【第4章】ニート、戦う
【第二十一話】魔王城、再び
ニートを勝ち取るために、魔王城へと向かっていた俺とセレフ。
アストレアというメイン火力が不在のため、魔王城までの道のりは困難を極めることを予想していたがそんなことはなかった。
あれだけ苦戦した街からの脱出。
今回もクズ門番が立ちはだかるようなら、容赦なく投げナイフをお見舞いしてやろうと思っていたのだが、幸か不幸か彼はスヤスヤと居眠りをしていたので、苦労することは何一つなかった。
前回、投げナイフを食らわしたまま放置してしまったので、正直大丈夫かと心配もしていたのだが、あれだけイビキをかいて居眠りをできるのなら安心だろう。あんなクズを少しでも心配していた俺が馬鹿だった。
続いて、街の外から魔王城までの道中。
アレッタたちから聞いた話しだと、夜分遅くは魔物たちが活性化し危険だということだったが、俺たちが魔物と交戦することはなかった。おそらくここに向かったというアストレアとアレッタ一向が片っ端からなぎ倒してしまったのだろう。道中には生きた魔物こそ遭遇しなかったものの、亡き者ものになった魔物たちの姿ならチラホラと見かけた。
そんなふうに俺たちは意外にも何の障害もなく、すんなりと魔王城までたどり着くことができてしまった。
現在、俺とセレフは魔王城内の廊下を歩いている。一度は来たことがある城内。記憶を頼りに俺とセレフは魔王と武器商人が会話をしていた魔王城最奥の部屋を目指していた。この魔王城に来ているというアストレアとアレッタたちもそこにいるだろうからな。
「あなた、エクスカリバーを今すぐに返しなさい」
そんな俺の考えはドンピシャだったようだ。
最奥の部屋が近づいてくるとアストレアの声が広い廊下に反響して聞こえてきた。
「そうだ。ここで返せば大事にはしない。幸いにもまだ魔王には渡していないようだからな」
アストレアの声に続いて、アレッタらしきものの声も聞こえてくる。
俺とセレフは目を合わせて頷きあう。急いで、最奥の部屋へと向かうことにしたのだ。
最奥の部屋にたどり着く。
前回と同じくように、部屋の入れ口がわずかに開いていた。
とりあえず、俺はそこから中の様子を伺った。
「く……くそっ!」
中にはアストレアとアレッタ。そして騎士団の連中が、例の武器商人を取り込むように迫っている。辺りには魔王の手下たちと思われる魔物の亡骸が転がっていた。例の武器商人を守ろうとして、無残にもアストレアたちの餌食となってしまったのだろう。俺たちがここまで魔王の手下たちに絡まれることがなかったのは、このおかげだろう。
「よりによって、エリアル様がいない時に攻め入ってくるとは……」
彼は大切そうに聖剣を抱えたまま、アストレアたちから距離をとろうとして後ずさりをする。
しかし、それを許すアストレアたちではない。彼に武器を突き立てて詰めっていく。ジリジリと武器商人は逃げ場のない玉座の方へと追い込まれていた。
魔王の手下は全滅し、魔王エリアルは不運にも不在。
絶対絶命の大ピンチに追い込まれた武器商人は最後の切り札をきろうとする。
「こうなったら、もう私がこの聖剣を使って――」
武器商人は抱えていた聖剣を手にとって、アストレアたちに反撃を試みようとしていた。
「まずいぞ!」
それは俺たちが、最も危惧していた事態だった。
何の力もない俺が使ってもキングスライムを倒すことができてしまうほど、あの聖剣の力は凄まじい。いくら武器商人とはいえ、聖剣を発動されるのはまずい。
それを悟ったセレフは指示をするまでもなく【ホーミング】の支援魔法をかけてくれる。
阿吽呼吸。俺もちょうど扉の隙間から投げナイフで助太刀しようとしていたところだったんだよ。流石はうちの有能メイド。
キィーーーンッ。
しかし、そんな俺たちの助けなど必要なかったようだ。
