別れた後も頭の中はそればかりだった。


「父さん、母さん、死にたくないんだけど……」


「「「 はぁ!? 」」」


僕の提案に両親は声をそろえて反論した。


「いまさら何言ってんのよ! 生命保険かけちゃったわよ!」


「母さんの言う通りだ! お前が死ぬ前提で予定組んでるんだから! わがまま言わずにちゃんと死になさい!」


両親から学校側へ提案してもらおうかと考えていたがこれは無理だった。

子供という金食い虫をお払い箱できるはずの人生設計を、

僕が自殺しないことで狂わされることをひたすらおびえていた。


「わかったよ……死ぬよ……」


「ちゃんと死ぬのよ!」「失敗しないようにな!」


1か月後に控えていたと思った卒業式もどんどん日が短くなり、

食卓に僕の好きなものばかり並んだ日、これが最後の晩餐だとわかった。


「さぁ、好きなだけ食べていいわよ」


「あのさ、やっぱり……」


「なに? またわがままいうのか?」

「そうよ。なんのためにここまで勉強してきたの?」


死にたくない。

その気持ちはますます膨れ上がるばかりだった。


翌日の卒業式当日。

僕は生まれて初めて学校をサボった。


子供のころにつくった秘密基地の中に隠れてひたすら静かにまった。


1日秘密基地で過ごして家に帰ると鍵がしまっていた。

家の中には誰もいない。



『旅行にいっています。 佐藤家』



「俺が死んだ日に旅行……」


卒業式に旅行の準備を済ませて、死んだ日に両行へいっていた。

不謹慎すぎるだろ。


釈然としない気持ちのまま当てもなく歩いていると

自殺学校まで戻ってきてしまっていた。


校庭には新入生なのかちんまりとした生徒がじっと校舎をながめている。

なにをしているんだこいつら。


「なにを見てるんですか?」


「うんとね、うんとね。デモンストレーション!」


意味わからなかったので無視して教室に戻った。誰かいるだろうか。

教室には誰もいなかった。

それどころか机もイスも壁にあった傷でさえ新しくなっている。


職員室にいくと、見知らぬ先生がひしめきあっていた。


「あの、3年1組の担任の先生はいますか?」


「あはは。何を言っているんだね。昨日卒業したじゃないか」


「えっ……先生も卒業するんですか?」


「当然だろ。ここは自殺学校なんだから。それより忙しいから後でいいかな」


友達もみんな卒業してしまった。

頼れる先生すら卒業し、両親は僕が卒業したと思っている。

帰る場所も帰りたい場所もなくなっている。


気が付けば屋上に立っていた。


「この高さからなら確実に死ねる。障害物なし、風向きオーケー」


これまで学んだ自殺知識をもとにただしく自殺できるよう算段を整える。

そして、静かに一歩踏み出した。


恐怖はない。自分が必要とされない世界で生きることの方が恐怖だった。


一瞬の浮遊感のあと、静かに僕は卒業していった。





それを見ていた新入生たちは手をたたいた。


「わぁ! すごい! 本当に自殺した!」


「以上で、在校生の自殺デモンストレーションを終わります。

 みなさん入学おめでとうございます。

 これから3年間明るく楽しい自殺勉強をしましょうね」


「「「 はーーい! 」」」


毎年、卒業式の直後に入学式が行われる。

それは死に遅れた在校生が勝手に死んでくれるのを見せるためだった。

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