23 名無しの担当
快晴で雲ひとつない空の下、私は馬車の前でいがみ合う二人を見つめる。
当然、シャーレイとバランである。
そういえば前回はギルドマスターの登場で結局決着が付かずに終わってしまっていたのでこうなることは必然か。
同じ馬車に乗ることが判明した途端にこれなのだから、帰ってくる頃にはどちらか片方が『不慮の事故』とかでいなくなっていてもおかしくはない……。
いや、困るんだけどね。
頼むから現地で殺し合いとかはしないでください。
バランに対しては本来は私が不機嫌になったりするべきなのだが、シャーレイが私以上に敵意むき出しなので怒るに怒れず逆に冷静になってしまう。
私と普通に話せているのでシャーレイは別に人間嫌いというわけでもない気もするのだが、如何せんバランの性格に問題があるからなぁ。
しかし、この組み合わせに全く疑問を持たなかった訳ではないのでどうしても気になりキャロルにそれとなく尋ねてみると、かなりオブラートに包まれたが要するに「ギルド最強格の三人組と最弱三人組で組ませてバランスを取ろう」というギルドマスターの方針なのだそうだ。
ギルドマスターの言うことは実に理にかなっているし実際バランスは取れていると思うので何も言えない。
いつまでも二人の喧嘩を見ているわけにはいかないので、そろそろ止めた方がいいと思った私は隣に立っていたアルに視線を向ける。
彼も同じことを思っていたようで苦笑いしながらバランとシャーレイの元に向かう。
「はいはい二人共、そこまでにしようか」
「出発時刻は過ぎてるのよ」
「……チッ」
「シャーレイもその辺にしとこう」
「……ナナシが言うなら仕方あるまい」
「バランのことそんなに嫌い?」
あの一件があったにしても嫌いすぎではないだろうか?
「本能的に嫌悪している」
本能的にか。
それはもうどうしようもないわ。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
ガタガタと揺れる馬車で二時間ほど。
馬車の御者が目的地が見えてきたと言うので読んでいた本を閉じ、御者の後ろから顔を覗かせると私がいた村よりも幾分か大きな村が見えた。
バランとシャーレイはお互いの存在を無視することにしたらしく、意外なことにもめ事は一切起きなかった。
ノラに関してはいつも通り、無言で私の隣に座っていた。
馬車を降りてアルの後をついていく。
村の中も人数が多く活気があり、人々の中にちらほらと首輪をつけた獣人を見かけ、ついそちらに視線を向けてしまう。
兎のような耳を持つ女性の獣人が主人であろう若い女性と一緒に洗濯をしていたり、狼のような獣人の男性が人間の男性と力仕事をしていたりと色々だ。
色々なところに視線を向けつつも私は置いて行かれないように足を動かす。
後ろをついて歩いていると、かなり年季の入ったお屋敷にたどり着いた。
お屋敷の入り口にはメイド服を身につけた若い獣人の女性が立っており、私達に恭しく頭を下げる。
内心、本物のメイドさんにちょっとテンションが上がったのは内緒だ。
「ギルドの方々ですね、お待ちしておりました。 私はこの屋敷のメイド長『トリム』と申します」
朱色の髪と瞳をした獣人のメイド、トリムさんは長い髪をポニーテールにしており物静かながらどこか活発さを感じさせる。
そんな彼女が屋敷に案内しようとした時、私の前を歩いていたアルの足に何かが飛びついてきた。
「お嬢様!」
「おにいちゃん、私と遊びましょう!」
アルの足に飛びついた女の子はトリムさんが言うにはお嬢様。
つまりはこの屋敷の娘さんだった。
トリムさんが謝る中、「大丈夫ですよ」と言うとアルは笑顔で女の子に視線を合わせるようにしゃがみ、女の子の頭に手を置く。
「ごめんね、今からキミのお父さんと大事なお話をしなくちゃいけないんだ」
「えぇー」と女の子が不機嫌になっていく。
それを見てアルは「だからね」と言って私の方を見た。
「このお姉ちゃん達と遊んでてくれるかい?」
――そうくるか、一本取られた。
女の子の方は「このおねぇちゃんたちと?」とこちらに視線を向けてきた。
おっと、つまり私とノラとシャーレイの三人ということになるのか。
とてとてと歩いてきた女の子は「あそぶ?」と言って無垢な瞳で私を見上げる。
困った私はアルの方を見るが、ウインクを返された。
なんでそんなにウインク綺麗にできるんだよ、アイドルかよ。
「――うん、遊ぼうか」
ここで断るのもなんだか可哀想に思い、潔く子守を引き受けることにした。
私の一言に女の子はパァアっと明るい表情になり「じゃあこっちよ!こっち!」と言って少女は私の手をぐいぐいと引っ張って急かしてくる。
そんな私達を見ながらアルとバランとキャロルの三人はトリムさんに案内されて屋敷の中に消えて行く。
この子の父親ってことはこの街のボスと話すんだよね?
細かい段取りとか全然聞いてないんだけど後できちんと説明はあるのだろうか、流石にないと困るよ?
内心色々な不安を抱きながらも目の前の少女に促されるまま、とりあえず流れに身を任せて私達の足はアル達とは反対に向かって歩き出した。
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