アレッタが神速のごときスピードで武器商人に肉薄。息つかせぬほどの時間でカラフルレインボー振るう。そして見事に聖剣を武器商人の手から弾き飛ばしていた。その間、数秒。聖剣が発動する機会する与えない、完璧な剣撃だった。
「これで終わりだな。聖剣はこちらに渡してもらう」
アレッタが聖剣を失ったことで、崩れ落ちた武器商人に告げる。
弾き飛ばされた聖剣は、俺たちの方まで転がってきた。包囲されている武器商人が拾いに来られる距離ではない。切り札であった聖剣を失った武器商人に手立てはない。彼は両手をあげて、アレッタたちに降参の意を示していた。
「俺たちが来たのは無駄足だったな」
「ですね。ニヒト様の言う通りだったかもしれません。申し訳ありません」
「いや、セレフが謝ることはないぞ。むしろ感謝している。何せ終わりを無事に見届けることができたんだからな」
俺たちの前に飛んできた聖剣。それはまごうことなき俺の聖剣だった。
これのおかげで色々とあったが、これで終わりだ。後はアレッタたちに任せよう。
国家転覆罪の処分が降るなら、それはそれでどんとこいだ。
俺とセレフが終わりを確信していた、その時だった。
「うーん。それはどうかなー?」
いつの間にかいた背後の人物が、それを否定してきたのは。
「だ、誰だ!?」
突然として降ってきた声に驚いた俺とセレフ。
俺たちは、咄嗟に声のした方とは逆方向に飛んだ。
無事に距離を取ることに成功した俺たちは、声の主の姿を確認する。
そこにいたのは魔王の手下でも、魔王エリアルでもない。
「え、エリア……さん?」
エリアさん。宿屋の看板娘のエリアさんだった。彼女とは二一◯号室で別れたはずだったのだが……。
「なんで、あなたがここに……?」
俺はエリアさんに恐る恐るに尋ねる。
俺たちが来るまでの間、確かに魔物は一匹もいなかった。となれば、冒険者でも騎士でもなんでもない宿屋の受付嬢がここまでたどり着くことも不可能ではないだろう。
仮にそうだしても。何の用事があってエリアさんはこんなところにいるんだよ。
「ん? なんでって?」
俺の問いかけに、エリアさんは指を口元に当てて、考えるような仕草を見せた。
一見すれば、可愛らしい仕草なのだろうけれども、俺には嫌な予感しかしていなかった。
「ここが――私の実家だからかな?」
それはエリアさんが受付嬢として働いている時とは違う、悪い笑顔を浮かべていたからだった。
エリアさんは事態を理解できずに惚けていた俺たちにそう言い残すと、何の躊躇いもなくアストレアやアレッタ、騎士団に武器商人がいる室内へと足を踏み入れていく。
「貴様っ! 何者だ!」
いち早くエリアさんが入ってきたことに気がついたアレッタが声を荒あげ、それにつられたアストレアや騎士団の連中が、エリアさんに目を向けた。
しかし、エリアさんは何の躊躇も見せない。彼女は不敵に笑って、比較的俺たちの近くに飛んできていた聖剣の元へ、ゆっくり歩み寄っていった。そして、エリアさんは聖剣を遊ばせながら拾い上げた。
「え、エリアル様っ!」
そんなエリアさんの様子を見た、武器商人が水を得た魚のように、声をあげた。
エリアル様? そこにいるのは紛れもない宿屋の一人娘、エリアさんだぞ? あの武器商人は一体、何を言っている――。
半ば分かっていながらもそうだとは信じたくなくて、俺は必死に否定する。
しかし、それは当の本人によって肯定されてしまう。
「ただいま。お待たせしちゃったね」
魔王エリアルは、宿屋の看板娘エリアさんだった。
これだけでも最悪の現実だというのに、さらに現実は非情だった。
「さて。ここからはこっちの反撃の時間かな?」
魔王エリアルの手には眩い光を放つ聖剣エクスカリバーの姿があったのだった。
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